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「藍里──!」
僕は全身で悲鳴を上げていた。
僕の大事な藍里が、今までずっと相棒だった彼女が死のうとしている!
地面に力なく横たわった藍里を、NPCの兵士たちが受け止め、逃走する僕らとともに引きずってきた。もちろん、NPC同士、触れ合えるからできる芸当だ。僕らプレイヤーたちは、ただただ見守ることしかできない。
無我夢中で僕らは戦場から退却をした。逃げる最中、アイリスは何度も「藍里! 藍里!」と呼びかけていた。
ようやく距離が稼げ、僕らは敵から見つからない岩場で小休止をとった。軍曹が無言で敵の接近を見張るため、持ち場につく。
「誰か、回復魔法を使える者はいないか?」
僕は兵士たちに怒鳴った。
兵士たちは一斉に首を振った。
地面に横たえられた藍里は、口から血の泡を吹き出し、ぴくぴくと全身が痙攣を繰り返している。
僕が近づくと、藍里は微かに笑いかけた。
「藍里……」
跪き、僕が話し掛けると藍里は頷いた。
「お兄様……お別れですね」
藍里の言葉に僕は激しく首を振った。
「そんな、馬鹿な! お前が死ぬなんて!」
「いいのです。今、判りました。これは運命──」
藍里はごくりと喉ぼとけを動かし、口中の血を飲み込んで再び言葉を押し出した。
「運命なのです。今日アイリス様と出会ったのも、流可男様のパートナーとなったのも、みんなわたしの運命──」
僕はたまらなくなって藍里に叫んだ。
「死ぬな、藍里! 君が死ぬと僕はどうすればいいんだ?」
だが藍里は僕の呼びかけに答えず、微笑を浮かべたまま全身から力が抜けていった。すると僕の目の前で、藍里の姿が薄れ、消えていった。
藍里はデータの海に消えてしまったのだ。
NPCは生存を終えると、消滅してしまう。後には何も残らない……。
顔を上げるとアイリスの顔と目が合った。
アイリスの顔は今にも泣き出しそうになっていた。
が、涙は流れなかった。
僕も同じだ。
仮想現実のゲームでは、プレイヤーには涙を与えられていないのである。
「うるさいぞ! いつまでゲームをやっているんだ?」
出し抜けの大声に、僕はHMDをむしり取った。仮想現実の世界は消え去り、いつもの僕の部屋に戻っていた。
気が付くとドアが半開きになり、父親の厳しい表情が覗いていた。
「もう、終わるよ」
僕は平板な声で父親に答えた。




