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鬱で死んだのに転生したら光属性だった件  作者: 天津風 英雄
【第一章】這い蹲ってでも
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【第八話】雷の戦士

今度こそ三人称で固定します。

何度もすみません

 体中にじわじわと、また、ズキズキと不規則な痛みが走る。蒸した熱気が傷口に塩を塗るかのように刺し込まれていく。

 乾いた空気も小石さながらで、チクチクして痛痒い。しかし生憎、意識がだんだんと回復してきているせいで、痛みからは逃げることは許されない。


 数十分。いや、数分も経っていないのかもしれない。痛みに苦しめられ続けて数十秒か。

 口の中はさっきの吐血の名残が占領していて、酸っぱいような苦いような。

 喉は酸で焼かれており、しばらくの間、大きな声は出せないだろうと悟った。


 倒れたままの誉と、先程の出来事に呆然としているクゲルの目は揺らぐことなく、その間に割り込んでいたのは、ただ、一陣の風だけだった。


 数秒後、クゲルの目に意識が宿ると、クゲル同様誉に唖然としていたもう一匹の魔獣を不意に一撃。

 魔獣は一瞬、はっとした表情を浮かべるも、それはあまりにも遅く、瞬きの間に頸は落とされていた。


 血しぶきは出なかった。魔獣の綺麗な頸の断面と、葡萄(えび)色の血に染まったクゲルの剣の輝きだけが、一際目を惹いていた。


 クゲルは剣にこびりついた血をひと振りすると、鞘にしまってハルに肩車をする。

 ハルの驚きはまだ解けていないようで、目はまんまると開いていた。


 そのまま必死に駆け寄ってくるクゲルの表情はどこかもの言いたげで、誉もその表情には心当たりがあった。


 それもそのはず、突如走ったあの衝撃、瞼越しでも眩しいと感じたあの白銀の光。

 誉の後を描いた漆黒の焦痕、そして、


「周囲にそれらしき魔獣が見当たらない」


 確信という言葉が最も正しい表現だと言えるほどに、誉はそう期待していた。


 荒い息遣いが近づくと共に、錆びた金属のような匂いが風に乗って鼻に差した。

 それもそのはず、クゲルの左肩はざっくりと牙で刺されており、筋繊維がむき出しで血まみれだった。


 痛々しい、という言葉では済まされないだろう。当たり前だ。

 だって自分はかすり傷でこんなにも痛いんだもの。


 改めて、兵士──いや、クゲルという男がどれほど凄い人間なのかが身にしみてわかった気がした誉だった。


「あの」


 もう眼の前まで来ていたクゲルに誉はどうにか身体を起こして声を絞り出す。やはり、胃液は強烈で、喉をこれでもかと痛みが刺す。

 一瞬、痛みに顔をしかめると誉の言葉に間髪入れずクゲルが


「ご無礼な真似をしてすいませんでしたぁぁぁ!!!」


 と誉の目の前でスライディング土下座をしてみせた。


「────はい?」


 としか誉も言いようがなかった。なにせ思っていた第一声目では無かったのだ。

 誉としてはまず最初に、さっきの能力について驚かれるものだと。


 クゲルの反応から見てとりあえずはこの能力について知っているのだと察した。

 それに、能力が使える者は兵士より上の存在なのではないかという考えも浮かぶ。


 「いや、大変お恥ずかしいところをお見せしてしまいました...」


 そんなこんなを考えていると、続いてクゲルが口を開いた。頭は深く地についたままだった。


 肩車されたままだったハルが、クゲルの肩から足を地に降ろす。ふとハルの表情を見ると、ロボットのような冷たい表情ではなく、温かみ感じる愛くるしい表情へと戻っていた。


 瞳を潤ませて上目でこちらを見つめながら駆け寄ると、再会と共に再びのハグ。ハルは腹部に顔を(うず)めて静かに、そして強く抱きしめる。

 しかし、今度は不安や恐怖からの涙ではなかった。


「ありがとうお兄さん!お兄さん戦士さんだったのね!」


 (うず)めていた顔を上げて、拙いながらも声高らかにそう言った。

 満点の笑顔で微笑まれて、流石の誉も笑みが溢れる。小さくて、弱々しいからこそ、守ってあげたくなる、そんな可愛さが彼女にはあった。


 『いや、決して幼女好きとかではないけどね!?』と、心の中で自分ツッコミを入れる。

 なんというか、猫とか犬とか赤ちゃんとか。そんなものを見ているときに思う可愛いという意味だった。


 ハルの父親があんなに必死にこの子を探していたのもわかる。まぁ、自分の子供が行方不明になったら、心配するのが当たり前だろうが。そんな考えをしつつ、その傍らで父親の気持ちがわかった気になっていた誉だった。



