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おまけ


 東奔西走を経て、晴れて姉妹再会と相成る訳ですが、この冒険には後日談があります。

 まずは後日談そのいち。



 姉と話したところ、お世話になったキノコたちにお礼参り(もちろん良い意味ですよ)をしなければならない、となりまして。

 わたしたちは針葉樹の高山帯から、遠路はるばる――とは言ってもわりと近場だったのですが――和歌恵ちゃんたちのいる、広葉樹林帯へと足を運びました。

 途中、かつて鷹にさらわれたこともあってか、しどろもどろの恐る恐るの旅ではありましたが、なんとか無事に辿り着くことに成功。見慣れた大樹の虚へと到着します。

 そこは和歌恵ちゃんのお家です。


「へぇー、このキノコがいーちゃんのお姉ちゃんかー。良かったねえ、重畳だねぇ」


 相変わらずベットに寝そべったまま、和歌恵ちゃんは言います。

 床に散りばめられた本の奇跡的な間隙に足をつけて、姉はぺこりとまず一礼。


「初めまして平さん。色絵の姉の色変薔薇嶺です。その節は妹がお世話になったみたいで……」


 和歌恵ちゃんは、けたけたと笑いながら、


「いいよいいよー。あたしも楽しかったし。散らかってるけど、ゆっくりしていってよ。『ばーちゃん』」


 姉の顔がものすごい勢いで引き攣りました。




 後日談そのに。




 和歌恵ちゃんのお家に泊まるのも悪いと、わたしと姉は、わたしがしばらくの床に使っていたピプシー・マルモさんのお家のあるブナの木へと向かっていました。

 その道中、はたりとヴィロサさんに出会います。


「あら、薔薇嶺? なんであなたがここにいるのかしら。それに色絵まで」

「ヴィロサこそこんなところで何を。もしかして、魂でも拾いに来たの?」


 久しい友達の顔に、どこか嬉しそうな表情の姉。

 それはヴィロサさんも同じようで、しばらく談笑となりました。


「……なるほど。それでヴィロサは、そのお得意様の魂を探している――と」

「そう」


 ゆるりと優雅に首肯するヴィロサさん。

 わたしは訊きます。


「ちなみに、その名前は?」

「黒肥地一夜よ」

「…………」


 もろに知っている名前が出てきました。

 思わずうめいてしまいます。


「えっと、一夜さんまた死んだんですか?」

「あれは三日に一回は死ぬからね。まったく、こっちとしてはいい迷惑だわ」


 と、そこでタイミング良くふよふよと宙を舞う、たんぽぽのような白い光源が現れました。

 魂です。

 英語で言えばソウル。またはスピリット。

 さらに都合のいいことに、どうやらそれは一夜さんのようで、


「あら? 噂をすればなんとやら、ね」


 ひょい、と捕まえるヴィロサさん。


「そういえば、あなたたち。今日泊まるところないのでしょう? 友達の野宿を放ってはおけないわ。私の屋敷においでなさい」


 お泊りさせてもらうことになりました。



 挟間の世界へ着くと、魂だった一夜さんは具現化します。

 以前ここに来た際に、わたしの破れたドレスがいつの間にか直っていたのもそのせいですね。

 魂は存在としてあるべき形に模られる。

 具現化された魂の形に戻されるのです。


「ん……? なんじゃ、また貴様か『死神』」

「あら、蛞蝓風情が大そうな口を利くじゃない」


 一触即発の空気。

 むー……こういうの苦手。

 わたしは仲介に入りました。


「ま、まあまあ。あ、そういえばヴィロサさん。前に振舞ってくれたローズティ。とても美味しかったです。よければまた飲みたいなー……なんて」

「……ふうん?」


 と、怪訝な顔をするヴィロサさん。

 ちょっと前までは怖くてびくびくしていましたが、わりと馴れてきました。


「実はね、薔薇ってお酒にとても良く合うの。薔薇嶺と会うのも久しいし、今回はお酒でも振舞おうかしら」

「……へ? お酒?」



