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親衛隊が僕を取り囲むと、新山姉妹はペコリと一礼して校門へと歩き出した。一礼したのは親衛隊に向けてで、僕にではない。
姉妹をポカンと見送っていると、親衛隊でもっともブスな女生徒がイライラした様子で口を開いた。
「明日辺、あたいらが話があるんだ! こっちを向けよ!」
僕はオタオタしてしまった。
なんだかもの凄くヤバい感じだ。
「は、話しって、な、なんですか?」
僕に話し掛けたブスは、碁盤のような四角い顎をして、顔中に黒子が散っている。目が小さいため、顔中に散乱している黒子と見分けがつかない。彼女はぐっと僕に近づくと、下から見上げるようにして顔を近づけた。
「おう! あたいらが話をするってのに、なにニヤニヤしてやがる?」
僕は慌てて唾を飲み込み、腹に力を入れた。
そうなのだ。
僕は緊張した場面に遭遇すると、なぜか表情筋が勝手な動きをして、他人にはにやけた顔つきになる──らしい。なにしろ自分では確認できないから確実に言えないが、ちょくちょく同じことを注意される。
二番目にブスな女生徒が、身体全体をゆするような感じで近づいてきた。頭髪を趣味の悪いオリーブ・グリーンに染め、真っ赤な頬紅を差している。真兼高校では女生徒の化粧はOKだ。というより、奨励されている。
生徒手帳に生徒の服装について「気合を入れて」身に着けるようにと、わざわざ注釈されているくらいだ。目の前の女子生徒はかなり「気合」をいれたオシャレをしている。つまりおっそろしく趣味が悪い格好だ。
「明日辺、なにエヘラエヘラしやがるんだ? あたいらを舐めてるんじゃねえのか?」
「あたいらが〝思い出乞食〟だってねえ! 随分、舐めた口を利くじゃないか」
わっ! そんなことまで、僕はバスの車内で口走っていたのか……。
僕は黙り込んだ。
どう言い返せばいいのか、自分でも判らないしどうせ何を言ってもこいつらには気に入らないに違いない。
最初のブスが口を開いた。
「あたいらは新山姉妹に頼まれたんだ。明日辺、おまえ、明日からあのバスに乗って来るな!」
「えっ、どういうこと?」
僕は驚いて、思わず問い返していた。
バスに乗らないで、どうやって登校すればいいんだ?
相手は微かに頷くと話を続けた。
「要するにあの時間にバスに乗るな、ってことだ。新山姉妹と同じ時間帯に、バスに乗らなければいいんだ。一本遅らすか、早い時間に乗ればいい。おまえが同じ時間にバスに乗らなければいいんだ」
二番目のブスが説明を続けた。
「おまえが双子に片思いしてるってことが、許せねえんだよ! とんでもないスキャンダルだ! いいか、これからおまえが双子の視界に入ったら、あたいらが許さないからな」
僕はポカンと口を開け、呟いた。
「そんな無茶な……。なんで僕が双子に片思いしたらスキャンダルになるんだ?」
ブスはイライラと僕に説明した。
「考えてみろよ。あの双子はいずれ十八になったら、アイドルとしてデビューすることは決まってるんだ。そうなったら高校生活について色々調べられるだろう。そんなときおまえが双子に付きまとっていたことが知られたら、どうなる? ロリコンと付き合っていたなんて誤解されたら大変だろう?」
僕は愕然となった。
「僕がロリコン?」
「当たり前だ! おまえのようなキモオタはロリコンに決まってら」
親衛隊の決めつけに、僕は心底怯え上がった。
確かに僕はイケてなく、外見はキモオタそのものだ。ゲームの中では禁じられた同人誌や、美少女フィギアをコレクションしている。もしもそれが知られれば、確実に「ロリコン犯」として逮捕され、考えたくもないが「ガッツ島」への強制送還が待っている。
ただし知られれば、の話だ。
僕は高校生活の中で一切、自分の趣味について漏らすことはせず、ただただ平凡な、詰まらない男子生徒の一人として生活している。
こいつら僕が外見がイケてなく、キモくてオタクっぽいだけでロリコンと決めつけている!
もし双子の親衛隊が僕を当局に「明日辺流可男はロリコンの疑いあり」と通報したらどうなる? 青少年健全育成突撃隊には、ゲーム内での隠しファイルを暴く専門部隊が存在するという噂だ。
絶体絶命!
その時、野太い男の声が緊迫した雰囲気をバッサリと切り裂いた。
「お前ら、遅刻するぞ! 何、チンタラしてやがるんだ」
声の方向を見ると、そこには一見ヤクザか、悪徳不動産業者のような外見の男が立っていた。
ド派手な柄の真っ赤なシャツ、ぴっちりとした白パンツに足元は雪駄履き。頭はツルツルに剃りあげ、薄い色の度つきサングラスを架け、唇には細い髭を蓄えている。
男は大賀太一といって、真兼高校の教諭であり、しかも僕のクラスの担任だ。
大賀は架けているサングラスを指先でちょいとずらし、ギョロリとした三白眼で僕らを睨んだ。
「はいっ! 申し訳ありませんっ! 少し明日辺君と相談することがありました!」
親衛隊のリーダーは直立不動になって大賀に叫び返した。大賀は不機嫌そうな表情になって僕をジロリと見やると、肩をすくめた。
「こんな奴に構うんじゃねえ。さっさと登校しねえか……」
大賀の言葉に、親衛隊たちは大急ぎでその場を立ち去った。
親衛隊が立ち去り、僕ら二人だけになると大賀は「ふん」と鼻を鳴らしゆっくりと校門へ歩き出した。
僕と会話する気すらないらしい。
一応、助かった……のかもしれない。
僕は大賀の後を追い、校門へ歩き出した。




