第二十話 死神の贈り物
「それで話を戻すけれど――ねえ、色変わりのお譲ちゃん。あなた、面白いことを言っていたわね? 故郷に戻る……とか。それにタカに襲われたって?」
「えっ、えと……」
一瞬、なんの話かわからなくなりました。
わたしは考えつつ話します。
「はい、そうです。やっぱり姉が心配してると思いまして……。タカに襲われた理由はわかりませんが……」
「ふうん?」
ことり、と。
ヴィロサさんは、カップをお盆の上に置きます。
そのお盆を持っているのは月夜さん。頭にはヴィロサさんの帽子が置かれ、テーブル兼帽子掛けにされています。
「……薔薇嶺に会う……ね。あまりお薦めはしないわ」
若干、声のトーンを下げて、そう。
わたしは訊きます。
「なぜですか? というか、ヴィロサさんは姉と面識があるのですか?」
「……ただの友達よ。そう、ただの友達。だからね、色変わりのお譲ちゃん。私はあの子の悲しむ顔は見たくないの。……いえ、これは違うわね。薔薇嶺もあなたも悲しむことになるから――だから、いまのあなたには会って欲しくない……というのが本音かしら」
言葉の意味がわからず、首を傾げてしまいます。
悲しむ……わたしとおねーちゃんが?
なにゆえ?
「それでも会いたいって言うのかしら?」
真っすぐとわたしを見据えるヴィロサさんの目。
わたしは疑念を振り払い、頷きます。
「そ。……なら、渡しておきたいものがあるわ。着いていらっしゃいな」
言って――ヴィロサさんは帽子を手に取り、立ち上がります。
家具にされていたお三方はようやく解放。
「あの、どちらに?」
「私の部屋よ」
*
「つー訳で、だ。あたしがその洞窟まで案内してやるよ」
ニカッと笑いながらファルさんが言いました。
あれから、わたしたちは【死神】さんのお屋敷を後に、大樹の根本に戻っていました。
結構な時間が経過したと思っていましたが、入ったときとお日様の位置は変わらず――あの空間は時間間隔すら曖昧なようです――丁度お昼くらいなのだろうと予測できます。
「なんで珍獣のあなたが案内することになってるのよ」
と、月夜さんは相も変わらず悪態をつきつき。
「仕方ねーだろ、ヴィロサがそう言うんだからよ。それにあたしゃ【霊護】だ、お前らを守る役目がある――って同じこと何度言わせんだ」
「勝手に言っているのはあなただけどね」
「ん? んー……たしかにその通りだな。つか、月夜。お前はどうすんだ?」
「どうするって、どういう意味?」
ファルさんはちらりとわたしを見、
「あたしゃコイツに着いてくけどよー。お前もどうだ? 誰かを助けるってのは、案外気持ちの良いもんだぜ?」
「……私? 私は……」
月夜さん、黙考。
わたしとしては、せっかく知り合えたのですから、もう少し一緒にいたいと思う気持ちもありました。けれど、無理にとは流石に言えません。
彼女の判断を唇を結んで待ちます。
「……いいわ。私も行く。行けばいいんでしょう」
「なにゆえ自虐的ですか……」
「よっしゃ、決まりだな! さっそく案内してやんよ。もたもたしてっと、日が暮れっちまわぁ」
先導するファルさんにわたしたちは続きます。
隣に並んで歩く月夜さんがぼそっと、
「……べ、別にあなたのことが心配だからじゃないんだからね。かぼちゃパンツは私のアイデンティティなんだから……そ、それを広められたら困るから、一緒に行くんだからねっ!」
「え? いきなりなんですか。というか、キャラがおかしくなってますよ?」
「ちょっとツンデレを発揮してみました」
「…………」
いや、知りませんけどね?
「そんなことより、それ――」
と。
月夜さんはわたしの胸元へ視線を送ります。
「――ヴィロサに貰ったんだね?」
こくり、と。
「なんだかよくわからない話をされましたけど……簡単に言えば、『貴女は纏まってないから、これを身につけておきなさい』……と」
「……へえ? まあ、ヴィロサも案外お節介だからね。死神のくせに世話焼きってのも面白い話だけど」
死神さんに頂いたこれ。
わたしが首から下げているペンダント――初めてヴィロサさんに会ったとき、彼女が身に着けていた『吸魂牢』のペア……らしいです。ヴィロサさんのものとはデザインが違い、頂いたこれはドクロではなく華の冠のような形をしています。
「わたし、アクセサリーって身に付けたこと無いので、ちょっと嬉しいかもです」
「よく似合ってると思うよ」
月夜さんにはめずらしく、お褒めの言葉を頂きました。
「透き通るほどにね」
意味深な発言もついでに。