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鬱で死んだのに転生したら光属性だった件  作者: 天津風 英雄
【第一章】這い蹲ってでも
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【第三話】想定外

陽光が優しく背中を差した。まるで来客を祝福するかのように。しかし、全くと言っていいほど気分は良くなかった。自分の体のはずなのに、どこか慣れない感覚がする。拳を握るのだって、ほんの少しだけ遅延しているように感じるのだ。それと身長が縮んだ気もする。


身体を起こして辺りを見渡すも、掴めたのは木々が生い茂っているという情報だけ。


さっきから熟考していたが、結局動かなければ何も始まらないと思い、足を一歩踏み出した。


それにしても不思議だ。さっきまで虚無の世界だとか、俺を異世界に飛ばすだとかで頭がパンクしそうだったのに、今となってはこの状況でどう動くべきかを考えることに集中できる。それに、心の中に住み着いていた蟠りも少しだけ薄れたような気がする。


俺は倒れていた場所から五歩ほど進んだところで後ろに振り返った。一つ、疑問が浮かんだのだ。


辺りを見渡しても木が無造作に生えているだけだった。しかし、俺が倒れていた場所だけ円を描くように不自然に空いていた。


転生した時に出来たのか。それとも何らかの理由で元からこの空間が出来ていたのか。一瞬考えたが、今はそんなこと考えている暇は無いと身体を木々の方へ向けた。そして、再び一歩足を踏み込んだときだった。


─パキッ...と小枝を踏み割る音が、右耳に滑り込んだ。咄嗟に音のする方へ視線を向けると、そこには西洋の兵士のような格好をした男二人が右手に剣を構えてこちらを警戒して見据えていた。


はっと息を呑み小さく一歩後ずさる。すると、一人の男が「大丈夫か!?」と声を張り上げた。張り詰めていた所為か、その声に筋肉が跳ねて心臓がきゅっと締まった。


「あの、そのえっと...」


俺が釈明にグズグズしていると、二人の兵士は眉を顰めて顔を見合わせた。その後、また一人の兵士が「身体の調子は!?」と言った。俺はその言葉に少し引っかかった。だって、本当に心配しているのなら心配している相手に剣を向けるだろうか。


恐る恐る足を前に運ぶ兵士に合わせて俺は一歩、また一歩と足を後退させた。


兵士が日の当たるもとまで出てきた時、その手に持っていた銀色の剣が輝き、より一層恐怖を掻き立てられた。いくら高いところから落ちて死んでいようが、結局死ぬのは怖い。剣で刺されるのなんてのは以ての外だ。


兵士との距離があと五メートルほどになった時、俺の中の恐怖心が頂点まで達し


「─すんませんっ!!」


と兵士とは反対の方向へ向けて勢い良く駆けた。二人は「あっ!」っと声を漏らし、一人は「待てっ!!!」と手を伸ばして後ろを追いかけた。


刺されるかもしれない。刺されたらどれほどの痛みが襲うのだろうか。ただ只管に恐怖が頭を支配し、一心不乱だった。


ザザッ─またザザッと草や枝を踏む音が俺の居場所を兵士に知らせた。一方、兵士の胸元にある赤色のワッペンがやけに大きく輝き、俺も兵士の居場所がわかった。段々と荒い息遣いが遠のいていく。いつしかその息遣いには唸り声が混じりだした。しかし、複雑に入り組んだ木々の群れは遂に俺を兵士の目から完全に消したようだ。俺は叢に腰を下ろし、息を殺して兵士を見送った。




「...行ったのか?」


俺は叢から顔を出して周囲を確認した。何事もなかったかのような森の静けさがそこにはあった。葉擦れの音、鳥のさえずり、川のせせらぎ。


「はっ!」そうだ、川だ。川に沿って山を降りれば、もしかしたら街に出られるかもしれない。


恐る恐る身体を叢から出すと、自分の身体から違和感が消えていることに気がついた。拳も足も上手く動く。俺の頬は、おもわず緩んだ。


よし、と自身を奮い立たせて、希望に引っ張られるように一直線に向かった。






雑木林をかき分けて、遂に光の差すもとが見えた。さっきまでの疲れなど全て忘れて駆け出した。


「はぁ...はぁ...!」足を踏み出せば出すほどに、光と期待は大きくなっていく。木漏れ日が点滅するように目に刺さった。


程なくして─道は開いた。


視界いっぱいに広がったのは、永久に続いていると思わせるような広大な川。それはブルートパーズのような澄んだ青色で、水底に沈んだ幾億子もの川原石が鮮明に見えるほどだった。


その時、俺の頭の中は真っ白になり、瞬きを忘れるほどぼうっとしていた。


そういえば、高校に入学して以来外に出ることは一切なくなっていた。言わずもがなあの悪夢の所為だ。だから、今この目に映るものの全てが儚く、そして尊く感じた。自殺したやつが言える言葉ではないことはわかっている。でも、なぜかそういう言葉が湧き出てくるのだ。


少しの段差を降りて川辺に入った。ゴツゴツした川原石が足場を阻む。バランスを崩しながらも、乾ききった喉を潤すために川へと歩いた。


「やっとだ。」


川の前でひざまずき、一口の水を掬った。煌々と太陽に照らされているはずが、水は驚くほど冷たかった。そのまま、口を小さく開けて不器用に喉へ流した。喉に入った水は、砂漠の砂の様に溶け込みすぐに姿を消した。手からこぼれ落ちた水が一つの雫となって川原石に弾けた。


それに目もくれず、二口目の水を掬おうとしたそのときだった。


背筋が凍った。同時に、頭を強く()たれるような感覚も走った。


──あの時の...




澄んだ青に反射して映った自分の姿。とても驚いていて、口も半分開いていた。


だが、それは俺が知っている俺とは違ったのだ。


黒髪で、身長は俺より小さい。買ったことも着たこともない西洋の服。


まさに、虚無の世界で落ちている途中に見た─青年の姿だった。


もしかして─俺はこの世界の住人に転生してしまったのだろうか。

ご一読いただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
マンションの15階から飛び降りるという、あまりに痛切でリアルな絶望の描写に、冒頭からグッと心を掴まれました。 「将来は黒」と自嘲する主人公の心の冷え切り方が、丁寧な心理描写を通してこちらまで伝わってく…
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