第一話 わたしは目覚めます!
長く寒い冬が終わり、やさしい木漏れ日が差し始める季節。
活気づいた森はその色を増し、命芽吹くあたたかな陽気につられ、わたしはゆっくりと目覚めます。
――春。
わたしたちの住むここは、とある高山地帯の森の中。
コメツガやシラビソ、カラマツといった針葉樹が生い茂る林。豊穣の大地。
地に落ちた小枝の陰から、ひょこっと顔をのぞかせてみると、
「……はわっ」
射し込んでくる日差しに、思わず目をぱちくり。
氷のように透き通った空気。
気持ちのいい陽光に、幾多の老樹が大きな影を地面に映し、木々は青い空を背景に、涼しげに揺れていました。
「んんぅ……、ねむねむです……。おねーちゃん、もうちょっとしたら起こしてぇ……」
眠た眼をくしくしとこすり、わたしは姉に言います。
すんすん、と鼻を利かせてみると、したたるような新緑の香り。風に揺られた木々がさやさやと鳴り、うとうとしたわたしの頭を、覚醒から遠ざけていきます。
船を漕ぎ漕ぎ、やがて倒れるようにぱたり、と。
地に身体を預け、わたしは土の中へと潜り込みました。
「あぁ……ぬくぬくです」
あったかい土の布団にくるまれると、重い目蓋はさらに重くなります。
そうして――心地の良い森の歌声を子守唄に、わたしはいまひととき、夢の中へと旅立つのでした。
……ん? あれれ?
待って。
なにかおかしい。
わたしはそこでふと、気がつきます。
「……おねーちゃん?」
呟きに返事はありません。
「薔薇嶺おねーちゃーん? 毒美ちゃーん?」
いつもなら姉がお節介を焼いてくれるのに……それがない。
毒々しい名前とは裏腹に、可愛らしく、しおらしい毒美ちゃんの返事もありません。
違和感を感じ、わたしはがばっと起き上がります。
「…………?」
見知っている森……のようで、どこか違う。
「葉っぱがいっぱい落ちてる?」
わたしの知っている森はもっと明るくて、地面にこんなにいっぱい木の葉は落ちていません。
両手に抱えて見てみると、これは……
「……広葉樹?」
頭がぐるぐるーっと混乱します。
木の枝だと思っていたのは大きなブナの葉。
わたしの住んでいた森には、ブナなんてありませんでした。
見ると、辺りにはブナの他にミズナラ、カエデなどの広葉樹がずらり、と。
ずらずらーっと。
コメツガやシラビソなど、わたしの慣れ親しんだ針葉樹は一つとして見当たりません。
ぼんやりと雲がかったわたしの頭は、ようやく動き出します。
つまり、
この土地は……わたしの住んでる森じゃない……?
「……ここ、どこ……?」
もしかして迷子……でしょうか?
いやいや、そんなまさか……。
登場キノコ紹介
・色変色絵
【主人公 語り部】
・色変薔薇嶺
【イロエの姉 旅の目標】
以下、公式より抜粋。
■分類:イグチ科ヤマドリタケ属
■和名:バライロウラベニイロガワリ(薔薇色裏紅色変)
第一印象はほとんどの者に「ケバい」と称される、薔薇の花飾りだらけのお嬢様。しかしその立ち居振る舞いは大人しく清楚で見る者を惹き付けて止まない。
髪は頭頂部が白く毛先に行くほど巻いて赤みを帯び、所々に薔薇の花飾りを付けている。髪の裏側が真っ赤に染まり、傷付いたり髪を掻き分けると分け目が青く染まる。
瞳は紅色で強烈な赤い光を放つ。
首から胸にかけてメッシュ生地を使用。
中々の巨乳。
マニキュアは照りの強い紅色で、手首には薔薇の腕輪。
ドレスは胸元がオレンジで下方ほど赤色、裾は大きな白薔薇を模したデザイン。胸元と腰から下には大きな薔薇の花飾りを多数付けていて実にケバい。
ブーツは細身の白色。
下着は黄色と青を使い分け、服の関係でブラは着けない。
外見に反して表情は穏やかで大人しく、人当たりも良い。ただし傷付く事が有ると一気に気持ちがブルーになるのは彼女の悪いクセ。
赤い薔薇の花と高い山で独りで涼む事が好き。
毒キノコである事を知りながらも会いに来てくれる者には表情を緩める。