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 中野ブロードウェイの入り口前で、萩野谷は驚きに立ち竦んだ。

 なんと、ブロードウェイ前には、突撃隊員がずらりと勢ぞろいし、入り口を封鎖している。物々しいバリケードが築かれ、装甲車がずしりと居座って誰一人通過できないようになっていた。

「どうなってんの? 入れないじゃないの」

 萩野谷の隣で牧野が嘆きの声を上げた。

 恐る恐る萩野谷は立哨している隊員に近づき、声を掛けた。

「あのう……何が起きているんですか?」

 突撃隊員はジロリと萩野谷を睨み、噛みつくような口調で答えた。

「何だ? ここは立ち入り禁止になっている。とっとと立ち去るんだな!」

 突撃隊員の視線は、萩野谷の胸に留められている「ヲ」バッジに向けられた。

「中野ブロードウェイは、オタクの巣窟となっているので、我々の手によって新しく生まれ変わることに決まっている」

 突撃隊員の態度に、萩野谷はたちまち退散しその場から離れた。

 待っていた牧野はすでに携帯端末を操作し、情報を検索していた。萩野谷が近づくと、牧野は暗い目をして説明を始めた。

「いよいよ、中野ブロードウェイを取り壊すらしいわね。これであたしらの居場所がまた一つ、消滅したわ……」

 牧野の言葉が終わるか終わらないかというタイミングで、巨大な重機が立てる轟音が辺りに響き渡った。クレーン車が近づき、先端にぶら下がっている鉄球が大きく揺れると、中野ブロードウェイの建物に突き刺さった。一瞬で建物の外壁が崩れ、膨大な埃が舞い上がった。先端に鉤爪が付いたアームがガリガリとコンクリートの破片を撒き散らし、恐竜が獲物に齧りつくように建物を破壊していく。

 萩野谷が周囲を見回すと、胸に「ヲ」バッジを着けたオタクが、茫然と建物の取り壊しを見守っていた。

 集まっているオタクたちの中に、建物の中で店舗を出している知り合いの顔を見つけ、萩野谷は近づいた。

「酷いことになったね」

 店長は萩野谷の顔を認め「ああ、どうも」と言葉少なく挨拶を返した。

「参りましたよ。いきなり今朝、通達があって、今日中に取り壊しを始めるから出ろ、って命令で……」

「今朝だって?」

 萩野谷は驚き、質問を重ねた。

「それじゃ店の商品なんかは?」

「置いたままです」

 店主の言葉に、萩野谷は思わず取り壊される建物を振り返った。

 重機が建物の周囲に取りつき、見る見る内部にアームを突っ込んで破片を掻き出していく。飛び散る破片に、明らかにフィギアだの、DVDだの、同人誌などがバラバラと落下し、コンクリートの瓦礫に降り注いでいた。

 萩野谷は呟いた。

「勿体ない……!」

 萩野谷の嘆きに、店主は頷いた。

「まったくです。あれだけのアイテムを揃えるのにどれほどの時間が掛かったか……」

 ふと思い返し、萩野谷は店主に質問した。

「ひとつも持ち出せなかったのですか?」

 店主は首を振った。

「いや……本当に貴重なものは、すんでのところで救い出せたんですが……新宝島の初版とか、貸本時代の水木しげるの作品とか……、でも僅かしか持ち出せませんでした」

「あああああ……!」

 悲鳴にもう一度、取り壊し現場を振り向くと、今度は放水が始まっていた。

 ざあざあと白い飛沫が建物の中に注ぎ込まれ、巻き上がる埃を収めていた。

「今だったら救い出せるかもしれないのに、水を掛けちゃったら台無しだ……」

 オタクたちの悲鳴を無視して、取り壊し作業は無慈悲に続いた。突撃隊員は横一線に並んで、貴重なフィギアや、DVD、同人誌、ゲームなどを救い出そうとするオタクたちの動きを防いでいた。

「あたし、帰るわ」

 ぼそりと牧野が呟き、歩き出した。

 牧野の言葉に釣られたように、その場のオタクたちは三々五々、駅前へ歩き出した。

 萩野谷も諦めて歩き出したが、ふと立ち止まり、牧野に声を掛けた。

「そういえば、良太はどうした?」

 牧野は「え?」と問い返した。

「今日は見なかったわよ。来るはずだったの」

 萩野谷は首を振った。

「いや、待ち合わせはしなかったが、この時間だったら必ず来ていたはずなんだ……」

 萩野谷は考え込んだ。

 言われてみれば、この数日、良太の姿を目にしていないと思ったのである。

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