起床
ぼやけた視界に映りこむ、見慣れたいつもの天井と壁。カーテンの隙間から差し込む薄日が、そこにうっすら光と影の境界線を描き出す。どうやら朝が来たようだ。
寝ぼけ眼を再び目を閉じ、今度は耳をそばだてる。スズメのさえずり、風の声。したたる水の音はなし。どうやら雨ではないらしい。
雨の日には、雨の日なりの良さもあるけれど、屋外スケッチをすることが多いワタシにとっては、やっぱり晴れていたほうが都合がいいのだ。
コロリと一度寝返りを打ち、目覚まし時計を確認する。いつもより10分早い目覚め。ちょっともったいない気もするけれど、今日はこのまま起きるとしよう。
ゴソゴソ布団から這い出ると、窓辺に移動しカーテンを開ける。そこに広がるいつもの風景。うちの庭木の植え込みも、お隣さんの外壁も、昨日と変わらず同じもの。いつもの日常の始まりだ。
普段聞き慣れた『日常』という言葉。そこに『つまらない日々の繰り返し』という意味を読み取る人は多いらしい。だけど、ワタシのソレはちょっと違う。
この世界に、まったく同じ存在がふたつとないように、繰り返される日々もまた、すべてが同じということはない。
たとえば、一口にワインといっても、それぞれ色や香り、味わいなどに違いがあるという。テイスティングとは、その差異を楽しむものらしい。
お酒はまだまだ早いけど、ワタシは違いのわかる高校生を目指すのだ。
その日その日の少しの差異。ワタシはソレを楽しもうと思うのだ。
決意新たに朝日に向かい、大きくグーっと伸びをする。こうやって日光を浴びると、体内時計がリセットされるらしい。だけど、その体内時計って一体どこにあるのだろう? やっぱり腹時計と一緒で、お腹のあたりにあるのだろうか? お腹を見つめ、グ~って鳴るあたりをさすってみる。
ジリリリリッ!
けたたましく鳴り出す目覚まし時計。ビクッと体が跳ね上がる。
うっかり、うっかり。
アラームを解除するのをすっかり忘れていた。思いがけないドッキリに、ついつい笑顔がこぼれ出る。
少しビックリしたけれど、これもまた、堪能しうる差異なのだ。