カメレオン 2
今回は短いです。
彼女は翔の姉には見えなかった。ロングの黒髪にピンクのピンで前髪をとめていて、左目には泣きホクロがあった。黒いハイネックの服にチェックのひざより高いスカート。顔立ちも整っていてモデルでもやればいいのではないかと思うほどだった。
「あんたさ、友達少ないでしょ。」
翔と同じだった。少し女口調がはいってはいたもののそこには翔のおもかげがあった。
だから。だからなのかもしれない。涙がこぼれていた。そして俺は目の前にいる彼女に抱きつき、本気で泣いていた。私がこれほどまでに泣いたのは今までになかったし、女子から張り手をくらったのも初めての事だった。
「はい。コーヒー。」
そういって彼女は俺に缶コーヒーを渡した。
「俺の金なんだけど。」
「あなた、さっき私に抱きついたでしょ。」
「・・・」
「その代償だと思えば、安いものだと思わない?」
「なぐられた・・・。」
「なぐったんじゃないわよ。ぶったのよ。」
結局同じじゃないか。などと思ったのだが、反論するとまためんどくさくなりそうだったので、それ以上は何も言わなかった。
「でさ、さっきは翔のために泣いてくれたんでしょう?」
「まあね。」
「ありがとう。」
そう言った彼女に顔はどこか悲しそうでそして、今の自分の悲しみを忘れさせてくれるほどに彼女を守りたくなった。
「私ね、裕子っていうんだ。」
「知ってるよ。」
「そっか。同じ学校だもんね。それじゃあさ、ひとついいかな?」
「何?」
「私と友達になってくれない?」
なにも言えなかった。多分この時、自分は言葉を失っていたのだと思う。
「じゃあ。OKね。」
そう言った彼女と翔を照らし合わせた自分が、この時はものすごく情けなかった。なぜなら、自分はまだ翔の死を認めたくはなかったのだから。
「おはよう。」
そんな風に学校で声をかけられたのは初めてだった。今日は2月5日。特に何もない肌寒い日だ。朝、カーテンから覗く太陽の光に「なぜお前はそう毎日毎日上るのか」と愚痴をこぼしながら、朝食のトーストを口の中に詰め込み、牛乳で流し込んだ。母はそんな私に
「あんたはいつもぎりぎりね。やることないのになんでそんなに起きるのがおそいの?」
などと言ってきたため、少しイライラしながら
「やることがないからじゃない?」
と答えると、母は
「奇遇ね・・・、私もよ。」
と言ってきた。言い返す気にもなれなかった。
おっと、話を戻そうか。
「おはよう。」
としか言い返せなかった。というより他にいう単語が見つからなかった。
そんなおどおどする俺に彼女はいった。
「いいのよ。それで。」
「しかし、なんで俺なんかに話しかけるんだ?」
「あなたの、友達だからよ。」
また何も言うことがなくなった。
「じゃあ、また教室で。」
そういうと彼女は腰まである髪をふさふさと動かしながら走っていってしまった。
「うっす。」
などと小さく声をもらして教室に入った。これはいつの間にか俺の日課になっていた。
まあ一度も返事が返ってきたことはなかったのだけれど。
そういって自分の席に着く。俺の席は先日の席替えで窓際後方3番目というなんとも微妙な席になった。
まあ、あまり気にはしないのだが。鞄を隣にかけ、少し空を見ていた。
「今日もまたカメレオンか・・・。」
思った言葉が口に出てしまった。まあ、不可抗力なのでしょうがないか。
そんなことを考えながら、迷彩服を身にまとい、爬虫類のように身を捩じらせながら、人という物体の影に溶け込んでいくのであった。そして、その影の中には真実などないことも、ずっと前からわかっていた。
それは昼休みの出来事だった。いつものように人の隣に見えない壁を感じながらすごしていると、最近聞いたばかりの新しい声が俺の耳に届いた。
「ほんとにカメレオンみたい。」
クスクスと笑いながら彼女はそう答えた。
「うるさいな。いいだろ、別に。」
「よくないわ。友達だもの。」
今考えてみると俺はこの時、自分の予想をはるかに超えた恐ろしい顔をしていたのかもしれない。
なぜなら、彼女の顔が見たこともないまでにゆがんでいたからである。
カメレオン2 完
最近動いてもないのに肩がこります。