東海への憧憬:プロローグ
その世界の東の果てにはひとつの小さな国がありました。
そうして、その地の西には大きな都がひとつありました。
百年ほど前に人間が開いた大きな都です。今ではその地に眠っていた豊かな鉱物や肥沃な土地により、それは日に日に大きくなっておりました。
しかしそんな大きな都のすぐそばには不気味なひとつの森が、人の手を付けられることなくのっそりと残っておりました。
なんでも稀代の陰陽師といわれている先代がわざわざ「あの地には手を出してはならない」との遺言を残したという、へびのあやかしの森でありました。
「あそこには恐ろしい蛇の神様が眠ってるんだ。決して決して、手を出すんじゃねえぞ」
時にあやかしを退治し、時にはそれを使役する陰陽師たちにとって、あやかしは恐怖の対象といえども対等に渡り合える相手です。
しかし神ともなれば話は違いました。森羅万象を司る神々の前には、人間など赤子よりもか弱いということをよおくわかっていたのです。
だから「へびの森」は恐れとともに、そこにそっと在りつづけておりました。
しかし行ってはいけないと言われれば言われるほど、行きたくなる輩というのはどこにでもいるものです。
その代表格が「こどもたち」でした。一度も怖い目にあったことのないこどもほど無謀なものはありません。
だから親たちは、いつかしら流れていた噂話をより恐ろしくしてこどもたちに聞かせておりました。
「蛇の森には行ってはいけないよ。蛇骨婆という怖い怖いあやかしに食われてしまうからね」
さてこれは、その怖い怖い「蛇骨婆」と出会った、ひとつの存在のおはなしです。