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 バスは「真兼病院前」のバス停に停車し、真兼高校生徒たちが、ぞろぞろと降車口から降りていった。

 僕の通う真兼高校は、真兼病院の敷地内にある。バス停からはだらだら坂が病院に続いている。坂を上り切って、病院の裏手に回るとそこが真兼高校の校門だ。病院と高校の敷地は小高い丘になっていて、戦国時代には城砦があった。そのため病院の敷地には、城跡の石組みが今でも残っている。

 坂の入り口には自転車置き場と、バイク置き場がある。真兼高校は生徒のバイク通学を認めている。もっとも認められているのは原付に限られているが。

 男子生徒たちは、独特の歩き方で坂を上っていく。足をがばっと蟹股に開き、肩をゆするように前かがみで歩く。

 僕はあんな歩き方は御免だ。

 若いうちから蟹股で歩く癖をつけると、いずれ足の関節がO脚で固まって、年を重ねたあと後悔する羽目になるかもしれない。それに前かがみという姿勢も体に良くない。ああいう歩き方はヤンキーっぽいんだろうが、どう見ても格好いいとはいいがたい。

 とはいえ今の僕の体調は最悪で、自然と頭が垂れつま先を見詰めるような姿勢になってしまう。歩くたびに頭痛が襲い、一歩一歩が難行苦行だ。

 こりゃ、風邪を引いたかな?

 気のせいかぞくぞくと背筋に悪寒が走った。

 ようやく坂を上り切ったが、体力を消耗しつくし、ぜえぜえと息切れがした。背後を振り返ると、真兼町の全景が広がっている。晴天のもとなら爽快な眺めだろうが、朝からの曇天のせいか、町全体が暗く沈んで見えた。とはいえ、僕の視力ではそう細かなところまで視界に入らず、ただぼんやりと見えているだけだった。

 再び高校を目指して歩き出した。

 まず最初に見えてくるのが、真兼病院の旧館だ。

 真兼病院はこのあたりでただ一つの総合病院で、創建の歴史は明治時代にさかのぼる。目の前の旧館は明治時代の建物で、ごつごつとしたゴシック建築のデザインはどことなく東京大学安田講堂を思わせた。昔は旧館の建物に「MASAKANE」のネオンサインが夜中煌々と灯っていたそうだ。

 旧館は今は使われておらず、隣接した新館で来院者を受け付けている。

 どうしようかなあ、このまま病院の建物に駆け込んで「風邪ひいたみたいです!」と訴えようか。

 まさかね。

 洒落じゃないよ。

 肩をすくめ僕は登校のため歩き出した。急がないと、遅刻する。

 もう少しで校門というところで、不意に眼前に新山姉妹が姿を現した。双子は真剣な表情で僕を見つめると、声を発した。

「明日辺流可男さんですね?」

「二年生の」

 一人が口を開くと、もう一人が続けて声を発した。どっちが檸檬か、どっちが蜜柑? 声もまったく同じで、いつになったら判別できるようになるんだろう。

 実をいうと、双子姉妹の声を聴いたのはこの日が初めてだ。

 すんげえ、可愛い声!

「はっ、はいっ!」

 僕は下級生の双子に対し、カチンコチンに緊張していた。

 なんだろう、なんで僕に双子が声をかけてきたんだろう?

 あり得ない。

 あり得ないことが起こっているが、でも僕は何も考えられなかった。とにかく双子に声をかけられただけで、僕の気持ちは成層圏まで舞い上がっていた。

「お話があります」

 檸檬か、蜜柑かどちらかの言葉に、僕はオウム返しをしてしまった。

「お話──?」

「そうだ、お話だよ!」

 出し抜けに、僕の背中から別の声が聞こえてきた。

 振り向くと新山姉妹〝親衛隊〟のブス女生徒軍団が、僕の退路を阻むように取り囲んでいた。

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