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僕は呆気に取られ、飛行船を見上げた。
ずんぐりとした太い葉巻型の胴体下部に、ゴンドラが吊り下げられ、プロペラが両側に回転して推進力を与えている。
飛行船はしずしずと高度を下げ、駐車場に接近して来た。
ゴンドラからは照明が灯って、地上の僕らを照らし出した。
と、ゴンドラからロープが投げおろされた。
「流可男! あのロープを引っ張れ!」
朱美の命令に、僕は反射的に行動した。
駐車場の真ん中に跳び出し、地上にたらされているロープをがっしりと掴む。思ったより反発は強く、僕はズルズルとロープに引っ張られた。すると僕の後ろに朱美が駆け寄り、ロープの端を握った。
朱美は制服の校章に手を触れ、戦闘服モードに変えた。
途端にぐいっと、強い力が加わり、飛行船が安定した。本来は十数人が飛行船の着陸には必要らしいが、朱美の百人力でわずか二人で着陸作業は完了した。
ゴンドラのドアが開き、現れたのは朱美の母親の、美佐子院長だった。
「今晩は流可男君」
美佐子院長は、にこやかな表情で僕に挨拶をした。
「院長……!」
朱美はさっさと僕を押しのけ、飛行船のタラップに足を掛けた。
「挨拶は後だ。急ぐぞ!」
「ああ、そうか……」
背後を振り向くと、双子と来夢、阿久津の四人が茫然とこちらを見守っている。
朱美は飛行船の入り口から四人に怒鳴った。
「乗るのか、乗らないのか? これでオイラたちは真兼町を目指すんだ」
朱美の言葉に、すぐに蜜柑は一歩前へ出た。
「凄い! あたし一度、飛行船に乗ってみたいと思ってたんだ!」
興奮を顕わにし、頬を真っ赤に染めてタラップに足を掛けた。蜜柑は檸檬を振り返った。
「檸檬、どうしたの?」
檸檬は動かない。ゆっくりと顔を左右に動かし、全身で拒否を示していた。
「あたし、行かない……!」
蜜柑は驚きに叫び声を上げた。
「檸檬、何言っているの?」
檸檬はゆっくりと答えた。
「あたし、もう〝妹〟じゃないもん。だから一緒には行けない。あたしは普通に、JRで真兼町に戻るわ」
阿久津も肩をすくめ、首を大げさに振って見せた。
「俺もそいつに乗り込むのは御免だな。俺は突撃隊員として、お前たちのことを本部に報告する義務がある」
すると朱美は嘲笑った。
「バカなこと言うな。お前がどう思うと、オイラたちと一緒にここまで来たんだ。突撃隊では、あんたを裏切者だと判断しているぞ。敵前逃亡ということでな」
阿久津は愕然としたようだった。
「そうだ……言われてみれば、その通りだ」
来夢は阿久津に話し掛けた。
「あたしも流可男さんと一緒に行くよ。なにしろナデシコ島からの逃亡者だもんね。阿久津さんもおいでよ」
阿久津はガックリと両肩を落とし、うな垂れた。
「そうだ、そうだよな……仕方ない。行くよ、行けばいいんだろう!」
自棄になったように呟くと、決然と歩き出した。来夢はにんまりと笑顔になり、スキップしながらタラップを登った。
僕は唖然として、最後に飛行船に乗り込んだ。
タラップから駐車場を振り返ると、檸檬がたった一人、僕らを見上げていた。僕と視線が合うと、檸檬はわざとらしく顔を背け、くるりと踵を返し歩き去った。
僕の隣で、蜜柑が暗い顔で檸檬の後ろ姿を見送っていた。
飛行船が上昇を始めると、途端に朱美が自分の額を叩き、叫んだ。
「しまった! あいつに強化スーツを返してもらうのを忘れた!」




