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14. 狂気に陥った墓守(完)

人間の魔法使いに数人しか会ったことはないが、目の前にいる人間の状態が正常ではないことくらいは一目で分かった。

魔法を使う生物から感じられる気配は、単に力の大きさだけを表すものではない。

その生物の精神状態まで内包するため、このように今にも壊れそうな暴力的な気配を持つ人間が、正常であるはずがなかった。


彼と対面しているだけで精神が汚染されるような感覚に、私は多くを語らないことに決めた。


「あなたなの? この街の人々を拉致している人間は」

「同じ道を歩む者が明け方から訪ねてきたゆえ、挨拶でも交わそうと思ったのだが、少々尖りすぎているようだな」

「私の問いに答えないのなら、肯定したと受け取るわ」

「はは、私は拉致などという低級な真似はせぬ。ただ、より優れた存在へと格上げするために手を貸しているだけだ」

「どんな詭弁よ……正気じゃないわね。今からでも、連れ去った人々を無事に戻しさえすれば、苦痛を感じる暇もないほど一瞬で殺してあげるわ」

「助けてやると言い間違えたのではないかな」

「いいえ、正確に言ったつもりよ。何を企んでいるかは知らないけれど、他人の不幸を糧に生きる人間に、施す慈悲なんてないわ」

「ならば、探してみるがよい。お嬢さんの探している者が、果たしてこの中にいるかな?」


タクン。


彼が杖を持ち上げ、地面に向かって突き立てた。

すると、地面から骨ばかりが残った亡者たちが眠りから覚め始めた。


「……」


彼らからは、恨みと憎しみがこもった濃い邪気が感じられる。

思わず眉間にシワが寄った。


「妻が花も咲かせぬ若さで亡くなってから、私は一生をここの管理人として生きてきた。そして毎晩、女神様に祈ったのだ。腹の中にいた子と、先立った妻に平穏が訪れるようにな。そんなある日、女神様が私の耳に囁かれたのだ。生命は生命でしか救えぬと! そして、大地の気配を操る力を授かったのだ」


タクン。


再び杖で地面を叩くと、今度は人を模したゴーレムが現れた。

彼がゴーレムの顔を愛でるように撫でながら言葉を続けた。


「見ろ、もう少し時間があれば、亡くなった妻がこの世に戻ってこられるのだ!」


そんなことが、可能なはずがない。


「消えた人々の中に、あなたの家族がいるの?」

「いや」

「なら、どうして私と敵対しようとする? もうこの街から人が消えることはない。お前さえ来た道を戻れば、これ以上の死者は出ないのだぞ」

「私の家族はいないけれど、約束したの。あの子に、お姉さんを見つけてあげるって」


そして私は、あの男の傍にいるゴーレムが、アーサーの姉リリーで作られたのだと本能的に悟った。

アーサーのおばあちゃんであるエマが、かつて魔法の力を失ってまで起こした奇跡でリリーを死から救ったと言っていた。

その時、エマの魔法的能力、土属性の才能がリリーへと移ったのだろう。


「惜しいな。惜しい……」


ガチャリ。


それまで人形のように静止していた亡者たちが、ようやく動き始めた。

墓地を埋め尽くした亡者たちが、私に向かって近づき始める。


何で相手をすれば、一番手っ取り早いかしら。


火属性魔法?

今まで骨を焼いたことがないので、適切ではない。


風属性と水属性魔法?

それらもまた、亡者を相手にするには向いていない気がする。

土属性魔法は、数で押してくる相手との退屈な神経戦が予想された。


私は両手を合わせ、手のひらの上に真珠ほどの大きさの白いオーブを作り出した。

小さかった珠はみるみる大きくなり、子供の頭ほどのサイズになった。

私はオーブをそっと押し上げ、空中へと浮かべた。


すると、オーブから光の矢が飛び出し、周囲を囲んでいた亡者たちを一瞬で掃討した。


基本的な属性に属さない、無属性魔法。

無属性とはいえ、その下位カテゴリーには浄化の力も含まれている。

邪気をたっぷり含んだ亡者は、この一度の魔法攻撃にも耐えられないはずだ。


「あなたは私に勝てない。今からでも罪を悔い、被害者たちに心から謝罪しなさい」

「違う! あと少しで女神様の祝福が完成するのだ! 私がここで諦めるものかぁー!!」


ゴゴゴ……


共同墓地の地面が揺れ、亡者たちが起き上がる。

だが先ほどとは違い、狂った魔法使いを中心に集まり始めた。


「今までここに葬られた者の数が、どれほどか知っているか」


亡者が彼の足元へと集まり、魔法使いはいつの間にか建物よりも高くそびえ立った。

集まった亡者たちが塊となって形を変え、ついに一つの形を成した。


ドラゴン。

間違いなく、ドラゴンの形だった。

圧倒的な巨体を、私は首を曲げて見上げなければならなかった。

自身の力量を超える高度な魔法で無理をしたのか、最初に出会った時よりもさらに老け込んで見える魔法使い。

本人は気づいているか分からないが、私がこのまま立ち去ったとしても、今日を越すのは難しいと思えるほど衰弱して見えた。


「誰も、誰も私の邪魔はさせぬ! 死ね、この魔女め!!」


巨大な足が、私を押し潰そうとする。

サイズがサイズだけに、先ほどのような魔法では無理だ。

私はここで、少しばかり物理的な力を借りることにした。


剣を抜き放った。

師匠から譲り受けた剣は、一般的な魔法の杖よりも魔力をよく通すため、焚き付けに使う時以外は魔法の杖の代用品として最適だ。


私は聖銀の剣に無属性の魔力を纏わせた。

すると、剣は夜明けよりも明るく輝き始めた。

私は構えを直し、ボーン・ドラゴンに向かって剣を振るった。


クアァンー!


たった一度の動作だったが。

その一撃で、砂の城のように崩れ去るボーン・ドラゴン。

ドラゴンの頭部に半ば融合していたゴーレムが、高い場所から落下していく。

ゴーレムの表面を覆っていた石が剥がれ落ち、その中から女性の顔が半分ほど露わになった。


私は地面へと落下する女性を魔法で受け止め、ゆっくりと地表へ降ろした。

微かだが、胸が上下している。まだ生きていた。


よかったと安堵したその時。

魔法使いとの戦いの騒動を聞きつけ、兵士たちが駆けつけてきた。


「これは一体……?」

「あ、ああ……」


兵士たちの中には、クラドの姿もあった。

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