Audit Committee(6)
~Kyoshiro Side~
金属製の重い扉を開けた先は2mくらい掘り下げられた場所で階段がありそこから地上に戻った。場所は校舎裏の林であろう。校舎側からは見えないように隠されていた。すぐ近くに第二部室棟が見えた。つまり図書館から100m近く移動したことになる。
それに『光明館』も見える。
『光明館』とか図書館と第二部室棟の間にある建物で図書館とか少し離れているが第二部室棟とは近い。簡潔に言えば古い洋館、西洋風の趣ある建物であるが建築されたのは明治であるが戦後に破壊された部分の改修とオーナーが変わったこともあって現代建築様式に近いものになっているため、建築当時に姿ではない。現在は理事長がここで暮らしており、歴史資料館として一階の一部を開放しているので見学に訪れる人は多いが、それは主に一年生で二年生以降になると、別に珍しくも何でもなくなってしまい。俺も一年生の時に二、三回行ったきりで二年生になってからは一度も行ってないというか、なったばかりというか。
『光明館』の前には『幸運の噴水』と呼ばれている西洋風の石造りの円形の噴水があり中央には女神が飾られている。
部長はまだ気絶したままでピクリともしない。
俺たちが通ってきた地下通路はおそらく防空壕を改修して作った通路であろう。ここは元々海軍の司令部として使われていたのだから。
さてここからどうしたらいいものか。
下手に動き周って見つかったら一発アウトだ。この辺で逃げられそうなのは第二部室棟と『光明館』くらいだが、『光明館』がこの時間解放しているのかわからない。それに『光明館』正面に行くと図書館から見えるので誰かに発見されると大変だ。図書館と距離があるとは言っても走れば1分もかからない。
第二部室棟は現在では衰退している軍事委員会の数少ない領地で、しかも一番戦力として大きい場所になっている。二年前までは第三校舎に本部を置いていたが、現在は第二部室棟の二階『守護部(Guardians)』を本部代わりにして活動を行っているようだ。そこには『無限の閃光(Eternal Flash)』と呼ばれているAA級の能力者や、月神流の次期当主となる者、『Absolute Absorb 』と呼ばれているAAA級の能力者がいるという資料を風紀委員会で見たことがある。部長の能力で大体B+くらい、俺の能力でC-であることを考えると恐ろしい能力ランクであることは明らかだ。そのため近づくのは危ない。
よってここで部長が目を覚ますのが一番良いことであることはわかっているが、俺は林の中を移動して見ることにした。校舎の方から離れれば、追手に見つかる可能性は低くなるはずだ。
林の方に何があるのか、校内マップには載っていないのでどうなっていて、どこに通じているのか知らないが、普通に考えれば学園が丘の中腹に位置しているので、頂上に向かうことになるだろう。少し上りになっていることからもわかるであろう。
とりあえず闇雲に直進することにしたのだった。
丘の木々がまだ葉をつけてはおらず、閑散としているが進むにつれて木が多くなっているので見通しはあまりよくない。
だが二、三分あるいた所で大きな建物が見えてきたのだ。
俺は行く宛てもないので、そこへ向かうことにした。しばらくすると林を一旦抜けて広い所に出た。
そこにそびえ立つのは教会だった。周りには花壇があり様々な種類の花がたくさん植えられている。
「何だここは?」
辺りは林で何もない神秘的な場所だった。高さは三階建てくらいであろうか。そこまで大きい教会ではない。辺りは風のざわめきだけで他になにもない。
教会は現在も使われている可能性が高い。外観はとてもきれいになっている。
近くまで行くと黒い輝きのある四角の石に『聖スティア教会』と彫られていた。
教会の扉が開いており、中に入ることができた。
中央に赤いカーペットが前方の低い檀上にあがる階段まで続いており、その脇に十二列長い椅子があり、壁には色とりどりのステンドグラスがあり、外の明かりが様々な色に変わって差し込んでいる。
前方の檀上には大きくて銀色の十字架と女神像が祭られている。さらにその右には白のグランドピアノが置かれている。
