タンポポ
ワタシの通う高校は、周辺にまだ多くの自然を残している。だから、時々見かける様々な小動物や野鳥の声など、気温の寒暖以外にも、季節の移ろいを知るすべがたくさんある。当然ながら植物もその例外ではない。季節ごと、かわるがわる自分の存在を謳いあげる草花。それらを眺めるのも、登下校の楽しみだ。今日もまた、いつもの道をいつもじゃないものを探しながら歩いて行く。
道端にタンポポ発見。
これも昨日までにはなかった差異。早速スケッチブックを取り出して、そのタンポポを描き出す。
ワタシは、絵を描くのが好きだ。でもそれは、誰かに見せるためではない。自分の興味のあるものを、自分の思ったままに描いていくのが好きなのだ。
芸術とは、身の回りにある存在、広義の自然を自分というフィルターを通して表現することだとワタシは思う。だから、その表現方法は色々あっていいと思うのだ。当然、鑑賞する側には好き嫌いがあるだろうけど、絶対的な評価基準など存在しないはず。だからワタシは、特定の作品にだけ普遍的な価値があるという考えは、いまいちピンとこないのだ。
「ソラー!」
名前を呼ばれて振り返る。大きく手を振りながら近づいてくるのは、同じ美術部一年生の蒲生さん。
「ソラ。こげんところでなんしよーと?」
蒲生さんがワタシのスケッチブックを覗き込む。
「あー。タンポポかいな?」
ワタシの隣にしゃがみ込み、一緒にタンポポへと視線を落とす。
「へ~。タンポポも意外ときれいかねぇ」
うん、うん。
蒲生さんも、違いのわかる高校生だ。ワタシたちは、そのまましばらくタンポポを眺め続けた。
「何してるの? ふたりとも……」
いつのまにか後ろに立っていたのは、もう一人の一年生部員、犬飼さんだ。
「あ、さつきー、おはよー。見て見て、タンポポばい」
「うん、それはいいけど、こんなことしてたら学校遅れるわよ……」
少々戸惑い気味の犬飼さん。
「しまった! ソラ! 急ご、急ご!」
蒲生さんがワタシの腕を引っ張った。
あぁ、まだ描き終わっていないのに……。うぅ、残念だけど今朝はここまで。高校生は忙しいのだ。