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目覚まし時計が「リン!」と鳴り始める直前、僕は素早く手を伸ばし、スイッチを切って騒音を止めた。
ガバリと布団から勢いよく飛び出すと、僕はくるくると体を動かして朝の身支度を完了した。
ダンダンダンと音を立て、階段を二段跳びに降りて一階に向かうと、父親がすでに朝食の用意をしていた。
僕は大急ぎで食卓に並べられた朝食を一気に口に運んだ。
ご飯に味噌汁、鮭の切り身と納豆。
納豆は一気にかき混ぜ、ご飯の上に注ぎ入れて、さらに味噌汁を混ぜて一息に胃の中に流し込んだ。途中、鮭の切り身をガツガツと口中に放り込み、いっぺんに食卓を消化すると「行ってきまーすっ!」と大声で父親に叫ぶと、カバンを掴んで玄関に走り込んだ。父親はそんな僕を呆れたような顔で見送った。
あれ?
なんか忘れ物……?
なんだろう、何を忘れたんだろう。
制服は着ている、カバンも持った。足元はいつものスニーカー。
忘れ物は何もない……。
まあいいか。
グズグズしていたら遅刻する!
僕は玄関のドアを開き、外へと飛び出した。
わっ!
眩しい!
外は上天気、真っ青な抜けるような空に、さんさんと朝の太陽が光を降り注いでいる。
ああ、気持ちがイイなあ!
僕は口笛を吹きつつ、通学路をスキップしながらバス停へ向かった。
ほどなく通学のバスが通りを近づいてくる。バス停で停車し、ドアが開くと、僕は勢いよくステップを上がって車内に入った。
車内にいた真兼高校の生徒たちの視線が、一斉に僕に集まった。
僕はにこやかに彼らに挨拶した。
「やあ、お早う! 今日はイイ天気だなあ! 今日も一緒に頑張ろうな!」
大声で挨拶すると、なぜか彼らは落ち着きなく顔を見合わせ目を逸らした。
どうしたんだろう?
普通に挨拶しただけなのに。
まあ、いいさ。
僕は気にせず、車内の奥に進むと、二人掛けの座席にどっかりと座り込んだ。
僕の様子に、周囲の生徒たちは驚きの表情を浮かべた。何か言いたそうにしているが、僕の顔を見ると顔を逸らした。
外の光景に、なぜか僕は鼻歌が出てしまう。今日は凄く気分が良かった。
数回バス停を通過してバスが停車すると、昇降口のドアが開く。
どやどやと数人の女子生徒たちが車内に乗り込んだ。
ブスな女子生徒たちに守られるように双子の美少女が姿を現し、座席に腰かける僕を見て驚きの表情を浮かべた。
ああ、そうか!
ここは新山姉妹の指定席だった。
僕はさっと立ち上がると、大声で姉妹に向かって声をかけた。
「やあ、御免、御免。ここは君たちのお決まりの席だったね! さあ、今、席が空いたから掛けて!」
夢中で手招きすると、姉妹は戸惑った表情になったがそれでも僕の手の動きに、吸い込まれたように近づいた。
「有難う」
「有難う」
二人は小声で礼を言うと、僕が替わった席に大人しく腰を下ろした。二人とも僕の顔をまじまじと見ている。双子を守る親衛隊ブス軍団も、まるで気圧されたように口を閉ざしていた。
僕は楽し気に双子に話し掛けた。
「君らはいつもこの時間に乗るんだね。高校生活にはもう慣れたかい?」
「はい」
「はい」
と双子は小声で答えた。二人とも顔は真っ赤だった。
「そうかあ!」
僕は大声で叫び返した。
次につるりと意外な言葉が飛び出した。
「ねえ、一度僕とデートしないか?」
双子は僕の言葉に「はっ」とそろえて顔を上げた。両目がいっぱいに見開かれ、顔は驚きに固まっている。
僕は上体を傾け、双子に顔を近づけた。
「ねえ、いいだろう?」
双子はさっと俯いた。
小声で「はい」と答えが聞こえた。
僕は満足げに答えた。
「よし、約束だぞ!」
バスはいつものバス停に停車した。




