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突然現れた男に、私は後ずさりした。


「変な人。」


あ、心の中で思っていただけのつもりが、つい口に出てしまった。


「私は変な人ではなく、こういう者です。」


そう言って胸ポケットから何かを取り出して見せるのだが。

それは小さく薄い鉄板で、高級感のある模様が刻まれている何かだった。


「……」


これ、何だろう?

私が黙って何の反応も示さず彼をじっと見つめていると、かえって当惑し始める男。


「私は、こういう者なのです。」


もう一度言う。


「これは何ですか?」

「……本当に、これが何なのか分からないのですか?」

「はい。」


説明もなしに「こういう者だ」と言われても、分かるわけがない。

本当に変な人だなぁ。


「正式に紹介させていただきます。ブルグント王国の騎士、クラドです。」

「!!」


騎士だったんだ。

初めて見る、騎士という人。

騎士だからといって、頭に角が生えていたり他の人と見た目が違ったりするわけじゃないんだね。


「最初から騎士様だと言ってくれればよかったのに。」

「はは、それは……。騎士団の紋章をご存じないとは思いませんでした。」


まぁ、一国の騎士団なのに、私が無関心すぎたかな。

師匠に騎士という人たちがいるとは聞いていたけれど、騎士を直接見るのは初めてだ。


「私が騎士様を初めて見るもので。気づかなかったのは勘弁してください。」

「そういうこともありますよね。私も配慮が足りませんでした。」

「私はリエンです。」

「よろしくお願いします、リエン。」


互いの名を交わした私たち。

私はクラドがどうやって私が勇者だと気づいたのか尋ねてみた。


「任務を終えて王都へ戻ろうとしていたところ、連絡が入ったのです。聖剣に選ばれし勇者様が現れたと。勇者様と合流し、お連れして帰還せよとの命を受け、この村に立ち寄るのではないかと待っていたのですが。ちょうど、聖剣をお持ちの方が私の前に現れたというわけです。」


私の持っている剣が聖剣だとどうして分かったのかと聞くと、彼はこう答えた。


「騎士の道を歩む身。聖剣に選ばれずとも、近くで拝見したいと思うのは当然のことです。騎士見習いの頃、同期たちと共に聖剣を拝むために聖所を訪れたことがあります。目を閉じて思い返せば、その瞬間の記憶は今も鮮明です。忘れようとしても忘れられません。」

「……それでだったんですね。」


私なら美味しいものを一度食べたら、聖剣がどんな形だったかなんて忘れてしまうだろうに。

クラドは騎士だから、聖剣を見た記憶が強烈で頭に焼き付いているのだろう。


これからも、こういうことが起こるかもしれないな。


「ところでクラドさん。さっき私を助けるとおっしゃいましたが、何を助けてくださるんですか?」

「盗まれた最高級ワインを探そうとしていたのではありませんか? 本来ならこうしたことに首を突っ込むことはありませんが、勇者様が困っているようにお見受けしたので、お力になろうと思いまして。」

「あ……」


そういうわけじゃないんだけど。

私が店員と話しているのを目撃したクラドだが。

ワインを飲めずに旅立たねばならない事実に落胆していた私の姿を見て、勘違いをしたようだ。


いや、待てよ……。わざわざ騎士様が率先して助けてくれるというのなら、むしろ好都合ではないだろうか。

今は急ぎの用もないし、村に降りかかった災難を解決するために時間を割いてもいい気がする。

危機の村を救うために力を貸すことに決めた私は、クラドに握手を求めた。


「よろしくお願いします。」

「こちらこそ。」


クラドはぎこちなく笑いながら、私の手を握る。

握った手からマメの感触が伝わってくるのを見ると、確かに騎士のようだ。


「朝食は食べましたか?」

「まだです。」


何をするにもまずは体が資本だし、ご飯は食べなきゃね。



軽く朝食を済ませた私たちは、ワインが消えたという倉庫へ移動した。

倉庫といっても、四方が塞がれた場所ではなかった。

ただワインの樽が雨に濡れないよう、屋根だけがある、四方が開けた一時的な保管場所だった。


ちょうど、そこにいた倉庫番と対面することになったのだが。

最初はワインがなくなったことを調べに来たと言うと、

「お前は何様だ?」と言わんばかりの顔をして、協力しないという強い意志を見せた。

しかし、隣にいたクラドが騎士であることを明かすと、いつ非協力的な態度を見せたのかというほど、人が180度変わった。


その姿を見て、クラドの助けを断らなくて正解だったと思う瞬間だった。


「大事な品を、こんな風に保管しておいてもいいのですか?」


倉庫番の話によると、必要な時にいつでもワインの入った樽を取り出せるよう、この方法が便利なのだという。


「これでは、誰でも簡単に盗めてしまうではありませんか。」


私の言葉に、彼は心外だというように手を振った。


「昔からのやり方だ。今まで何の問題もなかった。それに、ここにある樽一つの重さがどれくらいか知っているか? 空の樽であっても、誰にも気づかれずに持ち去るなんて不可能だ。」


でも、起きたじゃないですか。

今まで何の問題もなかったから。

これからも起こらないだろうという安易な考えが、今回の事件を引き起こしたようだけど。


「では、なぜワインの樽は残して、中身だけが消えたのですか? 普通、ワインのような酒を盗む時は、このように中身だけを持っていくものなのですか?」


私の問いに、倉庫番も納得がいかないという顔をした。


「それが分からんのだ。持っていくなら樽ごと持っていけばいいものを、なぜワインだけを抜いていったのか。栓を抜いて床にぶちまけたわけでもなく……こんなことは初めてで、どうすればいいのか……我々も困り果てているのだ。」


酒場の店員の言った通り、全部持っていかれたわけではなかった。

祭りに必要な量が著しく足りなくなっただけだ。

そして、泥棒は器である樽は残し、ワインだけを持っていったというのが、この事件の核心だった。


私は膝を曲げ、地面の土を一掴みした。

少し湿っているが、これは朝露に濡れた程度だ。

恨みを持つ者が祭りを台無しにするためにワインを流しただけだ、という仮定は除外。


倉庫番の言う通り、ワインを樽ごと持っていったのであれば、

重くて遠くへは行けなかったはずだから、見つけるのも簡単だっただろう。

しかし、簡単に犯人を見つける方法が事前に遮断されたわけだ。

犯人を見つけるには、なぜ中身だけを抜いていったのかから探らなければならなかった。


「クラドさん。」

「はい。」


私は中身を盗まれて空になったワイン樽を指差して言った。


「これを少し持ち上げていただけますか?」

「いいですよ。こうですか?」

「いいえ。もっと、注ぎ口が完全に下を向くように。中身が全部流れ出るように。」


私の要求に従い、クラドが空の樽を逆さまに持った。

中に残っている残液が流れ出てくるか確認するためだったのだが。

お茶を一杯飲むくらいの時間待ってみても、ワインは一滴も出てこなかった。


「この樽を壊してください。」

「樽を?」


不審に思いながらも樽を壊そうとするクラド。

そんな彼を見て、倉庫番が驚愕して止める。


「よせ! ワインがなくても、ここにある樽は一つ一つが金になるんだぞ!」

「代金は払います。」

「……それなら、まあ。」


金を払うという言葉に倉庫番が下がり、

クラドが樽を壊すと、隠されていた内側が姿を現した。


スッー


樽の内側だった部分を人差し指で拭ってみたが、湿り気一つ感じられなかった。

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