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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

隻眼のエトワール

作者: 風連
掲載日:2016/02/25

国が滅びるという事は、こういう事なのだろう。

千年の大国が、崩壊した。

大陸の西の端。

大国から小国まで、全てが崩れたのだ。

王族の敗走は素早い。

だが、その残酷さも。

正妃のスタリスは、若い召使いが生んだ娘を疑っていた。

門番の娘で、馬番の夫がいたが、女の感は鋭い。

王が見てる先を見ていたのだ。

城から脱出する夜、スタリスの手には、簡易ランプ。

混乱が城を覆った夜の中、普段は近づく事もない馬番の寝床のある部屋。

一人寝ている娘には、王と同じ金の髪が光っている。

煖炉の火が暖かさを与えていた。

王妃は、ランプの電池を抜くと、それを煖炉に投げ入れた。

紫の煙と、炎が上がる。

大時代の馬小屋も生火のある生活も大っ嫌いだった。

こんな地上の古い城にいる時に、群衆に追われる立場になるのも。

生まれながら機械仕掛けの世界にいたスタリスも最初の二、三回は、面白がったが、すぐに飽きた。

王がいなければ、こんなところに、住むのはまっぴらだった。

誰かに見られてるような嫌な気分がしたが、混乱の中、誰も居なかった。

叩きつけるように扉を閉め、ランプを投げ捨て王の元に急いだ。

馬と共に駆けつけた父親が、扉を開けた時には、すでに煙は消えていた。

だが、僅かな臭いに名馬キュリアンが、いなないた。

金の髪の娘は、眠っている。

そっと抱き上げ、馬にまたがり、隠し門から、北の森に逃げる。

重力抑制の車が、主流になっても、馬や犬や森や庭園が、人の暮らしから消える事はなかったが、暴動はありとあらゆる物を武器にして、国が滅ぶほどの嵐が巻き起こってしまっていた。

