【第六話】嵐の前の静けさ
※このエピソードから書き方が変わりますのでご了承ください。
前のエピソードに関しましては後に書き直します。
誉とルージュとのやり取りから小一時間。
西洋風建築の街並みから外れて、王都からも外れた付近を、誉はただひたすらに彷徨い続けていた。
「ルージュさん....ほんとにここらであってるかな。見渡す限りの荒野なんですけど....」
誉の視界いっぱいには橙色の地に、寂しくなるような数の木々。
そこは、本当に王国の近くに置かれていて良いものかを疑ってしまうほどの過疎地だった。
感動のようにも呆れているようにもとれる長いため息を吐く。
それは砂を巻き込んだ鋭い風に乗って空に流れていった。
風に乗りそこねた砂が手の甲にぶつかって、落ちる。
どこからともなくやってくる孤独。
今すぐにでもあの街に戻りたい。ここは嫌だ。
いくら人々の心に今、余裕がない状態だとしても、冷たい対応をされたとしても。
一人は寂しい。
それに今は自分の名前も、帰る家も、ここがどこかすらもわからない。はっきり言って泣きたい。
そんなことを考えていても、誉の足は止まることを知らなかった。
なにせ街の中心で大々的に「俺が助ける」なんて宣言してしまったのだから、何の成果もなしに帰るなど、誉のメンタルでは到底できないことであった。
数少ない木々を遠目で大まかに見ていると、とある枯れ木のそばに縮こまって座っている一人の少女を見つけた。
ハルのことが少し頭から離れていた誉は、その少女が目に入った途端、はっと目を見開いて息を呑んだ。
その時、なんとなく誉はそれがハルだろうと感づいた。
周りに人が見当たらない辺り、本当にここは過疎地なのだろう。
そしてルージュさんの言っていた言葉。
それらが感の理由だ。
誉はゆっくりと走り出し、やがて全速力で走り出した。
一歩足を前に踏み出すごとに安堵が強まっていく。誉自身は、決してハルを見つけたから安堵しているわけではないと思っていた。
やっと人を見つけた。もう一人じゃないんだと。
まったく情けない。笑ってくれても良いさ──と。
誉にとって笑われることなど何てことないことだ。
自分が情けない人間だと──わかっているつもりでいるから。
「ハルちゃん....だよね。」
少女はおもむろに顔を上げた。今にも泣き出しそうな顔だ。
緑色の綺麗なボブカットが、陽光に反射してツヤツヤと輝いて見えた。
「だぁれ....?どうして私の名前を知ってるの..?」
警戒しているのか、そよ風に消え入りそうな震えた声でそう訊いた。
誉はその問いに対する答えをすでに考えていた。そう訊かれるだろうとなんとなく思っていたからだ。
縮こまったままの、無力な子。
そんなハルに誉はゆっくりと手を差し伸べた。
「君のお父さんが探してたよ。街に戻ろう。」
優しい声で無邪気に微笑みかけると、ハルの瞳いっぱいに溜まっていた涙が一つ、また一つと頬を伝った。
ハルが大声でわんわんと泣き出し、差し伸べられた大きな手を、小さな両手で掴んで立ち上がった。
誉自身、冗談半分で言ってみたつもりが、どうも彼女の胸に刺さったらしい。
「わお」
ハルは手を掴んだまま、誉の腹部に顔を沈めた。
予想より遥かに斜めすぎる反応に、誉自身も驚きを隠せない。いや、何の問題も発生せずにミッションをこなせるのだから、誉としては得だろうが。
誉はハルの頭頂部を見下ろした。
それにしてもすごい泣くな。涙が服を貫通してもう腹部周辺が冷たいんだが。
そんな言葉を喉元で押し殺していると、いつの間にか誉の手は、彼女の頭を優しく撫でていた。
「あれっ..?」
誉が自身の行動に思わず声を漏らすと、それに気がついたハルが誉に目を合わせた。
急いで手をどけると、ハルの瞳には再び大粒の涙が。
嫌だったのかと一瞬考えたが、嫌なら今こんなふうに腹部でわんわん泣くことはないだろうと考え直した。
「ちょ..ちょっと。」
いくらでも泣いてくれていいが、速く戻らなければお父さんが心配する。
いや、それ以上に誉は魔物が出ることに恐れていた。
「おーい。」
荒野の乾いた空気の中に一つ、張り上げられた声が耳に入った。
遠くから聞こえるその声に、ぴくりと身体が跳ねる。誉とハルが声の方へ顔を向けると、少し離れた場所に一人、剣を鞘にしまい込んだ者が手を振ってこちらに声を掛けていた。
「何をしてる。避難警報が聞こえなかったのか。」
男の言葉に誉は、警報区域の取締をしている人か、と直感した。
「すみません。逃げ遅れてしまって...」
走ってこちらに近づいてくる男に、誉がそう言うと男は爽やかな笑顔を見せた。
「そうか。それなら私が安全区域まで送ろう。」
その言葉に誉はそっと胸をなでおろす。
その時、ハルの震えた息遣いが耳に入った。
誉が視線を落とすとハルは酷く震えた様子で「あ..あれ..」と指を男の背後に指した。
男の背後へと視線を移したその瞬間、誉の全身から血の気が引いた。
──あれは....魔物だ。
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