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「真兼町? どこにあるんだ、その町は」
部下に向かって、赤田斗紀雄は苛立たしく問い返した。明らかに不機嫌そうな赤田に対し、報告した部下はしゃっちこばって早口に正確な住所、県名などを立て続けに喋った。
ここは青少年健全育成突撃隊本部の、隊長室である。赤田は今回、ガッツ島への赴任を命ぜられ、部下への引継ぎ、資料の整理など雑務に追われていた。赴任命令があれば、体一つで移動できる部下と違い、隊長職にある赤田は色々と面倒な事が多いのだ。あと一週間でガッツ島へ行かなければならないのに、残る業務は山のようにあり、赤田は毎日目の回る忙しさだった。
「それで、俺にどういう報告があるんだ」
部下に追って尋ねると、報告に来た部下は背筋を伸ばした。
「隠れロリコン犯の通報であります! 通報によると、同地の男子高校生がロリコンオタクであることが疑わしいという同級生の女子による通報がありまして……」
「馬鹿野郎!」
赤田の怒りが爆発した。
「そんな細かいことをいちいち報告に来やがって。同級生の女子が通報しただと? 大抵、クラスのキモオタ男子を排除したいモテない女子が、うっぷん晴らしで通報したに違いない。そんなことは、現地の県警に任せておけばいいんだ」
部下は身をすくめて赤田の叱声に耐えていたが、赤田の言葉が途切れると再び顔を上げた。
「実はもう一つ、報告したいことがあります! 例のメイド喫茶の重要参考人についての情報ですが……」
「何っ?」
赤田は身を乗り出し、両目を思い切り見開いた。
「あの女の情報があるのか?」
「はっ! 真兼町界隈で、目撃情報が相次いで寄せられております」
「ふーむ……」
どさりと赤田は椅子に腰を落ち着け、考え込んだ。
そもそもガッツ島赴任を命じられた切っ掛けは、阿佐ヶ谷にあるメイド喫茶への強制捜査の際、大量のオタク犯を取り逃がしたという失策にある。突撃隊隊長、赤田斗紀雄直々の捜査に関わらず、現場にいたオタクたち全員を逃がしてしまった。
後で赤田は現場に設置されている監視カメラの映像を取り寄せ、じっくりと見返してみた。膨大な量の映像の中に、長い髪の毛を複雑な形に編み上げた女の姿が混じっていた。
その女の現れた現場では、突撃隊員が謎の昏倒を起こして倒れていたり、記憶障害を起こしていたりした。
赤田もその一人だった。
絶対にあの女は、逃走劇に関りがある!
それは赤田の直感だった。
赤田は映像の女の顔を拡大し、顔認証システムで検索をしてみた。
が、該当する女オタクの名前は、ただの一件も存在しなかった。検索範囲を、一般に広げても同じだった。
これはあり得ない事態だった。
全国、総ての国民の顔と名前は、政府の一括管理のもと集められ、最新の顔認証システムにより、顔写真一枚あれば、即座に検索できるようになっている。
そのシステムによれば、映像の女は存在しない。が、赤田たちは女によって手酷い失態を犯している。
名前も判らない女を、赤田は独断で重要参考人として全国手配していた。全国にある突撃隊支部には、女の顔写真が送信され、突撃隊員たちにより監視が始まっているはずだった。
赤田は報告に来た部下を見上げた。
部下は無言で待っていた。
「最初のオタク高校生男子、何のつもりで俺に報告したんだ?」
「はっ! 実は例の女の姿が、そのオタク男子高校生の周辺で目撃されているという報告でして、何らかの関連があるのではないかと愚考いたしまして……」
「ははっ!」
赤田は乾いた笑い声を上げた。
「つまりはあれか、その男子高校生の捜査に事寄せて、ついでに謎の女の捜査もすればいいと、こういうわけか!」
赤田たちにとって名前の判らない女の捜査など、大っぴらに隊員や、警察を動かして捜査をするわけにいかない。そんなことをすれば、突撃隊が笑いものになる。
重要参考人として全国手配をしたことでさえ、赤田は相当踏み込んでいる。
しかし名前も身分も判っている男子高校生相手なら、正々堂々と部隊を動かせ、警察組織も動かせた。
次の言葉を待っている部下に、赤田は大きく頷いて見せた。
「よし、今回は俺自身がその……何と言ったかな?」
「真兼町であります」
「うん、真兼町へ出向く! 特別捜査班を今すぐ編成せよ!」
「了解いたしました!」
大声を上げ、部下は張り切って部屋を出ていった。
残された赤田は興奮で身を震わせ、両拳を握りしめた。
「待ってろよ……俺がこの手で、お前を掴まえてやる……」
さっと立ち上がった赤田は、つかつかと部屋の隅にある巨大な冷蔵庫に歩み寄り、ガバッと扉を開いた。
中にある箱を手に取り、中身の粉をガバガバと口に放り込んだ。むしゃむしゃと口を動かし、ペットボトルの機能性飲料で流し込み、叫んだ。
「ああ~~っ! 今日もプロティンが旨え~っ!」




