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 新山檸檬は当惑していた。

 飛行船を見送った後、鉄道を利用して真兼町へ戻るつもりだったが、財布の中身が乏しいことに気づいたのだ。

 金額を確認すると、都内にまでは何とか行けそうだ。

 財布を仕舞った物入を覗くと、携帯端末が目に入った。

 そうだ!

 檸檬は物入から携帯端末を取り出し、崎本美登里に連絡を入れた。

「はい……」

 端末から美登里の、眠そうな声が響いた。彼女も自分と同じく、ほとんど眠っていない。まだ車に乗っているらしく、エンジンの音が低く聞こえている。

「あの……檸檬です……」

 おずおずと自分の名前を告げると、瞬間美登里の声音が高まった。

「檸檬ちゃん! どうしたの?」

 檸檬は事情を説明した。

 端末の向こうから、美登里の「くくくく……」という押し殺した笑い声が聞こえてくる。

「判ったわ。困った時はお互い様でしょ。あたしは先にスタジオに戻っているから、近くに来たら寄ってちょうだい」

 大急ぎで礼を言うと、檸檬は携帯端末を仕舞って駅に駆け込んだ。

 鉄道の駅は始発前なので、人けはなくガランとしていた。駅の建物の周囲には、様々な箇所に監視カメラが設置されていた。

 監視カメラは駅、商店街、学校の近くなどありとあらゆる場所に設置されているので、檸檬は気にしなかった。

 販売機で切符を手に入れ、檸檬はホームへと足を踏み入れた。朝の光が山肌から差し込み、線路を白く輝かせている。

 ホームで待つと、ほどなく始発の電車が滑り込んで来た。

 始発なので席はガラガラに空いている。檸檬は席に座るなり、猛烈な眠気に襲われていた。

 考えてみれば、昨晩からほとんど眠っていない。

 うとうととしていると、発車のベルが鳴りだした。ドアが閉まりかける寸前、一人の乗客がぎりぎりに走り込んできた。目立たないダークスーツを着込んだ、中年の男だった。格好から判断すると、サラリーマンのようだった。ちらっと檸檬に視線を走らせ、ちょっと驚いたような表情になって、慌てて視線をそむけ、檸檬から離れた席に腰を下ろした。

 いつものことなので、檸檬は驚かない。

 新山檸檬、蜜柑の姉妹は誰もが一目見れば振り返らずを得ないほどの美少女だ。

 小学生のころから、二人が人通りの多い場所を歩くと、男も女も注目した。

 もちろん、まじまじと見つめることはしない。三秒以上見詰めていると、ロリコンではないかと通報されるので、ちらっと見かけすぐ視線を逸らす。

 だから他人からの、注目の視線には慣れっこになっている。

 がくん、と軽い衝撃があって、電車は走行を開始した。

 リズミカルな電車の振動が、檸檬の眠気を誘う。さらに窓ガラス越しの陽光が檸檬の首筋を暖め、ぽかぽかと温かい。

 檸檬の瞼が下がっていき、とうとう眠り込んでしまった。

 発車寸前に駆け込んできたサラリーマンらしき中年男が、檸檬の寝顔を凝視していることには気づかなかった。

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