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第十三話 またこのパターンですよ……

 はい、迷いました。

 驚くほどすんなり迷子になりました。

 もう得意技ですね、ありがとうございます。平素はお世話になっております。


「ここ、どこですかぁ……」


 点々とまばらに生える雑草。

 撫でる風に揺られ、青々としたその葉は躍動を示し、辺り一面を敷き詰めるのは、わたしの頭ほどもある大きな岩石。貫禄、ありありです。

 その景観は霞むほど遠くまで続き、悠久を思わせるほどに雄大で、美しく――そして、ちょっぴりと切なく。

 まるで、いまのわたしの心を映し出しているようでした。


「ここどこですかあ――――――っ!」


 それは主に切ないという意味でですけどねー。(涙)

 助けを求めるように、誰に言うでもなく叫んでみますが、当然返事はありません。

 知らない土地から、知らない土地へ。

 うつぎちゃんとまりちゃんに連れられて来たものの、あのロリっ狐たちはいなくなっている始末。


「……あの蝶々がいけなかった……」


 それは道中のこと。

 ふりふり宙を舞うそいつを発見した槍ちゃんは、持っていたヤリでつつく、という遊びを始め、機敏かつアクロバットな動きで追いかけまわし、楽しそうな槍ちゃんにつられ、椀ちゃんもそれに加わり――気がつけば二人は遙か先。

 わたしは置いてけぼりをくって、またしても一人になってしまったのでした。


「またこのパターンですよ……。はぁ……なんでこうなっちゃうかなぁ……」 


 運命に悪意を感じる……。

 旅の仲間、というか案内役を失い、途方に暮れつつ、足元にあった石をイス代わりに腰を下ろします。

 すると、目の前にあった岩がごろり、と転がりました。

 んー、と唸るような声。

 姿を見せたのはハサミムシです。


「なんや、やかましいなぁ! こっちゃ気持ちよう寝とるんやさかいに、んなあほみたいにぎゃあぎゃあ叫ぶなや、だあほ」

「きゃあ! ムシケラ!」

「む、ムシケラッ!? 間違っちゃえんけども、出会い頭にそんな暴言吐かれるとは思わんかったわ! てか、可愛い顔してきっついな、あんた!」


 怒涛の突っ込みを繰り出すハサミムシさん。

 ……うん、なんだろう。

 これまで出会ったのが個性的なキノコばかりだったせいか、わたしが突っ込みに回るほうが多かったので、少し新鮮な気持ち。


「ん? あれれ?」


 そこで、はた、と気がつきます。

 あまりに流暢りゅうちょうに話すものだから、違和感なく話せましたが……そもそも虫って、しゃべれましたっけ……?


「わたしの言葉がわかるですか?」

「わかるから話とるんやろう、あほかおまえは」


 うっわ、このムシケラ、口が悪い。

 革翅目かくしもく風情に馬頭される日が来ようとは、思ってもみませんでした。

 陽光を反射する目を打つような光沢のあるボディ。頭からぴょんと生えた二本の触覚に、お尻には大きなハサミがぬっと突き出ています。挟まれたら痛そう。


「…………ん」


 目下、見降ろすその姿を見ていると。

 なんでか、

 なんでだろう?

 踏んずけてやりたい衝動に駆られるのは、無邪気な乙女心でしょうかね?


