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勇者物語〜大森林からの魔物侵攻〜

作者: なご

 マンプク王国は肥沃な大地に恵まれたとても裕福な国です。


 その日もマンプク王は王族や家臣達と一緒に中庭でバーベキューをしながら楽しんでいたのですが、そこへ汗をダラダラと流した兵士が駆け込んできました。


「大変です!北の大森林から魔物の軍勢が現われました!」


 兵士の言葉を聞いて、皆は驚きました。

 そして、串を食べていた大臣が「むぐぐ……み、みずっ」と言いながら倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまいました。


 魔物侵攻による第一の犠牲者でした。


 王妃が大臣に寄り添って泣きました。大臣の名前を呼びながら泣き崩れる王妃を見て、王は噂は本当だったのかと裏切られた気持ちになりました。噂とは王妃と大臣が不倫関係にあるというものでした。


 王と王妃の出会いはまだ幼い5歳の頃でした。当時は王太子だった王は、遊び相手として連れてこられた侯爵家の長女である王妃とその時初めて会いました。子供同士なので、最初は男や女の違いなどなく、二人で王城の中を走り回り、遊びまわっていましたが、お互いに男女の違いがわかるようになってくると、その関係も変わってきます。いつしか、王は王妃に恋心を抱くようになり、王妃もそれを受け入れました。


 そして、王は立派な王になろうと日々、努力を惜しまず、朝早くから夜遅くまで政務をこなし、子宝にも恵まれ、その子達ももう大きくなり、幸せな日々を過ごしていると信じていました。


 そんな時に聞いたのが、王妃が不倫しているという噂でした。王はその噂を信じませんでした。ですが、それでも、不安はあります。


 今日は家族サービスをしよう。そう思って開いたバーベキューパーティーでした。噂なんて嘘で、こうして時折家族サービスをして、自分の愛をわかってもらおうとそう考えた矢先のことでした。


 王はとてつもない怒りを感じ、衝動的に持っていた串で王妃を滅多刺しにしました。まだ刺さっていたピーマンがパプリカみたいに赤くなっていました。


 魔物侵攻による第二の犠牲者でした。


 その様を王太子は笑顔で見ていました。


 王妃は王太子が物心付いてからいつも泣いていて、構ってくれたことなど一度もありませんでした。そして、王も仕事ばかりの人間で王太子に構ってくれたことなどほとんどなく、見ているのはいつも王妃ばかりでした。それでも王太子は構って欲しくていつも笑顔でいました。それは乳母が言っていたことでした。笑顔で人に優しくしていれば幸せがやってくると。


 そして、第二王子が誕生した時、王太子はわけがわからなくなりました。王妃は何故か第二王子のことだけを殊更に可愛がっていました。


 何故自分には愛情を注いでくれないのかと、王太子はとてもとても寂しい思いをしていました。そして、王太子は王になりたいと願ったのです。立派な王になれば、きっと王も王妃も自分自身に愛情を注いでくれると、そう幼い心の中で思ったのです。


 自分が王になれば、王にさえなれば……。歪んでしまった王太子には何故、自分自身が王になりたいのか分からなくなっていましたが、それでも王にならなければいけないという強い思いと笑顔でいなければという強迫観念だけは残っていました。


 そして、今日。王妃はまるで狂ったような王に刺されて死にました。王太子は、この場で王を処刑してしまえばすぐにでも王になれると考えたのです。王太子は剣を抜いて王の首を切り飛ばしました。首は宙を待って、バーベキューの網の上にのり、じゅうじゅうと音を立てていました。


 魔物侵攻による第三の犠牲者でした。


 王が王太子によって亡き者にされたところで、第二王子は危機感を覚えました。このままでは自分自身も殺されてしまうかもしれないと……。何故なら第二王子は王の子ではなく、大臣と王妃の間で出来た許されざる子であることを知っていたのです。


 まだ第二王子が何も知らなかった子供の頃、他の人にはいつも笑顔でいる兄が弟である自分には冷たく接することに気づきました。周囲の者達は、まだ幼い第二王子ばかりに王妃が構うから嫉妬しているのだと言っていましたので、いつかは和解出来る日が来ると思っていました。


 ですが、ある日。第二王子は見てしまったのです。王妃と大臣が愛し合っている場面を、そして、大臣が自分のことを我が子と言っているのを……。


 愕然としました。ふと、兄のあの暗く淀んだような目を思い出した時に、この事を知っているのだとそう考え、それからはいつも怯えるように日々を送っていました。


 そして今日。大臣が死に、王妃が死に、王も死に次は自分だと確信した第二王子は、死にたくない一心で、懐に隠し持っていた爆弾のピンを抜いて王太子に向かって投げました。


ですが、そこで王太子の前に誰かが飛び出し、王太子は叫びました。


「エリザベート!?」


それは王太子の婚約者であるエリザベートでした。


 エリザベートが初めて王太子に会ったのは5歳の頃でした。王の命により、遊び相手として、初めて王太子に会った時、エリザベートは優しく、笑顔で接してくれる王太子が大好きになりました。


