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真っ白な部屋の中で、檸檬は泣き疲れ、横たわっていた。
明かりは白々と、部屋の隅々まで照らしている。この明かりは、檸檬の勝手で消灯することはできない。目を閉じて眠ろうとするが、照明が明るすぎ、眠りに落ちることすら不可能だった。
いったいなぜ、こんな羽目に陥ってしまったのだろう?
いきなり睡眠薬を吹き付けられ、気を失ったと思ったら、この部屋に運ばれてしまった。茫然となっていたら「免外礼博士」と名乗るヘンタイから「明日辺流可男の〝妹〟になった理由は?」と詰問された。
明日辺流可男のことは、考えるのも苦痛だった。
確かにガッツ島に他の〝妹〟と向かうまでは、自分は流可男の〝妹〟という自覚はあった。あの頃の自分を思い返すと、身震いするほど嫌な気分になる。
キモオタの明日辺流可男を「お兄様」と呼びかけるなど、今考えてもどうかしていた。
今は一刻も早く家へ帰りたい。
微かな音に、檸檬はギクリと起き上がった。
ドアが開きかけている。
内開きのドアが開き、そこから一人の男が姿を現した。
タンクトップの上半身に、突撃隊のパンツに膝まで覆う長靴。頭には制帽を被っている。
男は丸々とした顔に満面の笑みを浮かべ、横たわった檸檬を見下ろした。
突撃隊隊長赤田斗紀雄だ。
「やあ、気分はどうかな? 少しは落ち着いたかな?」
赤田の言葉に、檸檬は怒りを爆発させた。
「最悪よ! なんであたしを誘拐したの?」
赤田は檸檬の言葉に「ちっちっちっ!」と指を振った。
「誘拐、とは他人聞きが悪いじゃないか。保護、と言い直して欲しいね」
しゃあしゃあと返答する赤田に、檸檬はポカンと口を開いてしまった。赤田はニヤニヤ笑いを浮かべながら、言葉を継いだ。
「実は君にある提案を持ってきた」
「提案?」
檸檬は用心深く問い返した。何だか妙な風向きだ。
赤田は大きく頷いた。
「そうだ。君がガッツ島襲撃の一人であることは、すでに判明している。否定するかね?」
そんなこと……と言いかけ、檸檬は口を閉ざした。ここは赤田の次の言葉を待つ方が得策だと思ったのだ。
赤田は膝をついて、檸檬と同じ目線になった。
「このままでは君は法律によって、罰せられる。だが俺は、そんなことをしたくはない。将来のある君たちのことを考えてのことだ」
「君たち? あたしだけじゃないってこと?」
赤田の笑みはさらに大きくなった。
「そうだ! 君は蜜柑という双子の姉がいるな? このままでは君だけでなく、蜜柑も逮捕される。君が我々に協力してくれれば、罪は問わない」
「何をすればいいの?」
檸檬は不意に冷静になった。
相手は取引を持ち掛けている!
「君と蜜柑の二人は、将来アイドルとなってデビューするはずだってね。調査によれば、君ら姉妹には、都内の芸能プロダクションから接触があったと聞いている」
檸檬は微かに頷いた。
「ええ。あたしたち、十八才になったら……」
「今、デビューしないかね?」
赤田の言葉に、檸檬は一瞬、混乱した。
「どういうこと?」
「今すぐ、君らは双子姉妹のデュオとして、デビューしたくないかね?」
檸檬は立ち上がった。
赤田も立ち上がり、檸檬を見下ろした。
「でも、あたしたち、まだ高校一年生よ。十六才にもなっていないわ。法律では、十八歳以下の未成年は、メディアに露出することはできないはず」
赤田を見上げ、声を張り上げる檸檬の視界に、もう一人の人物が姿を現した。
冴え冴えとした美貌の女性だ。
その人物の正体を悟り、檸檬は呆気に取られた。
内閣総理大臣、朝比奈亜利紗総理だ。
「それについては何とかなるわ。内閣府の通達で、特別な優遇措置をあなた方に処することは可能よ」
「我々は君ら姉妹に、アイドルとして活動して貰いたい。何とか〝うん〟と返事してくれ」
赤田はにこやかに言葉を重ねた。
あまりの展開に、檸檬は茫然となった。




