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5. ぶどう祭りのワイン盗難事件(完)

角から姿を現す男。

魔法使いは魔法使いの気配を感じることができる。

微かだが、師匠から感じられた気配がその男からも感じられる。

遠くにいたなら気づかなかっただろうが、これほど近くまで寄ってきたなら分からないはずがない。


師匠のもとを離れてから初めて会った人間の魔法使い、その感想は「不思議だ」というものだった。

今まで多くの場所を巡りながら、人間の魔法使いはその影すら見たことがなかったのに、こうして出会うと、確かに国王様の住む王都が近いのだと実感した。


どうやら私より魔法の腕前は劣るようで。

相手が魔法使いだと気づいたのは、私の方が一歩早かった。

互いの顔が見分けられるほどの距離になると、相手の魔法使いも何か異変を感じたのか、周囲を見渡して私を見つけると、一瞬だが目つきがガラリと変わった。


再び人当たりの良さそうな姿に戻ると。

私たちにワインを売った男に近づいて声をかけた。


「今日はどうだ?」

「もちろん、よく売れているよ。」


互いに親交があるのか、親しげに話す二人。

私はワインを啜りながら、彼らの話を盗み聞きした。

私を意識したのかは分からないが、どこでも聞けるような日常的な会話だけが交わされていた。


「ごちそうさまでした。たくさん売ってくださいね。」

「気が向いたらまた来なよ。」

「はい。」


喉を潤した私たちは、再び道を歩き出した。

本当は村にいる魔法使いを探そうと歩き回るつもりだったのだが、ここで偶然、魔法使いに出会ってしまった。

ここは大きな都市でもないので、この村にその人を除いて他の魔法使いが他にいるとは思えない。

あの人の使う魔法の属性が水属性なら、犯人である可能性は極めて高いだろう。

私の心証は、彼と商인의二人が犯人だと指し示している。

だが、物証がないとなると、どうしたものか……。

私はクラドをそっと見上げた。


「リエン?」


怪訝な顔で私を見下ろすクラド。


「なんでもありません。」


クラドに彼らが犯人らしいと言うには、私が魔法使いであることを明かすのが一番早いのだが。

なぜだか、魔法使いへの嫌悪が激しそうなクラドに自分の正体を明かすのがためらわれるのは、どうしてだろうか。


しばらく考えてみたが、分からなかった。


有力な容疑者は見つけたが、万が一の犯人を探すという名目で、クラドと村を巡回した。

だがやはり、あの人以外に魔法使いは見当たらなかった。

ふと、このままではいけないという気がした。


こういう時に必要なのは、まさに正面突破ではないだろうか。


「犯人が誰か、分かった気がします。」

「……犯人、ですか? 誰なのですか?」


唇を丸くして驚くクラド。


「さっき私たちにワインを売った商人と、隣にいた男。あの二人がこの事件の犯人です。」

「あの二人ですか? 証拠はあるのですか?」


あるけれど、ない。

教えるためには、私が魔法使いだと明かさなければならないのだから。

どうせ図々しくいくなら、もっと図々しくなることにした。


「女の勘です。」

「……女の勘? それは一体……?」


何を言っているのか分からないという顔をするクラド。

女の勘だなんて言った私も恥ずかしいけれど、ここまで来た以上は引いちゃダメよ、リエン!


「はい。女の勘。それだけじゃありません。村には最高級のワインが不足しているというのに、あの人たちは堂々と売っているじゃないですか。すごく怪しくありませんか?」

「全くそうは思いませんが。前日に売りきれなかっただけかもしれませんよ。」

「あんなに美味しいワインが売れ残るはずがないじゃないですか。」

「......」

「誰が今すぐ捕まえようと言いましたか? 一度確かめてみよう、ということです。」

「うーむ、どうやって?」

「クラドが二人を威嚇してみてください。二人の中に魔法使いがいれば、魔法で反撃してくるのではありませんか?」

「ふむ……一理ありますね。やって損をすることはないですから、リエンさんの言う通り一度やってみましょう。」


言い終わるやいなや、クラドがあの人たちのところへ戻ろうとするので、慌てて引き止めた。


時間が経ち、夜が更けて夜明けが近づいてきた。

祭りを楽しんでいた人々は明日のために家路につき。

後片付けをする人々と、地上を照らす月明かりだけが残った通り。


私たちは今日ワインを売っていた商人を急襲するため、彼らから遠くない場所に陣取り、機会を窺っていた。


「いつまで待つつもりですか。」


体をあちこち動かしているのを見ると、よほど退屈なのだろう。

折よく、商人の知人と思われる魔法使いも自らやってきた。


「そろそろ動いてもよさそうですね。ところで、騎士なら訓練も一生懸命やっているでしょうし、忍耐強いのではありませんか?」


自分のことを言われていると気づいたクラドの弁論。


「忍耐力がなければ騎士になることなど不可能です。騎士になる過程で、良いことばかりがあるわけではありませんから。それに、このような緊張感のないことに心力を消耗するほど弱くはありません!」


