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 暗い夜空に松明の行進が長蛇の列を作り、遠くからはバイクの爆音、四輪車のエンジン音が取り巻いた。

 松明を掲げているのは両目だけをくり抜き、全身をすっぽりと覆った真っ白な衣装を身に着けた一団だった。

 周囲には「気合いの入った」服装のツッパリ、ヤンキーが奇声を上げ突撃隊の制服を着用した隊員が鋭い目つきで警戒をしている。

 中央には巨大な焚火が燃え上がり、その中にツッパリたちがフィギアやアイドル写真集、マンガの単行本を投げ入れている。

 腰縄を打たれた一団が、突撃隊隊員に曳かれのろのろと行進をしていた。全員の胸には「ヲ」マークのバッジが留められ、頭には三角帽子を被せられていた。

 会場の一画は一段高くなっていて、演壇が設えられていた。

 演壇に一人の男が姿を現した。

 下半身は突撃隊のパンツを履いているが、上半身は白いタンクトップ姿で、鍛え上げられた筋肉を誇示している。

 突撃隊隊長の赤田斗紀雄あかだときおだった。

 演壇に立った赤田は、会場の全員に向かって声を張り上げた。

「みんなーっ! 根性入れているかーっ?」

「うおーっ!」

 会場から地響きのような喚き声が上がった。

「気合い入っているなーっ!」

「うおーっ!」

 と再び津波のような歓声。

 会場の反応に満面の笑みを浮かべた赤田は「うんうん」と何度も頷いた。

「今月、我々青少年健全育成突撃隊はロリコンオタクを五十名検挙した! これは突撃隊結成以来、最高の成果である!」

「突撃隊万歳ーっ!」

「ロリコンを日本から一人残らず追放しろーっ!」

「オタクはぶっ殺せーっ!」

 会場のツッパリから口々に怒鳴り声が上がった。

 暫くそのまま会場を眺めていた赤田は、タイミングを見計らい口を開いた。

「今日は大変重要なゲストをお迎えしている! 全員、謹聴!」

 俄かに赤田は厳粛な表情になり、会場をゆっくりと見回した。赤田の様子に、それまで口々に喚いていたツッパリ、ヤンキーたちは徐々に静まり返った。

 演壇の向こうから姿を現した人影を認め、会場はざわついた。

「まさか!」

「本当か……?」

「信じられない!」

 と口々にツッパリたちは声を上げた。

 姿を現したのは、すらりとした痩身の、抜群のスタイルを誇る女性だった。服装はフォーマルなスーツで、地味な色合いだったがなぜか人目を惹くカリスマ性を放っていた。

 女性はぐっと演壇で上体を傾け、会場を見渡した。

 自信満々の表情、ハーフかと思うほど彫りの深い顔立ちだが純然たる日本人だ。

 日本国内閣総理大臣朝比奈亜利紗(あさひなありさ)その人だった。

 会場は意外な人物の登場にざわつきは静まらない。

 総理はじっと会場の静寂を待った。

 口は開かず、身じろぎもしなかった。

 ようやく一人、二人と総理の姿勢に口を閉ざし、会場に静寂が支配した。

 静まり返った会場に、総理の声が響き渡った。最初に口を開いた総理の声は低く、注意していないと聞き取れないほどだった。

「現在、日本国は危機にあります……」

 総理の言葉に全員、耳をそばだてた。

「そうです、日本は危険な状況にあります。このままではみなさんのお子さんは、未来を手に入れることは難しいでしょう」

 徐々に総理の声は高まっていく。声の高まりにつれ、身振り手振りが加わった。

「二十一世紀に入って、日本の少子高齢化は亢進しています。この状況が続けば、あなたのお子さんはたった一人で十人のお年寄りの生活を支えることになる! どうです? そんなことになったら、未来は真っ暗じゃないですか?」

 ぐるりと総理は会場を見渡した。

 再び囁き声になり、総理は語りかけた。

「なぜこんなことになったのでしょう? 少子高齢化の原因は何か?」

 会場のツッパリたちは顔を見合わせた。一様にある結論に達したようだった。

「オタクだ! オタクがいるから、少子高齢化が進んだんだ!」

 一人が叫んだ。

 総理は「我が意を得たり」とばかりに大きく頷いた。

「そうです! オタクや、ロリコンなどの劣等国民が日本を破滅に導いているのです。オタクは穢れた遺伝子で、輝ける日本の伝統を踏みにじり、ロリコンはあなた方のお子さんの純潔を狙っている! 絶対に奴らを許すわけにはいかない!」

 会場からどよめきが上がった。総理はさらに激しい身振りで言葉を続けた。

「この日本国を守るのは、あなた方ツッパリ、ヤンキーのみなさんなのです! ツッパリ、ヤンキーは子沢山で、少子高齢化に対する唯一の回答です! みなさん、未来の日本のためたくさんの子供を産み、日本からオタク、ロリコンを追放しましょう」

 総理のアジテーションに、会場の人々は一斉に拳を突き上げ、声をそろえた。

「ヒーナっ! ヒーナっ!」

 朝比奈の「ひな」という部分を繰り返し叫んで支持を表明していた。

 全員の熱狂の中、朝比奈総理は両手を上げ答えていた。

 夜空の中、会場の熱気はいつまでも続いた。

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