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キモオタの僕と七人の妹~許嫁はドSで無慈悲な科学のお姫様~  作者: 万卜人
十二章 バック・トゥ・ザ・オタク
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「ガッツ島から流可男を助け出すだと? 何をとち狂ったことを言っているんだ?」

 朱美は猛獣のような唸り声で、アイリス加藤の提案を一蹴した。小柄で、身長百五十センチ、アニメのキャラ表から抜け出してきたような美少女だが、唸り声は迫力満点だ。もっとも朱美の唸り声をまともに聞いているアイリスは、まるっきり平気な表情でいる。

 ここは真兼病院旧館、朱美の研究室。連載を抱えている崎本美登里は編集者の神山と共に帰京し、アイリスは真兼町に残った。

 スーツアクターの桃華は、次の仕事が控えているため、社長の大倉美祢子と共に真兼町を離れた。

 新山檸檬、蜜柑の姉妹は、テキパキと朱美の研究室の掃除を続けている。床を箒で掃き清め、モップを持ってきて磨き立てていた。十年間、一切掃除を怠ってきた朱美の研究室は、徐々に人間らしい住まいに変貌していた。

 アイリスは唇を尖らせ、朱美に抗議した。

「そやけど、ウチら流可男はんの〝妹〟やで! 何かあったらウチら、お兄はんを助けなきゃならんのや」

「馬鹿馬鹿しい」

 朱美は苦り切った。

「その〝妹〟ってのは何だ? 何でオイラたち全員、流可男の〝妹〟なんだ。第一、アイリス、お前さんは流可男より年上なんじゃないのか?」

 掃除の手を止め、双子姉妹が笑いながら朱美に声を掛けた。

「リームを演じていた桃華ちゃんも、年上だけどしっかり〝妹〟の自覚はありますよ」

 双子の言葉に力を得たのか、アイリスはぐっと朱美に顔を近づけた。

「そや! 年齢が上とか下とか、全然関係あらへんのや。ウチら、魂で流可男はんの〝妹〟なんや。あんたはんも、佐々木藍里の言葉を聞いたやろ?」

 朱美は「助けてくれ!」とばかりに両手を上げ、天井を見上げた。

「オイラは忙しいんだ……」

 呟き、それまで座っていた椅子に座りなおすと、目の前のデスクに身を屈めた。朱美の手には端末があり、しきりと画面のタッチ、スワップを繰り返している。

 アイリスは朱美の手許を覗きこんだ。

「さっきから、何やってんのや?」

 朱美はアイリスに顔を向けず、吠えた。

「銀河番長ガンガガンの続きを描いている。オイラがガンガガンの作者だって、知っているだろう?」

 アイリスは驚きの声を上げた。

「そんなんで描けるのや?」

 朱美はアイリスに向けて、端末画面を翳{かざ}して見せた。

「オイラがプログラムした、全く新しいマンガ制作ソフトだ! キャラクターと背景は全部3Dで用意して、あらゆるポーズをプログラムしている。あとはシナリオごとに配置すれば、画面は出来上がりだ。画面はオイラの開発したアニメ・シェーディングで、ペンで描いたマンガと同じ仕上がりになる」

 朱美の示した画面には、マンガの駒割りがなされたマンガ画面が表示されていた。朱美が誇らしげに語ったように、ペンで描いたと同じようなペンタッチで、肉筆のマンガとほとんど見分けがつかなった。

 アイリスは感心したように何度も顔を左右に振り、朱美に質問した。

「そもそも、何でマンガを描くようになったんや? あんた、研究で忙しいやろ?」

 朱美はぐるっと腕を振り、自分の研究室を指し示した。

「研究のためだ! オイラの研究には、金が……それも大金が必要だ! 電力を確保するにも金が要るし、資材を搬入するにも資金が要る。マンガはその金を稼ぐための手段だ」

 アイリスは羨ましそうな声を上げた。

「美登里はんがこのことを知ったら、何て言うやろ?」

 朱美は馬鹿にしたように、薄笑いを浮かべて答えた。

「まあ、無理だな。このソフトは、オイラ以外では使えない。こいつを使いこなすには、オイラと同じ知能指数の持ち主が必要だ。崎本美登里には、すでにオイラの執筆の秘密を話している。その時のあいつの顔を、お前に見せたかったぞ」

 朱美はデータを保存し、通信ソフトを開くと、今描いたマンガ原稿のデータをさっさと送信した。手早く端末をしまうと、椅子から立ち上がった。

「オイラが判らねえのは、佐々木藍里とかいう、あの女のことだ。出し抜けに現れたかと思うと、いつの間にか姿を消しやがった。いったい、あの女の正体は何だ!」

「そんなに知りたいですか?」

 涼し気な声に、朱美は素早く振り向いた。

 出入り口に、亜麻色の髪の毛を複雑な形に編み上げた、すらりとした姿かたちの女性が立っていた。

 朱美は薄笑いを浮かべた。

「そろそろ御出ましになる頃だと思ってたぜ。つまりは本当のことを、オイラに明かすつもりなんだろう?」

 藍里は朱美の言葉に頷き、真っ直ぐ近づいた。

「その通りです。今まで自分の正体を隠していたのは、時期が来ていなかったからです。ようやく、その時がいたりました」

 朱美は「へっ!」と軽く笑った。

「大げさな奴だ」

 藍里は朱美をじっと見つめ、静かに話し掛けた。藍里の視線に、朱美はなぜか胸の底にじわりと騒ぐものを感じた。

「以前、朱美さんはわたしの正体を探るために、その眼鏡を使いました。その時の記憶は、消していますから、憶えていらっしゃいませんでしょう。でも、今ならすべてを明らかにできます。遠慮なく、その眼鏡を使ってください」

 朱美は、怒りに自分の血液が沸騰して、頭にどっと血が昇るのを感じた。

「オイラの記憶をいじったのか! なんて奴だ! よし、そのまま動くな。今、お前の全身をスキャンしてやる」

 朱美は眼鏡の縁に指先を触れ、走査機器を起動させた。眼鏡の端に仕掛けているレーザー発振装置が、一瞬で藍里の全身をくまなく走査した。

 眼鏡のレンズに表示された様々な数値や、走査された藍里の姿に、朱美は驚愕のあまり、あらんかぎり声を張り上げ、叫んでいた。

「そ、そんな! こんなことって、有り得ねえ!」

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