Heaven Sylphide(6)
それからすぐにホテルの外に出た。
俺たちは今までなぜか使わなかったインカムを使うことにした。
さっきまでお遊び気分も入っていて、事態をあまり深刻にとらえていなかったことを表している。
もしあらかじめインカムを使っていれば、風使いと出会うこともなかっただろうに……。
辺りは特に変わったことはなく、目立った変化は見られない。
だが囲いの外出ると状況は変わっていく。
一番近い北門から出て反時計回りで西門付近を目指すが、そこまでいかなくても北門から西回りで100mもないところに軍事省のものと思われるシルバーのランドクルーザーが三台止まっている。
ボンネットと扉側面に『LEGEND』とゴールドで塗装されており、その後ろにクリスタルの結晶に羽が生えたデザインのシンボルマークが付いている。
こいつはただの一般車両ではなく重装甲使用となっている。
見た目も分厚く、明らかに重たそうなデザインで、全ガラス防弾使用、さらにルーフが開いて機関銃を取り付けたりもできる。さらに大型無線機などを搭載した特別製である。
日本ではこのタイプはほとんど見かけないだろう。この系統の製品は主に中東などの治安の悪い地域で販売しているからだ。そのため国内ではメーカーが直接販売していないようだ。
黒くて反射する遮光フィルムと夜の暗がりにせいで中はまったく見えないが、助手席と運転席には男女が乗っており、無線で連絡を取っている様子が見える。
それらを通り過ぎて、角を曲がると西門が遠目で見える。
今度は風紀省のスープラは一台とバンが三台停車しており、風紀省の正規の人たちが『H&K G3』を肩にかけている。
こちらも作戦会議と言わんばかりの状況だ。
まだ暗くて良く見えないが、あそこが事件現場で間違いないだろう。
これもまた一種の内部抗争の続きのように思える。
これはあくまでも俺の予想に過ぎないのだが、このまま何かしらのアクションの後にターゲットの捕獲争いが始まるだろう。それだけならまだ良いが、捕まえたターゲットの奪い合いが始まる可能性の出て来る訳だ。
そうならないことを切に願うよ。
『二人とも聞こえる?』
インカムから部長の声が聞こえて来た。
「はい」
「聞こえるわ」
ほぼ同時に返す。
『ちょうど今展望台の上にいるんだけど』
すごい場所にいるんだな、展望台の上だってさ、どこだよそこ!!
どうやら辺りを見回すために一番高いタワーのその上に上ったらしい。正確には展望台から立ち入り禁止の場所に入ったのだ。
俺たちは立ち入り禁止とあれば入って、まるで小学生みたいだ。
『西に風紀三部隊、北に軍事二部隊、南に風紀五部隊、東に風紀二部隊、軍事一部隊、ホテル敷地に軍事一部隊、風紀スパイ三部隊ピラミッド付近の林、かなりの大事になって来てるわ。もし危ないと思ったらすぐにここから逃げなさい。死んだら元も子もないわ』
「それだけ待機してるのに敵は確認できないんですか?」
『そうなんだよね~、実際ターゲットの出現は確認できていないし、だから待機してるんじゃない? それにしてこの数はよっぽど来る確信がないと出ないし、何か裏があるか、こっちには流れてない情報があるんじゃないかな?』
「……その可能性は高いわ。『守護部(GUARDIANS)』の動向わかる?」
『風紀委員会からの情報が正しければそれなら今は『翠光館』のけ警備に当たっているはずよ、それがどうかしたの?』
首を傾げるような声で言った。
それにユーは空かさず応答する。
「そこに『気態流動』が幽閉されているはずよ」
『本当なの?』
そうかそういうことか!!
あの時使用人が言っていた「部屋を一つ開けておく」とは捕まえた彼女の幽閉先のことだったということか。
「ああ、おそらくはそうだ」
となると風紀が動いたのは手柄横取りのため、軍事が動いたのはそれの防衛のためということになる。
「戦場は『翠光館』ということになります」
『その読みは正解だったみたいよ、東門に風紀省の車両が五台来たわ』
その中には護送車も含まれていることからはすべてが『予測通り(TRUE)』であることが確定されたようだ。
一応風紀省は俺たちのバックに付いている訳だが、捕まえる時は影から見ているだけ、捕まったら今度は手柄を横取りとか、何だか情けなく思える。
それでも一応は味方なので、この作戦を援護することになるのだろうか?