人の気配はなく、教会ないは俺の足音だけが高い天井に響いているだけだ。
長椅子に部長をそっと寝かせて、俺も座ることにした。
部長の髪が乱れたので、目にかからないようにそっとかきわける。よく見るときれいな顔をしている。いつもあんな部長だから女の子だと意識させられることはあまりなかったのだが。
そんな風にながめているとかなり上の方のステンドグラスからの光を入り方が変わる。というか影が一瞬揺らめいた。
俺はすぐにそのステンドグラスの方を檀上の上を見た。
ステンドグラスの窓の少し引っ込んだスペースに座る制服の少女、銀髪に大きなリボンが特徴的な一年生がそこにはいた。
彼女は唐突現れる。神出鬼没とも言う。
「ちゃんと無事だったみたいね、京四郎様♪」
どうやって入って来たのかは全くわからないが、シルシィが意味ありげない微笑をして座っている。
「どうしてここがわかったんだ?」
「京四郎様のことなら何でもって言ったら?」
「俺は割と真面目に聞いている」
部長はまだ目を覚ましていないが、この状況で起きたら飛んでもないことになりそうね予感がする。
「大丈夫、発信機とか付けてる訳じゃないから安心して、それにこうなることはあらかじめ生徒会からの情報でわかっていたの。だから手を貸したのよ」
「どの辺で手を貸してくれたのか? それともこれから手を貸してくれるのか?」
「あら気づいてないの? 地下通路のドアの鍵が破壊されていたでしょ。あれが壊してあげたのよ。それに今からも手を貸してあげるわ」
そうかあの扉の鍵を壊したのはシルだったのか。道理出来過ぎていると思った。あんなラッキーなことは普通には起こりえない。
「情報をリークしてたなら風紀委員会とか俺たちに教えてくれも罰は当たらないと思うんだが」
「それじゃ面白くないわ」
答えは簡潔だった。シルは悪戯好きだ。だが散々面白がったあとは必ず助けてくれるので憎むに憎めない。
「シルはSだな」
「どちらかといえばMよ。もうわかってる癖に」
「それで俺たちはどうすればいいんだ?」
「美空が起きるまで待ちましょう」
「!?」
ちょっと待ってくれ。そんなことしたらまた面倒なことになるんじゃないのか。シルだって自分でこの前言っていた癖に。
「二人は仲が悪いんじゃなかったのか?」
「そうよ、でも美空の一歩的な敵意だけよ。私は大好きなんだから」
「なら早急に解決してくれ、起きると厄介なことになりそうだ」
俺は疲れたように言った。
「しょうがないわね、でも今の美空じゃ何もできないから問題はないのだけど、京四郎様が言うならしかたないわ、そうしましょ」
確かに銃を持ってない部長が襲いかかるとは考えにくい。それとは別に戦力差もかなりあるように見える。
「早急と言ってもまずこれを聞いてもらうわ」
高い所から重力を無視したようなふんわり感で降りた。
そしてゆっくりとレッドカーペットの上を歩く。
「何だそれ?」
制服のどこからか出したのは無線機だ。
スイッチを入れてチューニングした。
……
『こちらAC32、目標ロスト』
『AC38、非常用通路の鍵が破壊されています』
『その通路は裏の林に抜ける。そっちに4番隊を向かわせよう』
「こんな感じでそろそろこっちに捜索隊が到着しちゃうわけだけど、私がその隊全滅させてあげるわ」
「あまり大ごとにはしたくない」
「でも現に大ごとよ、ならもっと派手にやるべきだわ、それに私は風紀委員、何の問題もないし、恩を売っておけば少しは美空もやさしくしてくれると思うし」
何で仲が悪いか知らないけど、仲直りはしたいらしい。
「わかった、まかせる」
「京四郎様は教会の中で見物でもしているといいわ」
「それは楽で助かる」
実戦ではあまり役に立たない俺にとってはとても助かる。いても逆に的になってしまうし、一応能力者なので頭で弾丸の弾道くらいはわかるが、実際には躱したり何なりというのは別問題だ。それに大人数ならなおさらだ。
「それじゃ美空の御守、よろしくね」
息がかかる所まで顔を近づけて耳元で言ったのだった。
さらりと流れる髪からジャスミンの香りを感じる。
シルは教会の扉を盛大に開け放ち出て行った。




