第四話 ロリっ子! もとい、ロリっ狐!
「初めましておねーたん、狐野槍だよ!」
「はぢめましたおねーた、狐野椀たお!」
和歌恵ちゃんの家の前。大きな枯れ木の根本。
元気いっぱいの小さいキノコが目の前に並んでいました。
双子なのか、その姿はうりふたつ。
侍女のような、『わたし、働きます!』といった風の和服。袖をたくし上げるエプロンの白ヒモ。三角巾のような白い帽子からは突き出たように耳(!?)がぴょこん、と跳ねていて、お尻から生えた尻尾(!?)のようなものが、ふりふりと揺れています。
髪の毛、耳、尻尾はきつね色をしていて、目もそのように線を引いたようなつつーっとしたツリ目。
その姿はどこか、狐を思わせるものでした。
しかも子狐。
ロリっ子。もとい、ロリっ狐。
なんですかこの可愛らしい生き物は……。
「おねーちゃん、そのドレス可愛い!」
「おねーた、そのどれすかーい!」
槍ちゃんの言葉を復唱する、舌ったらずな椀ちゃん。
背比べをしてみると、槍ちゃんのほうが頭一つ分ほど高く、名前のまんま、その背中には木の枝に石を付けた簡単なヤリを背負っています。
かたや椀ちゃんはお椀を持っていて、中には赤いクワの実が入っていました。
「えっと……初めまして、わたしは色変色絵って言います」
「白い薔薇ー!」
「しろいわー!」
「フリフリだー!」
「ふりんだー!」
「えっ、ちょっと、やめ……」
わたしのドレスについている白薔薇の飾りを容赦なく引っ張り、裾の赤いフリルを思いきりバサバサし始める狐姉妹。対面し数十秒足らずでこのアグレッシブなスキンシップ。
「だめだってばっ! 胞子が、胞子がこぼれちゃう……」
……ちょっと漏れました。(赤面)
好奇心の塊なのか、このじゃりんこたちは一切の手加減を知らず。
わたしはもみくちゃにされるがまま――
ぐわし
と、なにやら胸に圧力が。
「…………へ?」
「ちっちゃーい」
「ぺったんこー」
「槍と一緒!」
「椀といしょー!」
*
「だーから言ったじゃない、面倒だってー」
わたしは和歌恵ちゃんの家の中、本をかき分けて作ったその隅っこのスペースに三角座りをして、どんよりとした雨雲を頭にまとって沈んでいました。
……落ち込むときって、隅っこのほうに限りますよね。
「どうせわたしはAですよ……トリプルAランクの劣性遺伝子なのですよ。おねーちゃんはたわわなのに……。あの双子、苦手です」
「あれ双子じゃないんだなー。いとこ、らしいよー」
「……そうなのですか?」
見た目から、てっきり双子か、姉妹かと。
でも、それにしたって、
「あんなロリっ子と一緒扱いされるなんて……」
ショックを隠しきれません。
「んー、そんな気にすることじゃないと思うけどねぇ……。んじゃあ、見栄を張って『アイカップ』ってのはどうかなー」
「……アイ? いや流石に見栄を張りすぎじゃ……」
「アイとは言っても、それは『哀』だけどねぇー」
哀カップ。
なにそれ、悲しすぎるっ!
「そんな切ない自称がありますか! というか、それ完全に自虐じゃないですか」
「あはは、いーちゃん上手いこと言うねぇ」
和歌恵ちゃんはけたけた笑います。
「言ったつもりもありませんけどね。和歌恵ちゃんだって、そこまで胸が大きいわけじゃないじゃないですか。それなのに、わたしのこと笑って……」
「いやいや、それを笑ったわけじゃーないんだけどねぇ。でも、ほら。実はあたし着やせするタイプだしー」
「……はっ」
もこもこな服装のせいか、見た目、寸胴っぽく見える和歌恵ちゃんではありますが。
そういえば――引きずっているときに、その見事なプロポーションを目の当たりにしたことを思い出しました。
「隠れ巨乳属性、だねぇ」
「……どうすれば大きくなるのですか?」
「揉めばいいんじゃないかなー」
「も、揉む……」
ごくり、と生唾を飲み、わたしは視線を落とします。
ずっと『いつかおねーちゃんみたいに』と、希望を抱きつつ、静観してきたこの殺風景な光景。わたしの言ってみたい言葉トップスリーに輝く、『もう、肩凝っちゃうなぁ』や、『これ邪魔なのよね』……とか。とか!
そんな姉みたいなことを言うために、ついにわたしも努力を始めるときが来たのでしょうか……。
「でもさー、そんないいもんじゃないと思うけどねぇ。本読むとき邪魔だし、肩も凝っちゃうし。まあ、いーちゃんの場合は揉むってより、『摘む』のほうが適当かもだけどねぇ」
き、きいいいいいいいいいいいいぃぃぃっ!
登場キノコ紹介
・狐野椀
・狐野槍
【双子のようなキノコ】
以下、公式より抜粋。
■分類:キンカクキン科 キボリアキンカクキン属
■和名:キツネノワン(狐の椀)
■娘解説:
完全にロリ狐娘。古き良き日本の服装。
苗字は同じだが双子でも姉妹でもなく親戚。
2人ともツリ目で瞳の色は黒。髪とシッポの色はきつね色。こげ茶の着物に白い前掛け。純和風な服装に似合わず黒くてゴツいスニーカーを履いているのは菌核を模したもの。
相違点としてはまず髪型。椀がおかっぱなのに対し槍は乱れさせながら立ち上げている。顔付きは椀の方がおっとりした感じ。背丈は槍の方が顔一つ分くらい高い。
手拭いの柄は椀がマグワに対し槍がヤマグワだが、特に意味は無いらしい。
それぞれがお椀とヤリをいつも携帯。
お椀に入った赤いクワの実を二人仲良く食べている。ヤリは頑丈そうだが実際はそれっぽく作ったフェイクで、突くと即全壊する。
性格はシャイで気まぐれ。春の間は元気だが、すぐにふいっとどこかへ行ってしまう。
椀は座っている方が、槍は立っている方が楽らしいが、気の早さは椀の方が上。
好物は熟す前のクワの実と稲荷寿司。趣味は養蚕とクワの実のジャム作り。雷が大の苦手で、ゴロゴロ鳴り出すと、「桑原・・・桑原・・・」と呟いて小さくなっている。