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7. 火属性の魔法使い・エリナ(完)

念のため魔族かどうか確認しようと、頭に角が生えていないか見てみたが、相手は間違いなく人間だった。

魔女と呼ばれていた女も私たちに気づいたのか、一切の迷いもなく真っ直ぐこちらに向かってやってきた。


そして間もなく、私は彼女がなぜ魔女と呼ばれていたのかを理解した。

彼女も私と同じ魔法使いなのだ。


だからこそ、屈強な男二人が女一人に怯えて逃げてきたのだろう。

近くまで来た彼女も私に気づいたのか、視線が少しの間、私に留まった。

私に軽く目配せをすると、二人の男を保護していたクラドへと顔を向けた女魔法使い。


「あなたの後ろに隠れている二人を引き渡しなさい。」


冷静ではあったが、どこか怒っているような声だった。

彼女の言葉通りに二人を引き渡せば、何が起こるか分かったものではない。


「いけません!」

「私たちに何をされるか分かりません!」


二人の男もあの女魔法使いに引き渡されるのが恐ろしいのか、クラドに助けてくれと懇願するようにしがみついた。


「おい、少し離れろと言っているだろう。はぁ……なんて災難だ。それで、あなたはなぜこの者たちを求めるのですか?」

「彼らが私を襲おうとしたので、代償を払わせるつもりです。」


女魔法使いの言葉に眉をひそめるクラド。


「襲撃、だと?」

「ええ。女一人だと侮ったのか、襲撃に失敗するやいなや素早く逃げていきましたわ。無駄なことですが。」


一歩離れて見守っていた私は、状況が面白くなってきていると感じた。


「嘘だ! 嘘です!」

「襲撃だなんて! 私たちはただ道を通りかかっただけです!」


二人はただ道を通りかかっただけだと言い、女魔法使いは襲撃されそうになったと言う。

どちらの言葉が正しく、どちらが嘘をついているのだろうか。


「あなたがこの者たちに襲撃されたのが事実かは分かりませんが、証拠がない以上、無実かもしれない人間をそのまま引き渡すわけにはいかない。」


クラドの答えが気に入らないのか、片眉をピクリと動かす魔法使い。

短く溜息をつくと、握っていた杖を前に突き出した。


チャキッ。


彼女の突発的な行動を警戒するクラド。

しかし、女魔法使いは攻撃するつもりはないのか、私たちを見据えて口を開いた。


「魔法使いエリナ。神秘に誓う。二人が私を襲撃しようとした事実が、真実であることを。」


彼女の言葉に、私は驚愕した。

まさかここでそれを聞くことになるとは。

襲撃されたというのは本当のことのようだ。

クラドもまた、魔法使いエリナに向けていた剣を収めた。

魔法使いの誓いが何であるかを知らない二人だけが、訳の分からないといった顔をしている。


言葉には力がある。

嘘をつけば、神秘を扱う魔法の力が弱まると言われている。

それは長い年月をかけて起こることなので確認しにくい類のものだが、死ぬ思いをして手に入れた魔法を、自ら衰退させるような自傷行為に等しい真似をする魔法使いがどこにいようか。


そのため、魔法使いは嘘をつかないということが一般人の間では常識として定着している。

もちろん、全ての魔法使いがそうとは限らないため、魔法使いエリナが私たちに嘘をついた可能性もあるが、魔法使いの誓いをしたことで、エリナの言葉が真実であると証明されたも同然となった。


魔法使いの誓い。

それは魔法使いにとって最も重い意味が込められた言葉であり、決して取り消すことのできない約束。

一生に一度も口にしない魔法使いの方が多いほど重みのある、いつから伝わっているのかも定かではない古の儀式。

嘘をついた際、即座に目に見える魔法の弱体化が起こるため、魔法使いであれば真実を口にするにしても忌み嫌うもの。

私も魔法を学ぶ前、師匠から真っ先に言われたのが、嘘をつくなということと魔法使いの誓いについてだった。


クラドが二人の農具を取り上げた後、エリナの前に跪かせた。


「どうするつもりですか?」


処分をエリナに委ねるクラド。


「殺すつもりです。」


そう言い放つエリナの手の上で、火炎がゆらゆらと燃え上がる。


火属性の魔法使いだったのね。

火傷は見当たらないけれど……。

どうやら、肘の上まである長い手袋、オペラグローブを着用して火傷を隠しているようだ。


「助けてください!」

「家には私の帰りを待つ子供たちと老いた母がいるんです!」


エリナが燃え盛る火炎を手に彼らへ近づいていくが、殺すのは行き過ぎだと考えたのか、クラドが前に出た。


「それでもエリナさん、実害はなかったのですから、もう一度考え直してみてはいかがですか。殺すよりも、他に良い方法があるはずです。」

「あの罪悪感の欠片もない様子を見るに、自分より弱そうな相手と見れば盗賊に豹変したことが一度や二度ではないはずですわ。そんな連中を殺すなというのは、人殺しを見つけておきながら見逃そうと言うのも同然。私には到底受け入れられませんね。」

