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第十九話 キノコのお茶会 そのさん

「……まったく、いい加減にしてほしいわ。ファル、ヴェルナ。なんでこの私が、わざわざ自分の手を煩わせなきゃいけないのかしら? その理由を説明してほしいものね」


 わたしは、【死神】さんの恐ろしさを改めて認識しました。

 ヴィロサさんは心底呆れたように言います。 


「訊いているの? 答えなさい、ファル」


 ぺちーん、と。

 音を立ててお尻を叩かれるファルさん。

 意気揚揚、勇猛果敢、大胆不敵。そんな言葉が似合いそうだったアニマタ・ファロデスさんは、いまや床に四つん這いになって、【死神】――アニマタ・ヴィロサさんの椅子代わりにされています。

 実に優雅に座られているファルさん。

 かたや、凶暴なつぼみキノコ――アマニタ・ヴェルナさんは、無残にもヴィロサさんの足置き台にされていました。

 皮肉なことに、少し高めの身長のファルさんは四つん這いになってみると丁度良いサイズの椅子であり。まん丸ふかふかのヴェルナさんは、形・色・座り心地と、その機能性はオットマンとして見るに申し分なさそうです。

 そんな椅子にされているファルさんは、億劫そうに、


「……あー……悪かったよ。今後は気をつける……」

「理由になってないわ」


 ぺちーん


 と、またお尻を叩かれるファルさん。

 足の置場にされているヴェルナさんは、頭のしゃべる口を閉じ、コートの下に隠れていたメタル調のとげとげしいライダースーツを顕わに、なにやらうわ言のように、ぶつぶつとつぶやいています。


「……なんで僕まで……ファルのせいだ……絶対ファルのせいだ……」


 それが耳触りだったのか、ヴィロサさんは一旦足を大きく振り上げ、そのまま勢いよく振り落とします。


「ぐふぅっ!」


 うめくヴェルナさん。

 あう……痛そう……。

 なんだか可哀想になってきました。


 以下、回想です。



『ギャハハハハハッ! テメ―如きにヤレると思ってんのか、ああ!? 舐められたもだなオイ! 子守りしかできねーくせにイキってんじゃねーぞファルッ! ズタズタのバラバラのボッコボコにして庭に丁寧に埋めてやるよ!』


 白いコートをはためかせ、ヴェルナさんは頭の口からそう言います。

 相対するファルさんは、さぞや楽しそうな笑みを浮かべ、


「かはは! 出来るもんなら是非やって欲しいもんだな、ヴェル! だが、ズタボロんなんのは果たしてどっちかな? まあ安心しな、てめーの命だけは護ってやんよ! 半殺しは確定だけどなあッ!」


 双方殺気だって、喧嘩を始めようとするやいなや。


「……やれやれだわ……」


 ヴィロサさんは優雅に立ち上がり、白百合の帽子を残して姿を消します。


「――ぶべらッ!?」

『はぐぅっ!?』


 と、悲痛な声が聞こえたのはそれと同時でした。

 はらり、はらりと宙を舞う帽子を優しく手に取り、ヴィロサさんはファルさんを足蹴に、片手にヴェルナさんの頭を掴み、壁に押し付けていました。


「……客の前ではしたない真似はやめて貰えるかしら? しつけが必要のようね、ファル、ヴェルナ……」



 すぱーん、と。

 痛烈かつ爽快な音が、わたしを回想から引き戻します。

 どうやら、ファルさんが、またしてもお尻をシバかれたようです。

 ヴィロサさんは紅茶に手を掛け、唇をゆっくり湿らせるように一口。

 家具にされているお二方の悲壮感もあってか、その優雅な振る舞いに畏怖のようなものを感じました。


「まったく……ごめんなさいね、身内のみっともない姿を晒してしまったわ」

「い、いえ。ぜんぜんだいじょうぶです」


 若干棒読みになってしまいます。

 けれど、それも仕方ないことだと、ご理解いただければ幸いです。

 ……いや、だって怖すぎますもん。このキノコ。

 ガクブルですよ。


「ね、ね」


 と。

 テーブルの隣に座っている月夜さんが、口に手を添え、ぼそぼそと話し掛けてきました。


「服が直ったんならさ、さっさとここを出ようよ。かぼちゃパンツも隠せたし、私としても、こんなところに長居なんてしたくないしさ」


 わたしもぼそぼそで応えます。


「ど、同感です。紅茶は振舞ってもらいましたけど、こんな恐ろしいキノコ相手にしてたら、命がいくつあっても足りません」

「そう、たまらない。本当にたまらない。私も、怒ったヴィロサを見るのは初めてじゃないけどさ。このままここにいたら、どんなお鉢が回ってくるか……それはわかったものじゃないし、想像したくもないよね。さしずめ珍獣二匹を従える猛獣ってところかな」

「あらあら。ずいぶんな言われようね」


 声に、わたしたちはビクーっと身体を跳ねらせます。

 恐る恐る見てみると、ヴィロサさんは笑顔でした。

 けれど、その眼は笑っておらず――


「聞こえているわよ、月夜」


 家具がまた一つ増えました。




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