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 グイグイと僕は朱美に引っ張られ、廊下を歩き回った。途中、朝礼に向かう大賀教諭とすれ違った。大賀は僕と朱美の姿をハッキリと目にとめたが、言葉を呑み込み無言だった。ただ苦々しい視線で、僕らを見送っただけだった。

「朱美、どこへ行くつもりなんだ」

「オイラの研究室だ!」

 朱美は短く答えた。

 僕は先ほどからの疑問を口にした。

「その青痣どうしたんだい? どっかで転んだのかい?」

「え?」と朱美はヒョイと首だけねじ向け、僕の顔をマジマジと見詰めた。早口で僕に叫び返した。

「お前、憶えていないのか?」

 口調には非難の響きがあった。僕は朱美に向けてブンブンと何度も首を振った。

 朱美は唸り声を上げると、再び前方に向き直り足を速めた。ほとんど駆けるようにして、僕と朱美は校舎を飛び出した。

 真兼病院旧館に到着すると、朱美は僕の背中をグイグイと押して研究室へ飛び込んでいった。

「流可男、お前昨日のことを憶えていないのか?」

「昨日?」

 僕はオウム返した。

 朱美は腰に両手を当て、下から見上げるようにして僕に質問した。もっとも朱美の身長は百五十センチたらずなので、誰に対してもそうなるが。

「昨日だよ! この青痣はお前のせいだぞ!」

「ば、馬鹿な!」

 僕は愕然となった。

 何があったとしても、僕が朱美を殴ることなどあり得ない! いったい朱美は何を勘違いしているのだろう?

 僕に向け朱美はいやに静かに問い掛けた。

「流可男、お前、眼鏡はどうした? コンタクトにでも代えたか?」

「えっ?」

 僕は慌てて自分の顔を手で撫でさすった。

 そうだ、僕は眼鏡を架けていない。

 普段は眼鏡なしでは、ほとんど何も見えないほどなのに……。

 そうか、忘れ物とは眼鏡だったのか!

 なぜか朱美の瞳がギラギラと輝きだした。

 悪い予感がした。朱美がこんな目つきになった時は、たいていろくな結果にならない。

「流可男、裸になれ!」

「何だって?」

 悪い予感は的中した。

 僕が躊躇っていると、朱美は地団太を踏んでもう一度繰り返した。

「脱げ! 上だけでいい。さっさと服を脱ぐんだ!」

 僕は朱美の言いなりに上着のボタンに指をかけた。朱美は爛々と両目を輝かせ、僕の動きを観察していた。

 とうとう上着を脱ぎ、下着だけになると、朱美は姿見の鏡を引っ張ってきた。

「流可男、自分の姿を見てみろ!」

 言われるまま僕は鏡の前に立った。

「これが……僕?」

 僕は茫然と、鏡の向こうから見詰め返す自分の姿に見入っていた。とても自分とは思えない。

 でっぷりと脂肪が詰まっていた下っ腹はすっきりと肉が落ち、あろうことか腹筋がくっきりと段を作っていた。薄かった胸にはたっぷりと筋肉が盛り上がり、細かった腕にも瘤のような筋肉がついている。

 まるでボディビルダーのような体つきだ。

 そんな僕の反応を確かめるように、朱美は僕の背後から語りかけた。

「見違えるようだろう、え? どうしてこんなことになったと思う」

 僕は朱美を振り返った。

「理由を知っているのか?」

「そうだ。これを見ろ」

 朱美は今度は、研究室に転がっているモニターを指さした。素早く歩くと、研究室に積み重なっている録画装置のスイッチを入れた。

「オイラは実験する時は必ず記録として、映像を記録することにしている。昨日、流可男にある実験をした時も記録を残してあった。これはその時の録画映像だ」

 モニターが明るくなり研究室に僕と、朱美の姿が現れた。音はなかった。音声は記録されていなかったらしい。

 映像の僕は、ひどく具合が悪そうだった。

 何か朱美に抗議している姿があったが、朱美は当然のように僕の抗議に一瞬も取り合わず、乱暴に僕をテーブルの上に貼りつけた。

 身動きできない僕に、朱美は注射器を持ち出し、ぶっすりと注射針を突き刺した。

 映像で注射針が突き刺さるところを目にして、僕は思わず身をすくめた。まるで記憶になかったが、その時感じた痛みが蘇ってくるようだった。

 映像の僕は、人格が変わったように朱美に向かって攻撃を開始している。僕の拳が朱美の顔面に炸裂し、その瞬間僕は密かに「やった!」と心でガッツポーズをとった。

 すると映像の中に、僕と朱美以外の、もう一人の人影が現れた。

 すらりとした痩身の、髪の毛を複雑に結い上げた美少女だ。身に着けているのは、真兼高校の女子制服。

 すかさず朱美が叫んだ。

「こいつは誰だ? 流可男、お前知っているな?」

 僕は凍り付いていた。

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