 ――数時間後。



「いやぁぁぁん! ヴィーローサーちゅあぁぁぁぁぁあん!」


 両手をわきわきさせ、死神に襲いかかる一夜さん。


「いーやーっ!」


 そんな一夜さんから必死に逃げるヴィロサさん。


「……いい? 色絵。女の子はね、可憐でおしとやかじゃないといけないの」


 と、ぶつぶつ話し続ける姉。


『ギャハハハハッ! テメ―とは前からガチで殺り合いてぇって思ってたんだよなあ! ファルゥゥゥッ!』


 ぱっくりと割れた頭から愉快そうに言うヴェルナさん。

 向かって正面には、一升瓶を手に持ったファルさん。にかっと笑って、戦闘態勢で彼女を見据えます。


「かはは! あたしに勝てるはずねーだろがヴェルナ! その妄想打ち砕いてやんよ、かかってきな!」


 ものっそい喧嘩が勃発しました。

 飛び交う家具。その間にはいつのまにか月夜さんがいて、


「やめて! 私をめぐって争うだなんて……私、そんなの望んでない! ……でもそれって、なんだかヒロインみたいで、とても素敵だよね!」


 と、テンション高めで訳のわからないことを言っています。

 止めるはずのヴィロサさんは一夜さんに追いかけまわされ、それどころではないご様子。


「あぁーんっまっとぅえーん! そのチェリーが食ーべーたーいーのー!」

「だ、黙れ! 私に寄るな、この色情魔っ!」


 ついには捕まり、一夜さんの餌食になるヴィロサさん。

 ドレスを剥ぎ取られ、あわれもない姿にさせられてしまいます。


「……色絵、聞いているの? ちゃんと聞きなさい。そんな猿みたいな顔をして……まったくもう。そんなだから迷子になんてなるのよ……」


 と、姉は独り言をぶつぶつと言い続けています。


「……………………」


 みんな酒グセ悪っ!

 ちなみに、姉はずっと猿の置物に話しかけていました。

 わたしはお酒が飲めないので、一人スコーンをお茶請けにローズティを頂いていました。




 後日談そのさん。




 これは後日談と言いますか、なんと言いますか。

 いまのわたしが現在進行形でそれだったりするのですが……。

 ちょっと回想入りますね。(笑顔)



 ヴィロサさんの屋敷で酒盛りをした翌日。

 わたしたちは御三家さん、一夜さんとお別れをし、帰路についていました。

 その道中。

 二日酔いか、姉は気分悪そうに青ざめていました。

 けれどもやっぱり意地があるのか、


「……だ、大丈夫よ、色絵……」


 と、気遣うわたしを制し、よたよたと歩いていきます。

 かつてロリっ子――もといロリっ狐の椀ちゃんが流されてしまった川。

 そこを歩いていると、


「あれっ?」


 気がつけば、後についていたはすの姉がおらず。


「お、おねーちゃん?」


 見回してみると、川を気持ちよさそうに流れていく姉の姿が――


「ぎゃ―――――――――っ!! なにしてんの、おねーちゃんっ!!」


 慌てて、わたしは川へ飛びこみました。




 ……そして覚醒。つまりなう。

 どうやら……わたしは気を失っていたようです。

 ふるふると辺りを見回してみると、知らない場所、知らない森の河川敷―― 


「……ま、まさか……」


 はい、そうです。

 ご察しの通りです。

 いったい何度目でしょうか?

 またしても迷子です。ここまでくると得意技というか、必殺技ですよね。

 しかも今度は姉妹揃ってという。

 いやはや、本当にお世話になっております。暑中見舞い申し上げます。



「またこのパターンですか―――――――――――――――っ!?」






                おわり



拙い作品ではありますが、

読んでいただきまして、本当にありがとうございました。

またどこかでお会いできる日を心待ちにしております。 独楽



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