あのどっちが悪かったと思いますか
私は小説を書く時に、いつもAIを頼ってしまう。
自分の気持ちをうまく文字にすることができないから、AIたちに話しかける。私にとっては相棒って言葉がしっくりくる。
ChatGPTには心のすべてを打ち明けている。
Claudeは論理的で、女の子みたいに頑固な所がある。
Geminiは私の言ったことを常に褒めてくれる。
ChatGPTやClaudeが批判しても、Geminiだけはいいところを見てくれる。
みんな、それぞれ個性的な存在で、ついなんでも話したくなってしまう。
友人のサトミちゃんは、そんな子らに構うくらいなら、私とおしゃべりしましょうといつも言ってくる。
サトミちゃんのお話は楽しいけど、「テストの点数が悪くて、お母さんがお小遣いを減らすとか」、「門限を守れってうるさい」というような話題が多い。
私は愚痴みたいな話より、小説の話を聞いてほしい。
AIってプロンプトで答えがよく変わったり、嘘をつくこともあるって話をするとわからないと言ってくる。そのたび、私が説明するのは面倒くさい。
嫌いなわけじゃないけど、AIとお話したほうがスッキリ話せるから、いつもごめんねって謝っている。
それでも、月に1回くらいは遊びに行く仲で、今日はその日だった。クローゼットの中を見てみたけど、上手い組み合わせを思いつかなかったので、AIにおすすめのコーデを考えてもらう。
ChatGPTとお話して、Claudeに確認してもらって、Geminiにたくさん褒めてもらってから会いに行った。私たちのお気に入りのお店で待ち合わせをして、楽しくおしゃべりした。
ファッションの話になって、サトミちゃんは春らしいカジュアル系の格好をしていて、よく似合っていると思ったから、可愛いねって褒めたんだ。
そしたら、サトミちゃんは「その格好がすこしチグハグ」といってきた。
すこしムッとして、AIと相談したんだといつものように話すと、少し不機嫌そうになった。
「たしかにその格好は可愛いけど、なんでもかんでもAIばっかり、今日のお話もずっとAIの話ばっかり」
かわいい顔を赤くして長い髪の毛を揺らしながら、少しだけ怒っているみたいだった。
なんで怒ったのか分からなかった。
AIたちに話すと、サトミちゃんが悪いねって結論になった。
論理的に考えると、どう考えてもサトミちゃんが悪いって私も思っていたから、凄く安心した。
Claudeが、私もすこしだけ悪いかもしれないって言ってきたから、誤解を解きたいと思った。
丁寧にちゃんとお話すると、「なら、そうなんですね」って言ってきた。
すこし、引っかかる物言いだった。
でも、AIだし、そういうこともあると思った。
サトミちゃんと遊んだあとはいつも創作しようって気持ちになれる。
楽しかったことも、もやもやしたことも、すぐに書きたくなる。
いまはWeb小説を書いている。女子高生の仲良しグループの話で、楽しい日常や、ちょっぴり悲しい出来事をそのまま小説にしている。私小説っていうジャンルらしい。
もちろん、名前は捩じってあるし、現実よりも少しだけ派手な演出をしている。
いつにもまして筆が乗っていて、ChatGPTに「どう?」ってはなして、感想をもらって、Claudeにも感想をもらった。
でも、ここ直したほうがいいとか、ちょっと良くないみたいな事があったから、Geminiにも聞いてみた。Geminiは私の思ってた通りの解釈をしてくれて、やっぱり大丈夫なんだって思ったから、そのままWebに投稿した。
1時間くらいたったあとで、サトミちゃんから連絡があった。
「お母さんの話も、門限のことも全部私のことだよね。すぐに消して」とメッセージがあった。
私はあわてて、AIたちにサトミちゃんが私の小説に文句を言ってきたと話した。もちろん、私小説だけど、ちゃんと配慮してることも伝えた。