 むんずっ


 パンプスの底を背中に押しつけてやります。

 ぐふぅ……と、短いうめき声をあげるムシケラさん。


「可憐な淑女レディに対して、それはあんまりなお口の利きかたなのではー?」


 じたばたする六つの足。ふりふりと揺れる二つの触覚。

 彼のほうが食物連鎖観点から見て上位者であり、大昔のジュラ紀から種を存続している大先輩ではありますが、そんなこと関係ありません。

 清楚可憐で純粋無垢なわたしだって、たまには怒るのです。

 ロリっ狐たちとはぐれ、やり場のない憤りを吐き出したかった、というのもあったのかもしれません。


「うっ……、し……」


 苦しそうに悶えるハサミムシさん。

 ちくっと、心が少し痛みました。

 これじゃあ単なるやつ当たりです。彼にしてみれば、寝ているところに騒がれ、起こされ、顔を出したらキノコに踏みつけられたのですから、それはたまったものじゃない。

 ちょっとやり過ぎちゃったかな……と、自分の軽率さに少し反省。


「……し、白のかぼちゃパンツ……」


 おもっくそ力を入れて踏みつけてやりました。


「なに見てるんですか、なに見てるんですか、なに勝手にわたしの下着を見てるんですか」

「ぐっ……、ふぐおぅっ……す、すんません、マジ調子のり過ぎました、堪忍してください」


 ともあれ。


「なんであなたにわたしの言葉が通じるのか、と訊いているのです」


 岩に腰を下ろし、片足を組んで高圧的な態度を装い、言及。(ガードはぬかりなく)

 ハサミムシさんは地べたに足をつけて、わたしを見上げています。


「んなこと言われてもなあ、通じるんやからしゃーないやろ。俺かて会話できるキノコと会うたん初めてやし」

「他にキノコを見たことがあるのですか?」

「あるで」


 会話はできひんかったけどな――と、ハサミムシさんは頷きます。

 といっても、頷く首がなかったので、相槌のように触覚をぴこぴこと上下に振るだけでした。


「よろしい。その情報を提供なさい」

「……あんた、結構容赦ない性格しとるよな……」

「覗き魔に礼節を持ってあたれと? それこそ冗談でしょ」

「不可抗力やん」

「お黙りなさい」

「……まあ、減るもんじゃなし、構わんけど……代わりに一つ、お願いきいて貰えんやろか?」

「お願い?」


 その言葉に、眉をひそめます。


「まあ……たしかに。タダでというのも、後味の悪いものがありますしね。で、なんでしょうか? 出来る範囲でなら、訊きますが」

「かじらせて」

「へっ?」


 つまり、食させろ、と?


「それはお断りですよ。わたし痛いのは嫌いですからね」

「なら甘噛み! イチカプでええから! 痛くせんから、後生やさかいに!」


 ムシケラさんは、どこか必死です。

 そして表現がいやらしい。


「んんん……それなら、まあ、構いませんけど……。けど、わたし毒もってますよ?」


 がぶり


「やんっ」


 忠告を無視してがぶりんちょされました。(虫だけに)


「なっ、なんやこれ! 激ウマ! こんなん食うたことない、ウマすぎるにもほどがある! カプった瞬間から腹ん中が狂喜乱舞して踊っとんのがわかるくらいや! なんかお花畑も見えてきたし――こ、これはもしや、桃源郷っ!? ウマすぎて頭ん中がお花畑に!? た、たまらんっ! こりゃあたまらんでえっ! た・ま・ら・ん――――――――――――ぐっはっ! …………」


 口から白い泡を吹き、べたり、と岩の地面にへたり込んでしまいました。

 四肢はびくんびくんと痙攣しています。


「うわー……」


 綺麗な薔薇にはトゲがある――を地でいくように、実はわたし、毒キノコだったりします。

 その毒性は強く、ひとかじり程度の小片でも食してしまえば強烈な胃腸系中毒を発症したり。しかし、わたしはまだ幼菌ですから、そこまでの毒は持ち合わせてはいないはず。


「あのもし、ハサミムシさん? 大丈夫ですか?」


 調子を気遣い、手を差し伸べようとしたそのとき。

 ハサミムシさんの身体から、ほわり、と。

 タンポポの胞子のような光の玉が浮かび上がってきました。英語で言えばボール・ライトニングです。


「……これ……、前にどこかで見たような……」


 宙を舞うそれはわたしの顔を照らし、少しずつ上昇。

 ふよふよ、と空高くまで登っていき、やがて煙のように消えました。


「……? なんだったのでしょうか」


 とまれ、ハサミムシさんに目をやります。

 身体の震えは止まり、六つある足、触覚ともに力なく倒れています。


「大丈夫ですかー? もしもーし」


 ハサミムシさんの身体を揺さぶろうと触れた瞬間。

 わたしの意識は、ぷっつりとブラックアウトしました。



 登場キャラクター紹介。


・ハサミムシ


【岩の裏で寝ていたムシケラ】


■分類:節足動物門昆虫綱ハサミムシ目

■和名:ハサミムシ

■解説:しらん


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