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気分は最悪だった。
けたたましく鳴り響く目覚まし時計に叩き起こされ、僕は朦朧とした頭を抱えつつ、登校の用意を始めた。
今日は平日で、高校へ行かなくてはならない。何しろ僕は真兼高校の二年生だ。
あれから僕は、藍里を蘇生させるべく、あらゆる手段を試した。だが無駄だった。一度消滅したら、ゲームのNPCは復活させることは出来ないのだ。
結局ほとんど眠ることもできず、僕はガンガン痛む頭を抱え、家を出た。
僕の家は幹線道路からちょっと引っ込んだところにあり、国道へ出るとすぐにバス停に行き当たる。
空を見上げると、今朝の僕の気分そのままのどんよりと雲が分厚く垂れこめた曇り空。
雨が降りそうだ。
天候が崩れそうになると、僕の耳は痛む。気圧の変化が原因なのか、高い山に登ったり、エレベーターで急上昇した時のように耳鳴りがする。
国道沿いには様々な店舗が並んでいる。
コンビニ、ファミレス、衣料品や日用品の量販店。どこの田舎にもある、お馴染みの風景だ。都会にないのはコメの自動精米所くらいのものだろう。
バス停で待っていると、ほどなく真兼高校行きのバスがやってきた。
僕は腕時計をしていないが、時計を見なくとも時間は判る。二年も高校に通うと、毎日のルーティンで、一分と狂わずバスを待つようになる。
いつものようにバスが停車し、僕は整理券を取って車内に乗り込んだ。バスの内部は真兼高校の生徒で占められている。
車内に入り込むと、むっとするような澱んだ空気が僕を襲う。
大半は生徒たちの整髪料の匂いだ。
ポマード、チック、ヘアスプレー、それに何だかわからない香料の匂いが入り混じっている。
男子生徒はリーゼント、あるいはオールバック、などの髪型で、女生徒も前髪をおっ立てた商売女のような髪型や、ポニーテールやツインテールにしている。それだけならまだましだが、その髪を赤、黄色、青、緑、紫、オレンジと考えられる限りの色で染めているので、慣れていないと目がチカチカする。
もちろん髪型だけでなく、彼らの身に着けている真兼高校の制服は、誰一人としてノーマルに着こなしてはいない。男子生徒は制服の裏地をド派手な柄にしていて、上着やズボンも細く、あるいはぶっ太く、はたまた極端に長かったり、短かったりして何だかノーマルで身に着けていると恥とでも思っているようだ。女子生徒も同じようなものだ。
僕がバスの車内に乗り込むと、それまで談笑していた生徒たちが一斉に黙り込み、陰険な目つきでこちらを睨んでくる。その視線は無言で「てめえ、何しにこのバスに乗り込んだんだ!」と非難しているようだ。
僕は目を逸らし、窓外に視線をやった。
知らない、知ーらない! 僕は君らなんか一切関わりないし、興味もないもんね!
窓の外に真兼町ショッピングモールが通り過ぎた。正面入り口辺りに「銀河番長ガンガガン」のイベント告知の幟がはためいていた。
そのうち、再び車内は生徒たちの交わす雑談で騒がしくなった。もちろん、僕に対して話し掛ける生徒は一人もいない。
車内は空いていて、座ろうと思えば座席に腰を下ろすこともできるが、僕は座ったことはない。もし座席に腰を下ろそうとしたら、たちまち猛烈な非難の声が上がるだろう。
「オタクが人並みに座ろうなんて、百万年早いぞ!」と。
へえへえ、あっしは人間以下のオタクで御座います。あんたらお偉いツッパリ、ヤンキーとは人種が違いますから、間違ったって座席に座ろうなんて考えません!
だから僕はつり革を掴んで、立っている。
バス停をいくつか通過して、バスは停車した。
来た!
僕の心臓は高鳴り、血液は轟音とともに脳味噌に駆け上った。
来た、来た、来たよ!
彼女たちが!
僕は直立不動のまま、顔を窓外に向け、横目だけ使ってバスの乗車口を見た。
そこだけ華やかな色彩が弾けたようだった。
なんだかふわっと、良い香りが漂うようだ。
乗車口から乗り込んできたのは、真兼高校女子生徒の制服を身に着けた、二人の女子生徒だ。
小柄な体格、やや栗色の髪は染めてはおらず、一人はツイン・テールにオレンジのリボン。もう一人はポニー・テールに黄色のリボンだ。色白の肌は染み一つなく、完璧な卵型の顔に、大きな二つの瞳。ほっそりとした顎に、ふっくらとした唇はピンク色に輝いている。
二人の美少女、その顔かたちはまったく同じだ。
つまり二人は一卵性双生児なのだ。
新山檸檬、蜜柑。
双子の美少女の名前である。




