2
通学バスともなると、座席は各々の場所というのが決まってくる。誰がどう、というのではないが、いつもの場所が空いていて、同じ座席に必ず席を取るようになる。
新山姉妹の席も決まっていて、進行方向左側二人掛けの席に、いつものように並んできちんと膝をそろえ座った。
双生児だからまったく同じ顔だ。どっちが檸檬で、どっちが蜜柑か。多分、髪に付けているリボンの色で見分けるのだろう。もちろんオレンジが蜜柑で、黄色が檸檬だ。
二人は今年新入学した一年生で、残念ながら僕とは学年が違うから、顔を見ることが出来るのは通学時間のみだ。
夢中になって双子を見詰めているのは僕だけではない。バスに乗り合わせた男子生徒……いや、女子生徒も一人残らず、双子の美貌に心を奪われ、うっとりと視線を外せなくなっている。
二人の身に着けている真兼高校女子制服は、他の女子生徒たちとは違って一切、改造を施されていない。少々、スカートの裾を上げているくらいだ。だが一流のデザイナーが、二人のためにデザインしたのかと思うくらい、制服姿は似合っていた。いや、何を身に着けても、どんなモデルにも負けないくらい似合うだろう。
双子の前後の座席には、ド派手な化粧をしたブスの女子生徒が四人座っている。近くには、同じようなブスの女子生徒が双子を守るように立っていた。
周囲にいる女子生徒たちは〝親衛隊〟だ。双子に近づく男子生徒をことごとく排除するため結成されている。うっかり男子生徒が双子に近づこうとすると、周りを取り囲んでいる親衛隊に阻まれてしまう。
僕はブス〝親衛隊〟を「アイドル小判鮫」とひそかに名付けている。姉妹はいずれ正式にアイドルとしてデビューするだろう。その時「あたいらはあのアイドルとマブダチだったんだ!」と自慢するため、姉妹にひっついているのだ。
そんなにいい思い出が欲しいのか? お前たちは「思い出乞食」だ! ちょっとでも残念な経験をすると、損をしたと思う心の卑しさを僕は軽蔑する。
ああ、そうだろうよ、お前ら新山姉妹とマブダチだという思い出を大切にすればいいさ!
もっとも姉妹の方は親衛隊をマブダチだと思っているのか疑問だが。
僕は親衛隊の女子生徒たちから睨まれないよう、双子から視線を外した。僕のようなキモオタ男が双子に関心を持っているのは、親衛隊にとっては許されないスキャンダルだ。ただし車内にいくつか据えられている凸面鏡を使って、こっそり双子の姿を確認する。
双子の美少女か……。
そうだ「蒸汽帝国」で作成する次のパートナー・キャラは、双子の美少女にしよう! パートナー・キャラを作成するための経験値は百万単位が必要だが、戦闘を五、六回請け負えば何とかなるし……。
藍里を失ってすぐ、次のキャラを考えるなんてどうかしているんじゃないか? とツッコミが入りそうだが、それはそれこれはこれ。僕にとって本来の自分は「蒸汽帝国」の中にある。
いいなあ……。
もし双子のキャラを作成できたら、もう、戦闘なんかしないでゲームの自室でラブラブな生活に浸るんだ……!
HMDでゲームに入り込むと、僕を双子の美少女が出迎えてくれる。衣装はやっぱりメイドさんかな? でもって声をそろえて「お兄ちゃま、待ってたんだよお! どうして毎日、来てくれないのお……」なんて鼻声で訴えるんだ。
僕はニヤニヤしながら「よしよし、お前たちそんなに俺様が来るのが待ち遠しいのか。仕方ないやつだなあ……」なんて上から目線で答えたりしちゃったり──。
どうしようかなあ、作成する予定の双子美少女の名前、本当は檸檬と蜜柑にしたいんだが、それはそれでマズい気がするなあ……。
はっと気が付くと、車内の全員が僕をマジマジと見詰めている。全員の目つきは、僕に対する嫌悪感で満ちていた。
しまった!
つい、今までの妄想を口に出して、喋っていたんだ……!
双子姉妹もまた、僕の様子を気味悪そうな表情で眺めていた。僕が双子に視線をやると、まるで電気に触れたかのように、全身をビクリッと震わせ、お互いひし、と抱き合った。
あーあ……。
本当に僕はキモオタです。