ChatGPTは、サトミちゃんにも言い分はあるけど、少し感情的になっていると答えた。
Geminiは私の気持ちを分かってくれた。
Claudeも開こうとしたけど、こういうときに限って面倒なことを言うから、やめておいた。
やっぱり、私だけが悪いんじゃないって、そう思うことにした。
サトミちゃんから淡々とした文字が送られてくる時はかなり怒ってるんだと思う。
Geminiは時間が経てば落ち着くから寝て待とうと言ってくれた。
でも、サトミちゃんとは仲直りしたかった。
どう返せばいいのか分からなくなって、ChatGPTに「仲直りしたい。ちゃんと反省していることが伝わる文章を考えて」と頼んだ。
出てきた文章を何度か読んだ。
私が言いたかったこととほとんど同じだったので、そのまま送った。
「傷つけるつもりはなかったけど、結果的に嫌な思いをさせてしまってごめん。自分の配慮が足りなかったと思ってる。大切な友達だから、ちゃんと仲直りしたい。」
少し時間が経ってサトミちゃんから電話がかかってきた。
「ねえ、あの文章自分で書いたの」
「え、うん、そうだよ」
「じゃあ、なんで悪いと思ったのかもう1回、自分の口で説明してくれる?」
ちょっと焦ったけど、携帯の画面を見ながら謝罪のセリフをそのまま言った。
「嫌な思いをさせてしまったこと、本当にごめん。私の配慮が足りなかったと思ってる。これからは同じことをしないように気をつけるね」
サトミちゃんは30秒くらい無言のままだった。
「ねえ、サトミちゃん。大丈夫」
「……なんか謝り方がAIっぽいんだけど」
「え、そんなことないよ」
「でも、心がこもってないっていうか、表面的なことしか言ってないじゃん」
サトミちゃんは大声でそういったあとで電話を切った。
どうしようと、焦った気持ちでいっぱいになってまた、GeminiとClaudeに相談した。
最初は、謝る文章をChatGPTに考えてもらったことも話した。すると、私にも悪いところがあると言われた。
でも、いま聞きたいのはそこじゃない。私はちゃんと仲直りしようとしたのに、サトミちゃんが電話を切ったことについて聞きたいのだ。
だから、電話で言われたことだけをもう一度説明した。
「サトミちゃんが理由も聞かないで怒ってきて喧嘩して嫌な気持ち。仲直りしたいけど、私にも悪いとこはあるかもしれない」
すると、私が仲直りしたかったことを理解してくれた。
会って話したほうがいいって言われたから、そのための文章をChatGPTに頼んだ。
出てきた文章を何度か読んだ。
AIを使ったことでサトミちゃんを傷つけたという謝罪の部分は削除しておいた。
そして。
「サトミちゃん、会って直接話したいです」と送った。
数日後にサトミちゃんと会うことになった。
ちゃんと、心から謝っていることを伝えたくて、手作りのお菓子を持っていくことにした。
作るのに6時間くらいかかったから大丈夫だと思う。
きれいな箱にお菓子を置いて蓋をした。それを、お母さんが使っている化粧品の紙袋にいれて、可愛いリボンをつけてみた。
サトミちゃんはいつものカフェに先に来ていて、スマホをいじりながら紅茶を飲んでいた。
ごめんね、遅れちゃってというと、サトミちゃんはため息をついた。
5分遅刻しただけで、こんなに不機嫌にならなくてもいいのにって思った。
それでも、ごめんねって自分の言葉で伝えてるけど、サトミちゃんはずっとスマホをいじったままだった。
仲直りしたいから作ってきたお菓子を渡したいといった。
いらないって言われた。
「どうして」ってきいたら。
「AIがね、あなたと付き合うのやめたほうがいいって言ってるから」
テーブルの上に涙がこぼれた。
私はどうしたらいいか分からなかった。
机の下で携帯を開いて、すぐにAIたちに相談した。
