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「さあ! 全員、エネルギーを集中させよう! 我らのエネルギーで、次の宇宙を産み出そう」

 指導者の言葉で、全員、球殻を保持していたエネルギーを断ち切った。エネルギーが消滅した瞬間、巨大な球殻の表面に次々と亀裂が走った。見る見る亀裂は広がり、球殻は一瞬でばらばらに分解した。分解した破片は光の速度で周囲に四散し、宇宙を引き裂く〝虚無〟の無慈悲な力に原子の段階まで分解され、たちまち消滅した。球殻の中心で輝いていた太陽もその運命をたどり、僅かな時間で暗黒が襲い掛かった。

 ルールーが、指導者にテレパシーを送った。

「お兄様、わたしの全エネルギーを送ります。どうか素晴らしい宇宙を産み出してください」

 テレパシーを発したルールーは、指導者に自分のエネルギーを送り出すと、満足したように総ての葉を開いた。すると一瞬で、ルールーの全身は崩壊し、〝虚無〟に消えた。

 グムもルールーに続き、エネルギーを放出して消え去った。

 ノースは自分の身体を構成している装置の、全エネルギーを放出した。たちまち表示装置の光が消滅し、その場から消失した。

 リームは全細胞の活動を自ら停止させた。たちまち生命活動が終息し死が襲い掛かった。

 キーシャの結晶体がばらばらに分解し、フォンの光を受けて七色に輝いた。

 フォンの核融合の光が徐々に暗くなった。

「さようならお兄様。次の宇宙で生まれ変わって、再会することを楽しみにしています」

 とうとうフォンの光が消え去り、宇宙は真の闇に包まれた。

 残されたのは指導者と、ニュンのみだった。

 指導者の体の中には消え去った妹たちのエネルギーが充満し、膨れ上がりそうだった。

 ニュンの空間が歪んだ。

 エネルギーを解放する直前、指導者がテレパシーを発した。

「待て、ニュン! 君は消滅してはならない」

 ニュンは驚きのテレパシーを発した。

「なぜです?」

「消滅するのはわたしだ」

 一瞬、ニュンを構成する空間が凍り付いた。

「どういうことでしょう?」

 ニュンのテレパシーは混乱の極みだった。

 指導者は冷静に答えた。

「消滅するのはわたしだ。次の宇宙を産み出すのはきみだ」

 ニュンは沈黙で指導者の命令に報いた。指導者はテレパシーを続けた。

「七つの妹のうち、実体を持っていないのはきみだけだ。わたしですら宇宙の終末で生き残ることはできない。しかしきみなら、無の空間でも消滅せずに、次の宇宙に存在することができるだろう」

 ニュンは激しく動揺し、ニュンが存在する空間が歪みを示した。

 指導者のテレパシーは冷厳な事実を告げた。

「次の宇宙がどのような形になるか、わたしにも予想はできない。第一、宇宙の定数が今の宇宙と同じとは限らない。重力とプランク定数すら、変化するかもしれない。そんな状況では、わたしの存在すらあやうい。だがきみなら、どのような環境でも存在を保持していける。きみなら次の宇宙を託せる!」

 無言のままのニュンに、指導者は優しく語りかけた。

「さあ、わたしと妹たちのエネルギーを受け取ってくれ。そしてきみが次の宇宙を産み出し、生まれ変わり、再び集うわたしたちを見守るのだ!」

 指導者は全エネルギーをニュンの存在する空間に注ぎ込んだ。凶暴な純粋エネルギーの奔流に、ニュンは身震いを押さえきれなかった。空間が裏返り、ぶつかり合い、時の流れが逆巻いた。

 エネルギーを送り届けた指導者は、そのまま斥力の流れに身を任せた。身を任せた瞬間、指導者の存在も無限の時の終末に消滅してしまった。

 後にはニュンだけが取り残された。

 完全な沈黙、もはや時は流れず、空間は存在しなかった。これが宇宙の終末だった。

〝虚無〟は勝利の雄叫びを上げた。

 もはや宇宙にいかなる存在もありえない。完全な終末だった。

 がニュンは残っていた。

〝虚無〟はニュンの存在に気づいた。

 空間が〝虚無〟の怒りにどよめき、きりきりとねじ曲がった。が、ニュンはもともと実体のない空間そのものだったので、まったく影響を受けなかった。

 苛立った〝虚無〟は怒りの声で空間を満たした。それは、こう叫んでいるようだった。

──お前らがいくら新たな宇宙を産み出そうと、我は必ずその宇宙を滅ぼして見せよう。宇宙に物質が存在することは許されない。永遠の無こそ、宇宙の本質なのだ!──

〝虚無〟の恫喝に、ニュンも精いっぱいの力で答えた。

──我らも必ず輪廻転生し、お前の滅びの力に対抗しよう。どんな小さな勝利でも、お前の滅びのエントロピーに勝利した時、新たな宇宙は永遠の生命を約束されるだろう──

 空間は〝虚無〟の嘲笑に振動した。

──そうか。それなら何度でも転生したお前たちを滅ぼしてやる。もし一度でも我の攻撃に勝利できれば、お前たちの宇宙は永遠の生命を得るだろう。もし、勝利できればであるがな……──

〝虚無〟との対決を終えたニュンは無限の極小の空間に潜んだ。一瞬とも、永遠とも言える時が経過した。

 ニュンが潜んだ真空の揺らぎが、次の宇宙を準備した。いわゆる〝ディラックの海〟だ。

 ニュンは自身に蓄えられたすべてのエネルギーを解放し、宇宙を産み出した。産み出された宇宙は次々とチャイルド・ユニバースを産み出し、無限の宇宙を創造した。それは無限の可能性だった。

 無限の可能性から、ニュンは一つの宇宙を選択した。ここならば、ニュンの望む知的生命を産み出す可能性が高い。

 宇宙を産み出したニュンは、ある言葉を高らかに宣言した。

「光あれ!」

 そこに光はあった。

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