 ですが、長い間一緒にいて、エリザベートは王太子の笑顔が作られたものであることに気づきました。それに気づいたのはいつも一緒にいるエリザベートだったからなのでしょう。王太子は本当にいつも笑顔なのです。笑顔以外の顔が無いことに気づいた時、エリザベートはその表情が笑顔ではなく無表情に見えるようになりました。


 なんて悲しい人なんだろう。エリザベートは胸が苦しくなりました。そして、この人を救ってあげたいとそう思いました。王太子がエリザベートのことをなんとも思っていないとしても、それでもエリザベートはいつか、感情を取り戻してあげたいとそう思っていたのです。


 そして、今日。爆弾に気づいたエリザベートは、無意識の内に王太子の前に立っていました。


 エリザベートは顔だけを王太子の方に振り返り、涙に濡れた笑顔を向けました。


 エリザベートの肉片が飛び散り、まるで屋台の串のように無表情な王太子の持っている剣に刺さりました。


 魔物侵攻による第四の犠牲者でした。


 エリザベートが王太子の前に出た時に、騎士団長は咄嗟に走りました。ですが、それは間に合いませんでした。騎士団長は憤怒の形相で第二王子を見ました。


 騎士団長は初め、エリザベートのことが嫌いでした。豪奢な服を着て、化粧をして、鼻につく香水をつけて王太子に会いに来るエリザベートは、平民出の騎士団長には無駄にしか思えなかったのです。そんなに金があるのなら、平民に分けてやれば良いのにと。


 ある時、エリザベートが城下町で大量に買い物をしている場面にあって、騎士団長はついに言ってしまいました。そんなに無駄な買い物をするぐらいなら平民に分けてあげればいいじゃないかと。


 エリザベートは言いました。平民出らしい愚かな考えだと。


 騎士団長は憤慨して言いました。どこが愚かなのかと。


 エリザベートは言いました。もし、施しをしたとして、施しをうけたものは働くのかと。


 騎士団長は困惑しました。どうしてそういう話になるのかと。


 エリザベートは言いました。もし、施しをしたものが働かなければ、税もなくなり、施しをするものもいなくなる。そうなったらどうするのかと。


 騎士団長は言いました。それでも無駄はするべきじゃないと。


 エリザベートは言いました。今日私が買った物の代金で、何人が飢えることなく過ごせるのか知っているかと。


 騎士団長は何も言えませんでした。


 エリザベートは言いました。貴方のそれは醜い嫉妬だと。


 騎士団長は愕然としました。その通りだったのです。正義感?慈愛の心?そんな物ではなく、ただ単に羨ましくて、妬ましくて、足を引っ張りたかった。ああ、なんて醜いんだろう。


 エリザベートは民のことを確りと考えていた。何も考えずただ無駄遣いをして華やかに暮らしているだけだと思っていた。そんな自身が恥ずかしくなり、騎士団長は様々なことを学ぶようになりました。


 そうして尊敬するようになったエリザベートは今日、肉片になってしまいました。


 騎士団長は憤怒の表情を隠さぬまま、剣を抜いて構え、第二王子の方へと振り抜きました。騎士団長の剣から放たれた剣威はまるでカマイタチのように第二王子を真っ二つに切り裂き、断面から溢れる血がワインのようにカップに注がれました。


 魔物侵攻による第五の犠牲者でした。


 第二王子が切り裂かれてもその剣威は落ちることなく、火気厳禁と書かれている爆発物が保管された倉庫に向かっていました。


 一方その頃、王城の中では、いち早く魔物侵攻に気付いた大魔法使いマリリンが勇者召還を行っていました。そのマリリンの膨大な魔力を注がれた魔法陣が光り輝き、イケメンが現れ、マリリンに爽やかな笑みを浮かべました。


 マリリンは恋をしました。


 その時、大爆発が起こりました。その爆発は王城を吹き飛ばしました。


 もちろんイケメンも爆発しました。


 きっと魔物侵攻による被害でした。


 森から出てきた魔物達は大爆発に驚き、大森林へと引き返していきました。


 城下町の占い師は勇者召喚に気付いていました。


「勇者様が魔物達の侵攻を食い止めて下さった!」


 占い師の無責任な言葉に城下町の人々は納得しました。


 めでたしめでたし。

この後、王太子だけ生き残って、婚約者の愛に気付き、逆恨みで大森林に逆侵攻したりしなかったりとかなんていう話を書くかもしれません。

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