「ただ逃がそうと言っているわけではありません。正当な手続きを踏もうと言っているのです。」

「正当な手続き?」

「彼らを拘束したまま夜を明かし、日が昇ったら都市へ向かって城門の守備兵に引き渡すのはいかがでしょう。エリナ様の仰る通り前科があるのなら、行方不明者の記録などから裏付けも容易なはずです。」

「殺すのが一番手っ取り早いのですが……いいでしょう。どうせ、今回の件だけでも死刑でしょうから。」


意外にも素直に引き下がるエリナ。

死刑という言葉に、膝をついていた二人の顔からは血の気が失せ、真っ青になった。

立ち上がって逃げようとしたので、クラドが二人を気絶させ、木に縛り付けた。

あの二人は、他人を傷つけながら、その矛先が自分に向かうこともあるのだとは考えもしなかったのだろうか。


日が落ち、森に闇が訪れた。

本来、焚き火の周りには私とクラドの二人だけのはずだったが。

ひと騒動あった後、魔法使いのエリナさんも合流することになった。


私は焚き火の前に座り、薪をくべた。


パチッ。

パチパチッ。


弱まっていた火が勢いを取り戻すのを見ながら、私はエリナに話しかけた。


「エリナさんも王都へ行く途中なのですか?」

「いいえ。私はマサドラに用があるの。」


マサドラ? 聞いたことのある地名だ。

まだ行ったことはないけれど、素敵な場所だと聞いたことがある。

一度は行ってみたいわね。これまで人が多い場所を避けてきたせいで、あまりに外郭ばかりを歩き回っていた気がする。


「ところで、お二人はどちらへ?」

「王都に用があるんです。間違ったことを正しに。」

「そうですか。リエンさんなら、きっとやり遂げられるでしょう。」

「そうだといいのですが。」


火属性の魔法使いだから、変な人だったらどうしようかと心配したけれど、話をしてみれば意外とまともな人のようだ。

やはり人は直接会ってみなければ分からないものだわ。


師匠、今回は師匠が間違っていましたね。


その時、茂みからクラドが戻ってきて、不寝番は誰が先に立つかと尋ねてきた。


「三人ですから、最初か最後に回るのが楽でしょう。私は慣れていますから、二番目に立ちます。」

「見張り?」


夜寝るのに、どうして見張りが必要なの?

今まで一人で旅をしてきて、そんなこと考えたこともなかったけれど。


「リエンさん、希望の順番はありますか? 先に決めてください。私は残った時間で構いませんから。」


エリナも当然のように言う。

なぜ見張りをしなければならないの?


「どうして見張りが必要なのですか? そのまま寝ればいいのに。」


驚く二人。

クラドがまさかという顔をしながら、私に野宿をしたことがないのかと聞いてきた。


「何度もありますよ?」

「では、夜の警戒はどうしていたのですか?」

「警戒? 私はそんなのしたことありません。」


する必要があるのかしら?

私は師匠から授かった無骨な銀の指輪を前に突き出した。

すると、焚き火に照らされた私の影の中から、黒い何かが蠢きながら頭をもたげた。


「……それは?」

「師匠から授かったものです。この子が夜の間に警戒してくれるので、自分でしたことはないんです。」


戦闘力は高くないけれど、監視は得意なのだ。

動物たちが見れば警戒して避けていくので、それほど気にする必要もなかった。

真夜中にこんな黒い何かに遭遇したら、私だって怖くて逃げ出したくなるだろう。


「初めて見る魔法の形態ですね。どうやらその師匠という方は、相当な実力の持ち主のようですが……」


師匠の名前を聞かれたので教えてあげた。

知らないと言う。


初めて見る魔法に興味津々のエリナ。

魔法使いなのだから、新しい魔法に興味を持つのは当然のことだ。

しかし、私は彼女の反応よりも、クラドの対応の方が不思議でならなかった。

師匠がくれた使い魔でなければ、即座に消し去ってしまいたくなるほど、私から見ても不吉な何かに見えたはずなのに。

何か一言くらい文句を言うかと思ったけれど、何も言わないのだから意外だ。


「クラド、どう見えますか?」


だから、何気なく聞いてみた。


「有用そうに見えます。その師匠という方にお会いできれば、私も一つ欲しくなるほどです。では、リエンの言う通り見張りはそれに任せることにしましょうか。」

「私は構いませんわ。」


結局、不寝番はなしということになった。

体は疲れているけれど、なんだか目が冴えてしまって眠気が来ない。

しばらく夜空の星を一つずつ数えて、ようやく遅くなってから眠りについた。

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