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【第一話】勇者は常に目立つもの。

勇者って大抵目立ちますよね。

視線って目だつものに吸い寄せられますよね。

つまりは、そういうことです。


 魔法陣の光に学生二人が飲み込まれた後のこと。


 王宮の中心部。二部屋一対で「召喚の間」と呼ばれるところに、ある日突然何かを落としたような・・・いや、何かを「ぶつけた」音が響いた。


 それは勇者が召喚された日のことである。もっとも、気絶していた勇者が意識を取り戻す前のことだが。




(痛い。全力で後頭部が痛い)


 その痛みにより、気絶していた時坂(ときさか) (ひびき)の意識は一瞬で覚醒した。そしてすぐさまあまりの痛みに転げ回ったのだった。



 ☆☆☆



 響はごくごく普通の高校二年生…だと自称する。


 実際には少し変わっている所があるのだが、周りを見る限り自分は普通で平凡だという。事実彼の周りは個性溢れるクラスメイトが数人おり、それと比べてしまえば平凡ともいえなくもなかった。むしろ同じ変人枠に入れられたく無いがゆえに普通だと主張する。

 彼の変わった部分もそれに由来するのだがそこは後々話そう。



 趣味は出来ることを増やすこと。


 詳しく言うなら料理やスポーツ、工学に医学など新しい事を覚え、出来る事を増やすのが趣味だ。

 ただしあくまでそれなりであり、極めることはしないので飽きるのも早い。浅く広くがモットーといったところだろうか?

 ちなみにこの影響で特技も「並大抵のことは出来る」になっている。



 性格は極度の人見知りかつ考え出すと没頭するタイプで、周囲から見ると冷たい外見が伴って無口クールに思えるのか一応本人が気づかない・話題には何故か出ないレベルで人気はある。実際には大抵どうでもいいことを考えていたりするが。

 つまり外見は悪くないのだ、肝心の中身がアレなだけで。


「器用貧乏・話しかけづらい中身残念系」

 これが、時坂 響。

 このものがたりの主人公である。



 ☆☆☆



 何があったのか?


 ようやく痛みが引いてきた頭で寝たまま辺りを見渡す。

 …どうやら真っ暗な部屋に閉じ込められているらしいということはわかった。というよりそれ以外がさっぱりなのだが。暗闇に目が慣れるまでは何も見えないだろう。それよりも夕食のカレーはどうなった。


 違うそうじゃない。


 確か今日は、いや最近はずっとクラスメイトの優希と話しながら下校していたはずだ。

 それがなぜこんな部屋にいる?

 夢の中、つまりは明晰夢…にしては感触(特に痛覚)がリアルだ。思考もはっきりしている(一応混乱しているが)。


(誘拐された?…前後の状況だとこれが正解か)


 寝ていたわけでは無く気絶させられていたのだから、犯人に連れ去られこの部屋に放り込まれたというのがしっくりくる。

 目的は…優希の家目当てだろうか?自分ではそこまで襲う価値も無い気がする。


 後ろから先に響だけ気絶させられ、注意をこちらに向けた優希を後ろから襲い再度気絶させるイメージを浮かべた…ところで気絶する前の光景をようやく思い出した。


(あれは、魔法陣?)


 地面に描かれ発光したあれは、確かにどうみてもRPGのテンプレートな魔法陣。しかも電球の光ではなかったように思う。

 連鎖的に優希の最近話していた内容と掛け合わせもう一つの解答が出る。


 自分はどうやら、召喚とやらに巻き込まれたらしいと。


 いやもしかしたらあの光はスタングレネードのような対人制圧兵器か何かだったのかもしれないが、それはそれで使われるような覚えもない。友人の頭痛の説明もいい加減つけたいのだ。


(召喚ということにしてしまえ)


 そうやって思考放棄する。深く物事を考えるのが面倒になった響であった。そも召喚だとか誘拐だとかに違いなんて大雑把に言えば無いだろう。どっちにしろ重要なのは家にどうやったら帰れるかどうかだ。

 とりあえず起きて辺りをもう少し詳しく調べようかとしたところで、突如上から何かが降ってきた。


「ふぐっ!?」


 そして上から降ってきたソレ…クラスメイトの優希の頭が腹部をクッションにするように落下し、響はその日2度目の涙目になった。




(うぐ、重いぞなんだこれは…って優希?)


 響はなんだかやたら重く感じる優希の頭をどかすと、周りがうっすらと見えるようになったことに気がついた。目が闇に慣れたのだろう。


 新ためて周りを見渡そうと立ち上がったところでふと違和感を感じた。何か大きな服を上に着せられているらしい。やけにぶかぶかするが、とりあえず着たままにしておく。空気がちょっぴり寒いので結構ありがたい。


 周りはやはりというか何も無い。いや、4本の柱が天井へと繋がるよう立ってはいるが物などは置かれていないようだ。

 下はコンクリートでは無く石畳。ひんやりとしていて響はちょっとまた転がりたくなった…が自重した。なるほど服は風邪を引かないためだったのかとどうでも良さげな納得もした。


 明かりが見えないが、おそらく薄っすら光るものか何かが何処かにあるのだろう。もしくは窓はあっても外が月なしの夜か。いくら闇に目が慣れるとはいえ、光源無しでは流石に見えよう筈も無い。

 ちらっ…と優希を見る。

 気絶…いや、


「白米最高ゥ!!…zzzz」

 どうみても寝ている。


 優希は放置しても大丈夫だろうと判断した響は「気絶と睡眠の違いとは何だったか」と思いつつもひとまずもっとも明るいであろう光源の近くを探し、そこで持ち物の確認を試みることにした。


 あと数十秒待てば、後ろで優希が目を覚ましていたのだが…




(見つけた)

 適当に歩くと、ステンドグラスのようなものが部屋奥にあった。日が昇っている間はここに陽がさして明るくなるのだろう。


 さっそく持ち物の確認をしようとした時、足音が聞こえた気がした。


 思わずというか反射的にというのか。

 体を半回転させ、偶然にも部屋の柱が隠すような位置へと移動してしまったのが、この後の人生を分けたのだろう。


 声がした方向から突如として光と音が溢れた。

 眩しさに腕で光を遮る。だが、耳を塞がなければ音は聞こえる。


「勇者様だ」「召喚は成功です」「ああ神よ、感謝します」「ひとまずこちらへついてきてくれませんか?」「え、あの、ちょっ」「いよっしゃあ、今日は宴会だァ!」「これでこの国も救われる…!」


 想像はしていても、やはり呆気にとられるというものである。光に慣れたので腕を下げると、わいわいと騒ぐ白い服の集団が初めに倒れていた辺りで輪になっているのが見えた。そしてそのまま、おそらくは中心にいる優希を回収したのだろうか?入って来た時の逆再生のようにして部屋を出て行った。


 ・・・。


(え、僕はスルーなの?)


 悲しきかな。

 神官からは、柱の陰に隠れて見えなかったのである。

ようやく主人公のお出ましです。

ちなみに一応角度によっては神官達にも見えないことも無かったのですが、服が黒かったり勇者の優希君に視線が集中したりで「無意識の死角」に入ってました。

ようはマジックのアレです。なんていうんでしたっけ?視線誘導?

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