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 僕は全身を貫く驚きに、硬直したまま立ち尽くすばかりだった。

 しばしば僕の危機的状況に現れる佐々木藍里が姿を見せたと思ったら、以前「蒸汽帝国」というゲームで顔を合わせたプレイヤーのアイリスが、今度は現実世界に偶然居合わせる。

 さらには「銀河番長ガンガガン」の作者が真兼朱美らしいという驚愕の事実。

 僕は朱美に噛みつくように話し掛けた。

「どういうことだ。朱美がまさかガンガガンの作者だって、ちっとも知らなかった」

 朱美は煩そうに肩をすくめた。

「当たり前だ。誰彼構わず、触れ回ることじゃないからな」

「一体、いつ、マンガなんか描けたんだ? 僕は朱美がマンガを描いているところなんか、一度も見たことないぞ」

 朱美は得意そうな表情になると「へっ!」と鼻で笑った。

 僕は知っている。

 朱美がこんな表情になると、絶対真相を明かすことはない。まあ、気が向いたら話すだろうが、それまでは謎のままだ。

 足音が近づき、さっきまで司会をしていた女性が緊張しきった様子でこちらにやって来たところだった。

「どうしたの桃華ちゃん、ショーを途中で放り出すなんて」

 リームの衣装を身に着けた桃華と呼びかけられた女の子が、ばつの悪そうな表情になった。

 彼女は小柄で、顔つきも幼く、どう見てもショーに出演するよりは、ガンガガンを精いっぱい応援している小学生の中にいた方が相応しそうな印象だった。

 桃華に話し掛けた女性は、僕らの視線に気づくと愛想のよい笑いを浮かべ早口に自己紹介を始めた。

「御免なさいね。わたくし、ショーの運営と演出を手掛けている大倉美祢子と申します。この松野桃華さんが突然、ショーから飛び出したので、心配になって……」

 すると朱美がズイ、と一歩前へ出て両手を腰にやり、大倉美祢子と名乗った女性に話し掛けた。

「ショーは中止だ! これからオイラたち、すこしばかり面倒くさい話し合いが必要だから、そこの桃華という娘も必要なんだ」

 美祢子は朱美の横柄な口調に驚いた様子で、ちょっと呆気に取られた表情を浮かべたが、それでも即座に立ち直り聞き返した。

「あなたはどなた?」

 朱美は胸を張った。

「オイラは真兼朱美。だが紅蓮というペンネームで、銀河番長ガンガガンを連載している。つまりは原作者だよ! 原作者のオイラがショーを中止しろと言っているんだ。聞き分けのいいところを見せてくれてもいいだろう?」

 美祢子が朱美の強引な理屈に圧倒されていると、それまで沈黙を守っていた、例のジャガイモに目鼻の男が立ち上がり、口を挟んできた。

「ちょっと待ってください。わたしは少年マックスの編集部員をしている、神山という者ですが、あなたが紅蓮さん?」

 朱美はじろりと神山を見た。

「そうだ。疑うのか?」

「失礼ですが、何か証拠がありますか?」

 朱美は「ちっ!」と舌打ちした。ごそごそと制服のポケットに手を突っ込むと、一枚のメモリーカードを取り出した。

「こいつを読みこめば判る。確か崎本美登里との打ち合わせと一緒に、次の連載分を受け取るはずだったな」

「おお!」

 神山は気色を浮かべた。

 朱美からカードを受け取ると、早速手持ちの端末を使って画面を確認した。僕は端末の画面を覗きこんだ。

 確かにガンガガンの見慣れたマンガの原稿が、画面いっぱいに表示されていた。

 神山は満面の笑みで、今にも小躍りしそうな様子で何度も頷いた。

「確かに、次の連載分です。有難うございます!」

 夢中になって画面を確認している神山から、朱美は微笑みを浮かべている藍里に向き直った。

「さてと、そろそろ説明してもらおうか。お前は佐々木藍里。ゲームのキャラクターだそうだな?」

 藍里は深く頷いた。浮かんでいた微笑は消え去り、真面目な顔つきになって口を開いた。藍里のただ事ならぬ様子に、その場の全員が注目をした。

 藍里は背を伸ばし、僕らに向かって口を開いた。

「わたしは佐々木藍里。ゲームのキャラクターです。ですが、本当の名前は〝ニュン〟! 明日辺流可男様の〝妹〟です」

 藍里が宣言した〝ニュン〟という名乗りは、僕らの心の奥深くにジーンと染み入った。それは単なる音声ではなく、藍里の口から発せられると魂の深いところに響いていた。

 藍里は一人一人の顔を見詰め、次々と語りかけた。最初は崎本美登里だった。

「あなたの本当の名前は〝グム〟。その思考は重厚で、決して間違うことはない。賢者にして偉大な戦士」

 次に話し掛けたのはアイリスだった。

「あなたは〝キーシャ〟。あなたの内部には光が満ちている。あなたの心は喜びに満ちて輝きを放つ」

 藍里は新山姉妹に向き直った。

「あなた方は一つの魂を分け合っている。その名前は〝ノース〟。元々は一つの魂のため、二つの魂はいつも響き合っている」

 次にリームの衣装のままの松野桃華に向き直った。

「あなたの〝リーム〟という名前は、魂の名前。その力は本質的には癒しの力」

 一通り宣言し終えると、藍里は朱美に向き直った。朱美は薄ら笑いを浮かべた。

「オイラにも本当の名前があるっていうのか? 馬鹿々々しい!」

 朱美の軽口にも怯まず、藍里は静かに語りかけた。

「あなたは〝フォン〟。炎の化身。その髪の毛も、性格も本来の魂が外に出たもの」

〝フォン〟と藍里の口から音声が出た瞬間、朱美はグイッと何かに引っ張られるように仰け反った。顔色は蒼白になり、両目が飛び出るばかりに見開かれた。

 藍里は全員の注目を浴び、高らかに宣言した。

「あなた方は流可男様の〝妹〟。なぜなら、この宇宙が開闢する以前から、魂の段階で結びあっていた絆なのです!」

 藍里の言葉に、全員が僕を注目した。彼女たちの視線は、僕が今まで体験したことのない種類のものだった。

 僕は今まで、異性にこのような目つきで見られたことはない。アイドルを熱っぽく見詰める、ファンの視線、というべきか。

 だが、その中でただ一人、朱美だけは違っていた。

「おいおい……何だか話が神がかってきやがったじゃないか。オイラはその手のインチキには乗らないことにしている」

 朱美の放言に、他の全員は一瞬、身体を強張らせた。しかし藍里は穏やかな微笑みを浮かべただけだった。

「いずれ朱美さんも自分の本当の姿に気づく時が来ます」

 藍里の答えに朱美は顔をしかめ「ちっ!」と舌打ちをしただけだった。

 その時、のしのしという重々しい足音が近づき、辺りを圧する大声が響き渡った。

「全くだ! お前ら何かの宗教団体じゃねえのか?」

 ギョッとして声の方向を見ると、真っ白なタンクトップの巨漢が、爛々とした眼光で僕らを睨みつけていた。巨漢は頭に軍帽を被り、膝まで達する革靴を履いている。

 僕はその顔に見覚えがある。

 さんざん政府のオタク撲滅運動のテレビ番組に、コメンテーターとして出演していた青少年健全育成突撃隊の隊長。

 その名は赤田斗紀雄。

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