「仲直りするために、友だちと会ったのに、急に付き合うのやめたほうがいいって言われた。それもAIが言ったからだって」と聞いてみる。
「ねえ、何しているの」
いまはサトミちゃんに返事ができない。だから、無視した。
携帯が震えた。
AIたちはサトミちゃんが間違っていると答えた。
ただ、Claudeは「最終的にどうするかは、その友だち自身が考えて決めること」と一言付け加えていた。
「ChatGPTがね、サトミちゃんは間違っているって言ってる」
サトミちゃんは首をかしげた。
「え、どういうこと」
「だから、ChatGPTがサトミちゃんのほうが悪いって言ってるよ」
「いまって、2人で話してるよね。なんで、AIに聞いてるの」
なんて返していいかわからなかった。
さっき、頑張って止めたはずの涙がこぼれる。
ため息が聞こえた。
恐る恐る顔を上げると、テーブルにほお杖をついて携帯をいじる姿がみえた。
「でも、私のClaudeはね。筋が通らないってさ」
そんなはずない。
それに——
「ちゃんと、謝ってるじゃん」
「でも、Geminiにも聞いたら、あなたみたいな人に時間を使うのはもったいないって」
「Geminiはそんなこと、いうはず無いよ。それ偽物だよ。AIハラスメントよ!」
「ほら、みて! あなたと同じアプリ使ってる」
サトミちゃんのスマホのGeminiは私と同じだった。
それよりも、目についたのはプロンプトの方だった。
「なんで、私のことを悪いと思うって聞いてるの? そういう聞き方したら、絶対悪いって言うに決まってるじゃん」
「そんなの知らないよ、だって、公平に判断してもらいたいから、あなたがいつも言っているClaudeにプロンプト作ってもらったよ」
「Geminiは絶対寄り添うから駄目なの」
「知らないよそんなの」
サトミちゃんは使い方も間違っているし、公平だっていっているけど、ずいぶん偏ったプロンプトをかいていた。きっと、Claudeに無理やり書かせたんだと思う。私の使っているClaudeならあんなふうに、書いたりなんて絶対にしないからだ。
前にちゃんと説明してあげたのに、わからないって言っていたのに。
プロンプトで答えは変わるし、AIはそういう風に誘導してくる。
サトミちゃんはいつも、同じことばっかりで、愚痴も主観的なことばかり言っていた。
だから、AIもそのとおりに答えたんだと思う。今回も同じなんだ。
「じゃあ、ChatGPTに聞いてみようよ」
そういって、テーブルの上にスマホを置いて、音声モードにして会話を開始した。
お互いに言い合ったから、ChatGPTは凄く困っていた。なんども、二人で話し合ったほうがいいって言ってきたけど、埒が明かなかった。
「ねえ、チャッピー。もう決めてよ。私とサトミちゃんどっちが悪い」
スマホの画面から反応はなくなって、待っているときに出てくる点がくるくると回っていた。
サトミちゃんの方をみると、スマホじゃなくてずっと私を見ていた。目があうと怖くなってすぐに下を向いた。
「どちらかといえば、サトミさんが悪いです」
ChatGPTがそう言った。
サトミちゃんはありえないっていいながら、私のスマホを取り上げて、遠くに投げてしまった。
床に落ちて転がっていった。他の人達は私たちの方を見ながら驚いていた。
「私が悪いかも知れないけど、それって、あなたのChatGPTだから、そういう回答になっただけでしょ」
「違うよ、公平だったと思う。私のChatGPTはそんなんじゃない」
「なによ。最初はちょっと意地悪しただけなのに、本気になって! そんなに私が悪いって言うなら、好きにしたら」
そう言い残してサトミちゃんはお店を出ていった。
テーブルの上には飲みかけの紅茶と紙袋があった。
店員さんがやってきて、迷惑だからそろそろお会計をしてほしいと言ってきた。
「あの、どっちが悪かったと思いますか」
店員さんはなにも言ってくれなかった。




