7
自分を真兼朱美と自称する少女は、とてもそうとは思えなかった。
髪の毛も真っ赤で、ピンク色の縁をした眼鏡を架けているが、僕の知っている朱美とは天と地ほども違っていた。
まず体型が違う。
彼女はほっそりとした体つきで、女子制服から覗いている手足は、小枝のように細かった。顔も小さく、両目は驚くほど大きくパッチリとしていた。細い顎に、ふっくらとしている形の良い唇。
まるでアイドルのような美少女だ。
その時僕は、微かなアイドリング音を耳にしていた。
振り向くと、ビデオカメラのランプが目についた。
そうだ!
僕はビデオカメラに近づくと、モニター装置を開いた。
僕の動きに気づき、美佐子院長も近づいてきた。女の子もゼリーの塊から抜け出し、全身からたらたらと粘液を垂らして近づいた。
ビデオカメラの再生ボタンを操作して、頭出しをすると再生した。モニターに注射器を手にした朱美の姿が映し出された。
ひとしきり朱美の演説があって、注射針を突き刺す場面になると、美佐子院長は「何てことを!」と呻いていた。
画面の朱美はどて! と尻もちを搗き、床に座り込んだ。僕が現れ、朱美の額に手をやり驚いた様子で画面から消えた。
しばらく画面はそのままだったが、朱美の全身から粘液のような汗が噴き出し、身体が埋もれていった。とうとう朱美の全身はゼリーのような粘液にまみれ、見えなくなってしまった。
早送りすると、僕と美佐子院長が画面に入り込み、ゼリーから女の子を救出する場面になった。
僕と院長は顔を見合わせた。
結論は明らかだ。
同時に僕らは女の子を見た。
この見慣れない女の子は、間違いなく真兼朱美なのだ!
よくよく観察すると、目元口許などに、元の朱美の面差しが残っている。あまりに体格が違いすぎるので想像もできなかった。
新たな姿の朱美は、ぶすっとした表情で僕に命令した。
「流可男、鏡を持ってこい!」
僕は無言で朱美の命令に従い、鏡を探して持ってきた。
鏡を覗きこんだ朱美は、吐き捨てるように呟いた。
「なんてこった! こりゃ、最悪の変身ってやつだ!」
院長は朱美に向かい、宥めるような口調で尋ねかけた。
「どうして、そう思うの? 痩せられたのに」
朱美はキッと院長を睨み、叫び返した。
「オイラはダイエットなんかしたくねえ! オイラは強くなりたかったんだ! こんな細っちい腕じゃ、流可男だって殴り倒せねえじゃないか!」
僕を殴り倒せないのがそんなに不満とは、いかにも朱美らしい意見だ。
朱美は全身にまといつくヌルヌルした粘液に苛立ったように叫んだ。
「ああ! こんなんじゃ、まともに考えることもできやしねえ!」
大股で朱美は研究室から外へ飛び出した。僕と院長も急いで朱美を追った。朱美は旧館から外へ出ると、前庭の水道管の栓をひねり、じゃあじゃあと壮んに水を噴出させ、頭からかぶった。
ぼたぼたと大量の水を滴らせると、制服がぶわっ! と音を立てて膨らんだ。
朱美の制服は様々な機能が搭載されているが、自動で自己を洗濯する機能もその一つだ。繊維を構成する極微装置は選択的に埃、皮脂、汗染みなどを除去し乾燥する機能がある。後はクリーニングしたてのように、さっぱりと新品同様になった。
同時に朱美の全身もすっかり乾いて、濡れてべったりとした真っ赤な髪の毛も、梳かしたてのようにサラサラになった。
僕はつくづく変身した朱美と、母親の美佐子院長の顔を交互に見た。
やっぱり親子だ。