 そんなことはさておき、ハルの話に出てきた”戦士”というワードが、妙に誉の中で渦巻いていた。

 戦士──兵士と似ているが意味は違うのだろうか。実際、誉は人生でそんな疑問など一度も持ったことが無かったため、わかるはずもなく。


 「雷の戦士とは、随分と珍しい」


 戦士と兵士の違いを気にかけていると、兵士クゲルが目を輝かせて身を乗り出した。


「雷の戦士...?」


 雷という前世にも当たり前に存在していたものがクゲルの口から放たれると、誉は一瞬の安堵を見せるも、またもや戦士だ。


「ん、どうかしましたか...?」


 反応の悪い誉にクゲルが表情を曇らせる。怪しむような表情──とは断言はできないが、少なくとも誉には彼の表情に警戒心が隠れているように感じた。


 不意に西洋風の服の腹部を、しゅっと握るような感覚がした誉は、クゲルから視線を落とした。

 その感覚の正体はハルだった。『あれ?』と言わんばかりに眉を下げてこちらを見つめていた。


「...もしかしてお兄さん、戦士さんじゃなかった...?」


 ハルの瞳の奥にも、不信感が薄々芽生えかけていた。

 まずい。ここで誉の存在が怪しまれれば色々と面倒だ。ここは川の流れに身を任せる如く、相手に話を合わせるべきだと悟った。


「あぁいや......ああ。俺は雷の戦士...──」


 不意に誉の喉が(つっか)えた。ぼんやりと頭に浮かんでいた言葉をつらつらと放っていたはずが、この先の言葉の台本が姿を消した。


 最悪だ。また思い出せなくなってしまった。

 たしかにさっきまでは頭にあった。しかし、またしてもそれが、そこだけがぽっかりと穴の空いたように誉の脳内から姿を消したのだ。


 『あれ、俺の名前って──なんだっけ』そう記憶を辿る。しかし、相変わらずそれは顔を出さず、ただ三人の間に妙な空白が流れただけだった。


「──だ」


 名乗る名をどこかへやってしまった誉は、不自然に切れた言葉を無理やり断ち切るように語尾を差し込んだ。


 だが、時間というものに空気を読む力はない。二人の心中に生まれた不信感は拭えないと考えると、誉は内心少し焦る。


 誉のその焦りがいつしかなくなっていたのは、二人のどこかほっとした様子からだった。

 それと同時に、風が誉の肌を優しく撫でた。


 その風に誉は、ようやく人生の歯車が再び回り始めたような感覚を走らせた。


 そんな考えが生まれるほど、空気に余裕が出来始めた頃、クゲルが誉のさっきまでの心配を打ち砕くように何事もなかったかのように


「ところで──」


 と口を開く。


 また、それと被さるように「クオオオオオオオオオオオン」と鳴いたのは、先程誉が雷の力でぶっ飛ばした一匹の魔獣だった。


 相変わらず遠くでぐったりと倒れ込んでおり、思えば、鳴き声もさっきと比べて情けなく弱々しかった。


 それに一番に反応したのはクゲルだった。クゲルは魔獣へと顔を向けると目を凝らして


「...なんだ?」


 と一言。


「負け犬の遠吠えってやつか」


 自身が一撃喰らわせた結果、あれほどまでに無残に衰えているのを見ると、流石に優越感を煽られる。我慢をする間もなく誉は、誇らしげに慣用句を並べた。


 しかし、ここは異世界である。日本──いや、星すら違う別の世界。そんなローカルな言葉を口にしても、当然わかるはずなく。


「負け犬の...ん?」


 再び一番に喰いついたのはクゲル。


「なにそれ」


 二番手は瞼をぱちくりとさせて誉を見つめたハルだった。


「勝負に負けたやつが勝者のことを馬鹿にする...」


 誉は表情を変えずにそのままで、言葉の意味を二人に伝授させようと試みていたのだが...


「...みたいな?」


 段々と確証を持てなくなり、終いには言葉の意味を聞いた側に、疑問を返す始末。

 誉の何か探るようなその眼に二人は表情を引きつらせた。


 微妙な沈黙が三人の間に流れる。


「...」


 二人の共犯型のノリなのか、本当に引いているのか微妙だからこそ、何か口をはさみづらい。


「えーっと」


 満を持して、己の恥ずかしさを捨てて誉は沈黙を打ち砕こうと一歩前進したその時だった。


 遠くの方からドタドタと絶え間なく、そしてものすごい勢いで何かが近づいてくる足音を三人の耳が掬った。

 その瞬間に、遅れてやってきた嫌な予感が誉の脳を貫いた。


 誉の背後に視線を向けた二人は、その光景に言葉を失った。


「...?」


 大量の足音、二人の青ざめた表情。誉の感じた嫌な予感のシルエットが、徐々に姿を表しつつあった。

 二人から視線を外し、恐る恐る背後へ首を向けていると、クゲルが瞳を閉じ、眉間にシワを寄せて

「戦士殿、どうやら先程吠えたのは、負け犬のなにやら...ではなさそうです...」


 と放つ。

 その声色からは軽率さを一切感じられなかった。皮肉が混じっているにもかかわらず、至って真剣で、諦めと挑みの二つが混じっているような気がした。


 誉がそう感じたのは、二人の顔を青ざめさせた”それ”を眼にしてからだった。

 一見、混合しないであろう二つの意思。矛盾もいいところで対義語としては完璧だと言えるだろう。


 誉の視界に”それ”が映る。その瞬間、呼吸を忘れてしまうほどの悪寒と、心臓を強く握られるような衝撃だった。


 最悪もいいところだ。せっかく一難が去ったと思えばまた一難。勘弁してくれ、と口からこぼれ出そうなところ、クゲルの表情を思い出す。

 咄嗟に喉でそれを噛み殺し、拳を強く握りしめた。


「グオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」


 大勢の足音の先頭を握る一匹の魔獣が、バイルグル荒野の地を割れさせんとばかりに咆哮し、三人のもとへ一心不乱に駆ける。


「──ちっきしょう...!!」


 誉は鋭い眼光を向かってくる恐怖に、脅威に向けて突き刺した。


「くッ...!」


 誉の悪態に続くようにクゲルも、喉の奥を力強く鳴らした。

読んでいただきありがとうございます。

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