Heaven Sylphide(5)
地下から出た場所は、ちょうどカジノの南門の方にあるホテル横の立体駐車場の地下だった。
まわりはコンクリートで薄暗い、車は数台止めてあるだけであまり繁盛していないようだ。また奥のほうには車を移動させる大きなリフトが見える。
やはり扉には黄色と黒の縞模様に『関係者以外立ち入り禁止』の文字が書かれていた。
よく見かける文字列ではある。最近その中に入ることが多いせいか、どこ入っても地下の通じている気さえする始末だ。
それから端の方にある階段を使って外へ出る。
カジノに入ったときはまだ真昼だったが、外はもうすっかり日が落ちて暗くなりつつある。気温も下がってきているが、これでちょうどいいくらいだ。
俺たちは出た立体駐車場は上にも3階建であったようで、その横にはホテルなどの背の高い建物が並んでいる。
2車線道路を渡り、南門からカジノに入ることにした。
この門が正規ルートといえるだろう。
あの凱旋門もどきがある、4つの通用門の中で一番大きい、門を抜けるとあのユーとみて回った噴水が昼間とはまるで別の噴水のように見えるのだ。
それもそのはずだ。
鮮やかな赤や青や黄色の光に照らされ美しく輝きを放つ水しぶき、女神像もライトアップされている。噴水の中と外から明るく照らされており、幻想的な風景を創り出している。
人も昼間とは大違いで、大勢の人々で取り囲まれており、写真を撮ったり、硬貨を投げ入れて願いごとをしたりする人もいる。
その半数以上がカップルで、俺もなんとなくシルの手をつかんでいた。
「あら、エスコートしてくれのかしら?」
「そんなかっこいいことじゃないよ、この人混みだ、はぐれたら大変だろ」
俺は若干テンパるものの、最後まで噛まずに言い切ることができた。
「嘘はよくないわ、でも手をつなぐことは悪くないわね」
ギュッと強く握り返しなふがら言う。
「そこは素直にうれしいって言うとこだろ?」
「京四郎様こそ、うれしいんじゃないの?」
「じゃあお互いさまだな」
「そうね」
俺たちはまるでカップルのように噴水を見て回ることにした。
本当はそこまでしなくてもよかったのだが、なんだかこの雰囲気的に離れ歩いたら居づらいというのもあるが、この頃あまり、シルとまともに会えなかったので、スキンシップを取りたくなった。
こっちが本音だろう。
それを無意識のままやってしまうのだから、相当のものだ。
「この噴水に願いが叶うと何とかって言う話、知ってるか?」
「もちろん知ってるわ、悠ちゃんが女神像の水受けに百円玉を投げ入れてるところ、かなり迷ったけど結局五百円玉を噴水に投げているところとかもばっちり見ていたわ」
シルさんあなたはストーカーか何かですか?
「それと私もあそこでランチしたかったわ、しかたなく私は一人で八階の回らない寿司を食べていたのよ、一人で」
「一人で」を強調しながらも、しかたなく寿司を食べたとか、シルも贅沢にできたものだな。それにしても銀髪の少女が一人、回らない寿司を食べるとか、シュールな光景だと思うのは俺だけだろうか。
これは間接的にさみしいと言っているようなものだ。
「わかった、今夜は一緒にディナーでも食べよう」
「楽しみにしているわ」
それから俺たちは噴水をぐるりと周り、セントラルエリアにある展望台へ向かおうとしていた。その間、シルはずっとニコニコとしていた。
セントラルエリア十階にエスカレーターで上がった時だった。
ハンチングを被っている良く見慣れた小さい女子生徒、正確に言えばアップルブロッサムのセミロングの後ろ姿、その横に一緒に歩いているのは鮮やかなコバルトブルーのロングヘアー、部長と御影先輩である。
今は見つかってはいないがこの状況を見れば誰でも勘違いするに決まっている。慌てて手を離そうとするが、いつの間には指を絡めた恋人繋ぎになっており、離そうとしてもギュッと掴まれ、擦り寄って来る。その時にリンスの匂いだろうか?
甘いミントの香りが強く感じられ、俺は一瞬にして思考を停止してしまった。
それがとても良い匂いであったので、逆に離れることが勿体なく思ってしまう。
そんなことをしている内に背後から聞き覚えのある声が聞こえてくるのだ。
「……みそら~~」
間の抜けた声でユーが部長を呼んでいる。
部長は振り返る。
俺たちの仲睦まじい姿が目に浮かぶ。
そして今はここだ。
「あら京四郎随分なご身分ね」
イラッと顔に書いたような表情で詰め寄って来る。
すごく怖いんですけど、でも一向に離そうと俺はしないし、シルもしない。
「とりあえず落ち着きましょう。これには深い理由がありまして」
「黙りなさい!!」
「質問いいか?」
御影先輩までもが興味深々と言った表情でじっくりと見られる。
ユーに後ろを取られ、前には部長と御影先輩と囲まれる形となってしまった。
「何ですか、御影先輩?」
「二人はお付き合いしてるのか?」
「してません、といかこっちは俺の義妹です」
「じゃあなんで手なんて繋いで歩いてるんだ? しかも指とか絡め合って」
「一応デートということになってるんで」
よし、言い切ったぞ。
もうこれはデートだ。デート、それでいい。
「妹ともデートはするものなのか、なるほど興味部深い」
うんうんと頷き納得している。
「そうよ、義妹とはデートするのは当たり前のことなのよ、だから何も不思議なことではないは、家族旅行と同じ理論よ」
シルの良くわからない理論にさらに理解が深まったのか、参考になったとか言って引き下がった。
一体なんの参考にしたんだ?
ここからが本本ラウンド2の開幕である。
「へぇ~、やっぱりデートだったのね、私はこれでもかなり心配してたって言うのに、よりにもよってあのシルシィ・レイステラとデートは、覚悟はできているわね!!」
何の覚悟がいるというんだ?
特に俺がシルと一緒にいるというところが気に食わなかったらしい。ユーとならまだ許されただろうに、今俺は絶体絶命のピンチに遭遇している。
戦闘状態とは別のピンチに遭遇していることになる、下手をすればこっちの方が恐怖となるかもしれない。
「あら、嫉妬はよくないわ、美空。私たちはこれから展望台に行くところなの、邪魔しないでもらえるかしら?」
火に油を注ぐのが好きシルはたちまち挑発する。
俺たちはシルの言った通りこの時間なら夜景がきれいだろうと踏んで、定番のスポットであるところの三十階の展望台に行く途中だったのだ。
それが裏目に出たということになる。
「邪魔何てしないわ、ここで駆除するだけよ、この泥棒猫め!!」
敵むき出しでスカートから『Cz75』が二丁出て来る。
周りにいた一般客がそれを見て逃げていき、このには俺たち五人だけになった。
「ここでやるつもりなの? 私は嫌よ、までデートは始まったばかりなのだから」
それに対して銃を構えることはなく、それどころか、腕と腕を絡ませ、体ごと押し付けて来たのだ。
女の子の柔らかいものを全部押し付けられる。
俺は子供っぽい体型のシルならこれくらいとか思っていたが、それは大間違いだった。
今まで過度なスキンシップはしていなかったので、これが初めての体験となる。
小さいと思っていた胸は未発達にもかかわらずしっかりとして柔らかさを持っていたのだ。その女の子そのものだった。
それに加え甘いミントの香りを強く感じ、さらさらの長い髪が美しく、目の前にある。
「こんな時までいちゃいちゃしてんじゃないわよ!!」
まさにトリガーに指を掛けた時だった。
部長と俺の携帯が同時に鳴る。