王たちは、空中都市の城に逃げるため、あらゆるものを捨てて行った。

砦のような小さな城は、王が乗馬やマークの付いた獲物を追う狩りの為の場所だったが、そこを狙われた。

使用人達も散り散りバラバラで、逃げていた。

この城に入るのは、略奪者だけだ。

脱出用の小型艇が発射されると、天空の城から、重力兵器の圧力が、かかった。

そこには小高い丘が、残っただけだった。

半径1キロ、生きるものは消えた。

だが、都市部は、そうはいかない。

潰してしまうには惜しい重工業地帯も問題だった。

大国の崩壊は伝染病のように大陸を染めていった。

空に逃げた王族貴族達もやがて撃ち落とされ、混沌の世界が始まった。

馬番の男は、娘を抱えて妻の待つ森の小屋に避難していた。

地上に住む者達の反乱は、王族の死を意味しているのを知っていた。

何頭かの馬を助けるのがやっとだった。

金の髪の娘は、良く眠っている。

妻は娘を受け取ると粗末な寝床に寝かした。

「キュリアンがいなないたんだが、部屋には誰も居なかったのだけれど。」

馬を繋いできた夫の言葉に妻は青ざめた。

「キュリアンは何かを感じて、鳴いたはず。」

娘を調べたが、傷はなかったが、目が開かない。

寝てるのだ。

「毒なら、時間がないわ。」

慌ただしく、小屋の地下室に、備え付けていた薬品風呂を動かす。

無味無臭の水が、小さな気泡をたて、娘の身体を包む。

頭まで全てを薬湯につけて出した時、娘が起きた。

「目が。」

娘の右眼が、真っ赤に染まっていた。

妻は素早かった。

台に娘を乗せ、頭を固定し、無痛ガスを、鼻から入れると、昆虫の足のような装置で眼を摘出した。

「それは、、、。」

「生命維持装置です。」

冷静な声が返ってきた。

代わりの目が、入れられた。

金の髪の娘は、眠っている。

夫と妻は、見つめあった。

「私はこの国の王の遺伝子を運ぶために改良されたクローン人間です。

こんな事がなければ、あなたに知られる事もなかったのですが。」

娘を、手早く着替えさせ、腕の中に抱えた。

「この子はあらゆる情報の宝庫なのです。

もちろん、私や貴方の子供ではありません。

ご存知でいらっしゃったでしょう。」

馬番の男は頷いた。

誰とも似てない娘。

金の髪に漆黒の眼、薔薇色の頬に浮かぶえくぼまで、誰とも似ていない。

「生命維持装置は、これが最後の一個なのです。」

「失われた科学の産物か。」

女は頷いた。

「神の領域と言われた分野です。

本当は、男の子を産めと命令されていました。

全ての遺伝子を絡め取る為に。」

娘は、スヤスヤと寝ている。

妻と一緒になった時、娘を抱きたいと一度だけ言ったことを思い出す。

「外見の変化は時間がかかるのですが、この金の髪は、黒くなります。

目は今より柔らかい茶色に落ち着くようになってます。

追う者からのがれるためです。」

女は娘を男に抱かせると、傍らの椅子に腰掛けた。

「私の仕事は終わりました。

身体を維持する事が難しくなってるのがわかりますから。

キュリアンには、この子の為に、仔を宿らせてあります。

マークのない犬と鷹がやってきます。

彼らも私が残したこの子の守護獣です。」

女がため息をつくと、一気に10歳老けたように見えた。

「君の本当の名は、エリア。」

シワだらけの頬を歪めて、女は笑った。

「パリス、よ。

塔を壊す名前なのです。

守護獣が来たら、パリスと呼びかけてから、その仔たちの名前をつけてあげてくださいね。

貴方の言う事を良く聞きますから、お願いします。」

寝る子を二人で見つめた。

「エトワールと、呼んでました。

私の国の昔の言葉で、星と言う意味が、あります。

流れ星という意味もありますし。

古い古い言葉の一つです。

貴方が名付けたリデルも好きでした。

生みの母でも、実母では、なかったけど、この母が呼んだ名を教えてあげてくださいね。」

「待ってくれ、君の本当の国はどこなんだ。」

女は首を振った。

「そんなものは、この世界から消えてしまいます。

人が作った境界線は、破壊されて、もう元には戻らないでしょう。

人が人を奴隷にして、塔が建てられた時代が終わったのです。

塔を建てる者達に気をつけて。」

妻だったクローンは、外皮をピリピリいわせ乾いていった。

妻の服を着た木乃伊が椅子に座っていた。

ドロドロと溶けたりしなかったので、地下室に妻だったクローンを椅子に座らせたままにして、外に出た。

キュリアンが、心配だった。

王の馬の中でも、名馬だったし、手塩にかけて育てていたので、可愛かったのだ。

馬小屋には、生まれたばかりの仔馬がいた。

妊娠なんかしてなかったはずなのに。

棒立ちになっていると、キュリアンが又お産を始めた。

見てると、キュリアンが、みるみる痩せていくのがわかる。

こげ茶の仔馬の後、キュリアンが生んだのは、羊に人の口を持つ化け物だった。

胎盤がついたままそれは、育っているのがわかる。

キュリアンの仔馬も同じだった。

「名付けよ、女の名のもと、に。」

人面羊に命令され、仔馬に名を付ける。

「パリスの名の元に、キュリアン。」

羊は、満足そうに頭を上下に振った。

「我は、予言する獣。

人の声を持つが、名は持たない。

