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ぽんぽんと肩を叩かれ、檸檬はビクッと身を震わせ、目を覚ました。
「終点ですよ」
見上げると、車掌の制服を身に着けた男性が微笑んでいる。
「ご、御免なさいっ!」
慌てて立ち上がった。
ホームに駆け込むと、サラリーマンや学生が一杯で、檸檬は人ごみを掻き分けるようにして足を速めた。
頬が熱い。多分、自分は顔を真っ赤にさせているはずだと檸檬は思っていた。眠り込んで、どんな酷い格好でいたんだろうと想像すると、居たたまれなくなる。足をがばっと開いていたんじゃないか?
急いでいるのには、もう一つ理由がある。
檸檬はホームの地下階段を駆け下りると、周囲を見回した。
トイレ……。
トイレはどこ?
あった!
駅の公衆トイレが目に飛び込む。
幸運にも、公衆トイレには檸檬以外、誰もいない。檸檬は入ったすぐの個室に飛び込み、ドアを閉めた。
洋式便器に座り込み、用を足すと、ようやく人心地が付いた。
落ち着くと檸檬は、ふと気になった。
自分は〝妹〟たちとガッツ島を襲撃し、オタクたちを救出している。
あらためて考えると、これは大変な事を仕出かしているのではないか?
自分は犯罪者になってしまったのでは……。
檸檬は恐ろしくなった。
慌てて物入から端末を取り出すと、ニュースを検索する。
あれ?
どこにもガッツ島襲撃のニュースは流れていない!
どういうことだろう……。
ニュースになっていればそれはそれで恐ろしいが、まったく世間に知られていないのも、怖さが込み上げてくる。
そそくさと立ち上がると、身支度を済ませ、檸檬は個室から出た。
「新山檸檬だな!」
トイレに響き渡った男の声に、檸檬はギクリと身を強張らせた。
声の方向に視線を向けると、サラリーマン風の、中年男がトイレ出入り口を塞ぐように立ちはだかっていた。
檸檬は朝の始発に乗り込んできた男だと、ぼんやりと認識した。
が、すぐにここが女子トイレであると思い出した。
檸檬は猛然と怒りを覚え、指先を男に突きつけ叫んだ。
「あんた男でしょ! ここは女子トイレよ!」
中年男はニヤリと薄笑いを浮かべた。特徴のない顔立ちが、浮かべた薄笑いによって、猛禽類のような凶悪な印象が加えられた。
「何か問題でもあるのかね?」
男の返答に、檸檬は呆気に取られ言葉を失った。
つかつかと男は檸檬に近づいた。男の様子は自然で、一切緊張を感じないものだったので、檸檬はまったく警戒しなかった。
つい、と男は片手を挙げた。
上げた片手の掌に、何かを握っている。大きさも形も、鶏卵ほどのものだ。
しゅっ、と軽い音と共に、握られた物体の先端から何かが檸檬の顔に吹き付けられた。
芳香性の香りを感じた檸檬は、その瞬間、意識を喪失していた。