「……どうする? 動く?」
『待って、私たちに与えられているのは新たな二人のターゲットの確保にある、あっちは無視して構わないわ』
その通信の後ろで御影先輩の声と雑音が入り混じる。
『――――ピラミッドの天辺に誰かいるわ!!』
ピラミッドの頂点に片端だけをチョンっと載せて身軽そうに立っている女子生徒が一人、しかも、その制服はよく見慣れたものだった。
長い髪の女子生徒、他は影となってわからない。
ここは西門、ピラミッドには一番近い場所だ。それ故に良く見える。天辺にいる者の姿が、まるで傍観者のようにただただ、この緊迫した状況を眺めている。
高みの見物、そういう物腰で見ている。
部長がその情報の風紀省にも流したようで、近くに待機している風紀省の部隊が一斉に斜め上を双眼鏡理や一部の『H&K G3SG/1』に装備されているスコープで覗いて見たりしている。
こっちが動く前に風紀省が動く。
ロックされている西門の鍵を破壊し、足音を立てないようにゆっくりと入って行く。
一人、二人……十二人が侵入し、五人が車で待機している。
それはここだけではなかった。
『東門も動き出したわ』
「作戦が開始されたか」
『私たちも独自で動くわよ、私と乃々ちゃんで東門の援護に行くから、ピラミッドは任せるわ』
「……わかったわ」
「俺たちも行こう!!」
武装チェックを一通りする。
「ダメだ」
予備弾倉を確認したが、地下貯水槽で水に落ちた時、水没して、薬莢が湿気って使い物にならなくなっている。
拳銃なしでは、俺は真の役立たずを超えた足手まといになる。
「……壊れた?」
「いや、さっき溺れた時にダメにした。水が入ってる」
「……なら、これ使って」
スカート中からでてきたのは『SIG SAUER P250』にレーザーサイトをつけて銃だった。使用弾薬9mmパラべラム弾、装弾数17+1発、弾数が多く扱いやすい銃だ。
まさか、あのユーが帯銃していたとは、いつも身軽そうにしているか、気づかなかったが、ちゃんとしているんだな。
「いいのか」
「……私は使わないから」
「ありがたく使わせてもらうよ」
「急いだ方が良いわ」
急いだ方が良いと言ったのは、激しい銃撃音が聞こえてきたからだ。
ピラミッドの頂上に、ターゲットの姿がない。もうそいつと交戦していることは間違いないだろう。
ユーが先頭で走って、壊された西門を通って向かう。
門の前に待機していた風紀省の部隊もユーの姿を見るなり、御通りくださいと言わんばかりの態度を見せた。
ユーは名の知れた能力者であることを実感させる。
西門は非常用であり、一般通用門ではないので、舗装された一本の細道の脇に木々が等間隔で敷き詰められており、街灯もなく西門から離れる度に暗くなる。
暗視ゴーグルでも持っていれば周囲を遠くから調べることもできただろうが、仕方ないことだ。頼りになるのは銃撃音だけだ。コイツのする方へとゆっくり前進する。
西門から百メートルも行かない場所でマズルフラッシュを確認した。
さらにそこから三十メートルない所で、銃撃戦が行われている。
こいう時こそ『回路解析』だ!!
すぐに状況を掴むことができた。最初っからそうしていれば良かった。
「風紀が三、二で右側二十メートル、左二十五メートル、さらに左五十メートルに狙撃手二ってとこだ」
方向を指しながら配置を言っていく。
「敵は六十メートル先だ」
その方向を指で示す。
カラーはイエロー、つまり物質系の能力者ということだ。
やはり、俺の力ではその能力が何かまではつかめない。肝心な所で役に立たない能力だとつくづく思う。
「やっぱり敵は能力者だ」
「……右側から周り込むわ、京が右サイドから援護して」
「わかった」
ユーはほとんど無音で高速に暗闇の中に消えた。
その最中にも右の二人がやられ、下がっていく。
どんな銃をつかっているのかはわからないが、命中精度が高い。それにあの弾幕を能力者が持つスキルの一つである銃弾予測で躱している。
弾幕を張っている内に俺も『SIG SAUER P250』のアイアンサイト狙いを付けた。
G3の弾道から躱しにくい場所を狙う。
俺は肩に銃口を向け、セミオートで3発撃ち込む。
だがそれに気づいた敵は、左手に持っている何かで相殺したようだ。
短剣、ナイフ、ダガーと言ったところだ。
無線で後退指示が出たのか、狙撃手の方へ左の二人も下がって行く。
俺はさらに前進して、近づく。
それと同時に銃口を向けられたのがわかった。
弾丸予測で、俺の銃を狙っている。
マズルフラッシュと同時で右にダイブし、木を盾にする。
木と銃弾がぶつかるバキバキという音が何度なり響く。
それからすぐに銃声が止んだので、俺はセミオートで撃ちながら前進した。
敵が肉眼で形をはっきり確認できる距離まで詰めた。
俺は近くの木を再び盾にするように銃を構えた。
敵は『IMI mini UZI』の三十発マガジンを捨て、スライドを戻して後ろよりの腰のホルダーにしまう。
――――ササーーッと突如敵から五、六メートル右の茂みからユーが飛び出した
「『……次元振動刃』」
「やるじゃん」
そんなセリフを吐き、見事なバックステップで躱し、カッターは地面を深く抉ったが、そのせいでピンクの下着が見えたのは不良の事故だ。実際には暗すぎて、何となくしか色はわからなかったため、俺の勝手な考察となっている。
そのまま正位置着地し、長い髪を整えた。
「……何者?」
平たんな口調でユーが言う。
「いいわ、教えてあげる。私は『REVIVE』所属、足守ミレア、『煉獄(Purgatory:ペガトリー)』の能力者、『討滅の炎剣(Crimson Destroyer:クリムゾン デストロイヤー)』の使い手よ」
鋭い漆黒の瞳で俺たちに正体は明かしたのだ。
まるで、その程度の情報与えてやると言わんばかりに……。