言うことは全部言って。


パッ。


クラドが待っていましたと言わんばかりに、一瞬で前に飛び出しながら剣を抜いた。

気合の叫びを上げ、誰の目にも今から襲撃すると分かるような過激な行動を見せた。

その気迫たるや凄まじいもので、やはりあれほどの気概があってこそ騎士になれるのだと悟った。

あの勢いを正面から受けては、二人は奇妙な気配に気づく暇もないだろう。


クラドが彼らに近づいた瞬間。

相手の魔法使いが威嚇的な魔法を放った。

だが、これしきのことは何でもないといった様子で軽くあしらった。

任せてくれと言った通り、思っていた以上に強い姿を見せてくれた。


二人を軽く制圧する彼の活躍を見守り。

クラドが手招きして来いという合図を送ってから、ようやく彼らのもとへ歩み寄った。


膝をついている二人。

どちらも何が何だか分からないという顔だ。

夜も遅いし早く寝たいから、さっさと終わらせたい。


私は魔法使いを見つめて口を開いた。


「魔法使いさん、水属性の魔法を使っていましたね。」

「それがどうしたというんです。」


戦闘に敗れて捕まったというのに、強気な態度を崩さないところを見ると、相当腹を立てているようだ。

怒っていようがいまいが、私は言うべきことを言わせてもらう。


「とても重要な問題ですよ。村の倉庫にあった最高級のワインが盗まれ、在庫がひどく不足していることを知っていますか?」


びくりとする商人。


「……噂では聞いています。」

「いや、それは気の毒なことですが。それが私たちと何の関係があるんですか?」


私の言葉に図星を突かれたのか、魔法使いの声が小さくなった。


「さあ。私には関係があるように思えるのですが、一度聞いていただけますか?」


私は倉庫へ行き、誰かが魔法でワインを盗み出した事実から。

女の勘で犯人を追跡した結果、あなたたちに辿り着いたのだと話した。

クラドを通じて、あなたが水属性の魔法まで使ったのを確認した以上、事実を話せば善処するという言葉も添えて。


「あなただって! あなたも……」


私が魔法使いであることを言いふらそうとしたので。

私は魔法使いにだけ伝わるよう威圧感を放った。

そして、人差し指を唇に当てた。


「ヒッ……」


驚いてしゃっくりをする魔法使い。


困ったな、お漏らしなんてしないでほしいけれど。

これじゃ私がひどいことをしたみたいじゃないか。


「隣にいらっしゃるのは騎士クラド様です。今からでも事実を明かせば善処するという私の言葉を保証してくださいます。そうですよね?」

「ええ、まあ……」

「さもなければ、牢屋に行って怒った村人たちの相手をするしかありません。そうなれば、痛い思いをすることになるかもしれませんよ。」


そう言ってクラドが持っていたエンブレムを見せると。

犯人ではないと言い張っていたのも諦め、自分たちがしでかしたことを白状した。


私の予想通り、犯人はこの二人で間違いなかった。

遠くからでもワインを奪えるよう、暗い夜に水属性の魔法使いが長い管を通してワインを抜き取ったのだという。


「なぜ、そんなことをしたんですか?」


これが一番気になっていた。

魔法使いにまでなったというのに。

一体、何が不満だったのだろうか。


「それは……昔、私もこの村に住んでいたんです。両親が代々続くブドウ農園を営んでいました。ですが! あまりに繁盛したせいで嫉妬した村の連中が、うちの農園を台無しにしたんです。両親は心労で倒れ、亡くなりました。だから、亡き両親の復讐のために、こんなことをしたんです。」


鬱憤を晴らすかのように、休む間もなく早口で語る魔法使い。


「それでも、こんな方法を使ってはいけません。正当なやり方もあったはずなのに……とりあえず、残っているワインだけでも元に戻してください。」


そうして、残ったワインは魔法使いがこっそり倉庫へ戻した。

両親を亡くしたという魔法使いの心情も理解できたので、クラドにその日の真相を調べてほしいと頼んだ。


「長い月日が流れているので難しいでしょうが、王都に連絡を入れて調査を命じておきましょう。優秀な者たちですから、やり遂げてくれるはずです。」


ワインを取り戻した村の祭りは活気を取り戻し。

私たちも最後まで楽しみ、次の都市を目指して旅立った。


「今になって思い出したのですが、あの魔法使いは何を言おうとしたのでしょうか?」

「何の話ですか?」

「リエンさんを見て、『あなただって! あなたも……』と何か言いかけていた気がして。」

「……さあ? 過ぎたことを私が知るはずないでしょう。」

「ふーむ……」

「そんなことよりクラド、初めて会って腕相撲をした時、どうしてあんなに力を入れたんですか? どれだけ痛かったか分かります?」

「え? あ、いや。勇者だから当然力が強いものだと思って……」

「勇者だからって力が強くなきゃいけないんですか! 私を見てください。この体のどこに筋肉があるっていうんです!」

「リエンさん! 服、服を……」

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