パリスに万が一の場合、それを埋める獣なのだ。」

男の抱く娘を羊はジロリと見た。

「予言は達せらせた。

人が人を使い塔を建てし者の末裔は、力をなくすであろう。

本当の言葉が世界を救うのだ。

その娘を育てよ。」

羊は鳴くと、パリスのように干からびて、毛の塊になっていった。

仔馬は、自らの胎盤を食べ、一回り大きくなっていた。

キュリアンに似ている。

だが、普通の馬ではないのだ。

いつの間にか、犬と鷹が、小屋のそばの木の上と下にいた。

仔馬に小突かれ、まず犬に名をつけた。

「パリスの名の元に、サイラス。」

顔をあげて、鷹にも。

「パリスの名の元に、エリア。」

男は犬に自分の名を、鷹に女のここでの名を授けた。

干からびて死んでいるキュリアンと毛の塊を見てると、又仔馬に小突かれた。

時は止まらないのだ。

3匹を連れ、小屋に戻ると、不思議な共同生活が、始まった。

エリアが魚を捕まえてくれば、サイラスが、うさぎを捕らええてくる。

パリスの残した種は、あっという間に畑をいっぱいにした。

魔法の畑だったのだ。

キュリアンは、子守がうまく、歩き出す前のエトワールを乗せて走れるのだった。

キュリアンは、エトワールに合わせて成長してるらしく、仔馬のままの背丈をしていたので、小屋の中でも、邪魔にならなかった。

3匹がいれば、何の不安もない。

エトワールの髪が金から黒に、瞳が茶色になる頃、思い切って、人里に出ることにした。

地下に行って、パリスの遺体を毛の塊と干からびたキュリアンの横に埋めた。

その上に石を積み上げ墓にした。

王のところから連れてきていたマダラの馬に乗り、下の村に向かう。

何の変化も見られないが、何かが違う。

知り合いの酒場の親父が、いた。

「酒場は開いてるのかな。」

なるべくさりげなく話しかけた。

「金は、つかえんよ。」

親父がニヤリと笑う。

「物々交換さね。」

「これも使えないのかな。」

王の顔が刻印された銅貨だ。

「金属は大丈夫だ。

紙切れやプラスチックのカードは、諦めな。

誰も受け取ってくれねぇわ。」

無政府状態なら、そうだろう。

「馬は売れるぞ。

食えるしな。」

酒場の親父がニヤニヤ笑う。

こんな田舎でこうなら、機械化されていた都市の人間たちは、どうなっていることだろう。

サイラスは、必要な物を手に入れると、小屋に急いだ。

胸騒ぎがしていた。

小屋は静かだった。

だが、誰もいない。

3匹とエトワールは、地下室にいた。

何かの機械が動いている。

「アッ、パパ。」

エトワールが、抱きついてきた。

育っている。

細い輪が首にヒヤリと触れた。

たちまち輪が、身体の一部になったのがわかった。

「やっと、調節出来たの。

本当の言葉が世界を変えるまでの、間に合わせなの。

これで、お話しできるのよ、私達。」

娘の声と3匹の思考が混ざっている。

見ると、キュリアンは左足に、サイラスは首に、エリアは右足にそれぞれ細い金属の輪をつけていた。

それが皮膚の中に埋まって見えなくなっていく。

首に手をやると同じく、埋まっていくのがわかった。

「む、つけられてる。

人間のサイラス。

エトワールを、頼むぞ。」

犬のサイラスを先頭に三匹が、地下室を飛び出ると、二人の男が小屋の戸を開けたところだった。

鷹と犬に襲われ、馬に額を割られ、男たちは、死んだ。

あっけなかった。

犬が血を舐めて、いる。

犬のサイラスは、割れた額から、何かをズルズルと引き出していた。

「機械の手先だ。」

ボロ布のような金属の塊が、顔を出した。

キュリアンが、ひずめでつぶす。

蹄鉄がなくても、キュリアンのひずめは、堅く鋭いのだ。

もう一人の男の口から、光が漏れる。

鷹のエリアがくちばしで光る紐を引き出す。

これもキュリアンが潰した。

「機械を動かしたのを感じたのね。」

みんなで頷く。

エトワールは、父の腕の中で、早く大きくならなければと、みんなに知らせた。

「塔を作る奴らか。」

「違うわ。

奴らなら、二人なんかで来ない。

機械に惹かれただけだと思うの。」

ここの機械はあまり使えないな、と思うと、みんなが頷く。

「サイラスが匂いを追ってる。

すぐに巣が見つかるはず。」

機械の巣は空っぽだった。

取り付く人間もいない。

3匹が動力室を壊してきた。

目的もなく、ただ存在してるだけの機械の巣は、あちこちにあるだろうが、今はそこを破壊するだけだ。

「心配しないでパパ。

エトワールは、死んだママも好き。

生き延びられるように育てて。」

杞憂を言い当てられる。

「大丈夫よ。

時代がかわったのだから。

今まで、人間が言葉だと思ってきたものは、支配する人間達が自分達の富を、独占するための符丁なのよ。

仲間内だけでの暗号みたいなもの。

言葉は全然違うものなの。

心が通じるものなの。

もう、2度と、あんな塔を建てたりできなくなるわ。」

3匹が帰ってきた。

同調した心がわかる。

五つの生き物は、変わり目を生き延びるのだ。

混沌も乗り越えなければならない。

国も、分かつ言葉も、無い世界で。

今は、ここまで。



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