13
私はクラドを後ろに立たせ、アーサーの家の扉を叩いた。
しばらくして、扉の向こうからアーサーの声が聞こえてきた。
「どなたですか?」
「リエン姉さんよ。扉を開けてくれる?」
「少し待ってください」
ガチャリ。
「もう、姉さんを見つけたんですか?」
一日も経たずに戻ってきた私を見て喜んでいたが、
私の後ろにいるクラドを見て、言葉を濁らせるアーサー。
クラドがぎこちなく笑いながら、アーサーに向かって手を振った。
「そうじゃないんだけど……お姉さんの後ろにいる人、見える? 頼りなさそうに見えるけど、見かけによらず騎士なの。昨日話した、騎士の友達。お姉さん、アーサーのおばあちゃんに聞きたいことがあって来たんだけど、今中にいらっしゃる?」
「おばあちゃんですか? いますよ。入ってください」
私たちは家の中に入り、アーサーがおばあちゃんを連れてくるのを待った。
しばらくして、体の不自由なアーサーのおばあちゃんが部屋から出てきた。
「こんにちは、おばあちゃん。また来ちゃいました」
今回は、アーサーに私たちの話を聞かせない方がいいと考え、お金を握らせてパンを買ってくるよう頼んだ。
「嫌です。僕も残ります」
「大人同士の話があるの」
「何事かは分からぬが、このお嬢さんの言う通りにするのが良かろう。ゴホッ」
おばあちゃんの言葉に、渋々家を出ていくアーサー。
椅子はちょうど三つあったので、皆で座れればよかったのだが……。
「そこに立って何してるの? 座らないの?」
「私は立っている方が落ち着きます」
「おばあちゃん、すみません。クラドはこういう人なんです」
「構いませんよ。それで、何の用で死に損ないの老人に会いに来たのですか?」
アーサーが出ていくと、先ほどとは雰囲気が変わったエマ。
エマから漂う雰囲気だけで空気が変わり、
以前とは全くの別人になったと信じてしまうほどだった。
その時、後ろに立っていたクラドがエマを見ながら口を開いた。
「最近、この街で人が失踪する事件が相次いでいるとのことですが、何かご存知かと思い伺いました。些細なことでも構いません、何か心当たりはありますか?」
そう言いながら、剣の柄に手をかけるクラド。
エマが良からぬ真似をすれば、今すぐにでも斬り伏せんばかりの姿だった。
私はそんなクラドの姿を見て、やめてほしいと止めることができなかった。
束の間の奇妙な静寂が流れた後、
エマが言った。
「愛する孫娘が家に戻らなくなってから、一週間以上が経ちました。孫娘が戻ってこられるのなら、老い先短い命などいくらでも差し出しましょう。ただ、ちゃんと眠れているのか、どこかで空腹に耐えているのではないか、そればかり考えると胸が張り裂けそうです。無理なお願いとは承知しておりますが、孫娘を見つけ出せるよう助けてください」
「……」
「私たちもリリーを探そうとしています。私たちだけでなく、他の人たちもです。近いうちに見つけられるはずです。そのことに関連しておばあちゃんを訪ねたのですが、私たちが調べたところによると、おばあちゃんは魔法使いだったそうですね。それがどういうことなのか、教えていただけますか?」
「……以前は、私も魔法使いでした。ですが、今は違います。アーサーの両親が亡くなった後、二人の子供を私が育てていました。そんなある日、リリーが熱を出し、医者もお手上げの不治の病にかかってしまったのです。その時、私は死にゆくリリーの手を握りながら、この子が治るのなら何でもしますから、どうか治してくださいと女神様に祈りました。その祈りの翌日、私の魔法は消え去り……代わりにリリーは奇跡のように回復したのです。おそらく、それで私が魔法使いだったという記録が残っていたのでしょう」
エマの話を聞いていた私の目には、涙が溜まっていた。
これ以上彼女の話を聞いたら、大声を上げて泣き出してしまいそうだった。
ぐすっ。
「他に土属性の魔法使いがいるか、ご存知ですか?」
空気を読めない騎士らしく、新たな質問を重ねるクラド。
しかし、クラドの問いも正当なものだった。
書類上には土属性の魔法使いはいないことになっているが、
もしかしたらエマが個人的に知っている土属性の魔法使いがいるかもしれないからだ。
届け出をしていない者がいる可能性もあるし、同じ系統同士で親交があるかもしれない。
「私以外に、心当たりはありません。ゴホッ」
だが、本人が知る限り、この街に他に土属性の魔法使いはいないという。
話しすぎたせいだろうか。
エマの咳が激しくなり始めた。
その時、扉が勢いよく開き、パンを買いに行っていたアーサーが慌てて家の中に入ってきて、エマを支えた。
「おばあちゃん! 大丈夫?」
「大丈夫だよ。少し無理をしただけだ。少し休まなくてはね」
部屋へと戻るエマ。
結局、何の成果も得られないまま、帰るしかなかった。
「魔法使いではないようですね」
「ふむ……調査の結果はそうですが、どうも私の勘は、この事件の犯人が魔法使いだと言っています」
勘?
勘が何だっていうのよ。
ここまで来ると勘の問題ではなく、
本当はクラドが魔法使い嫌いだからではないかと思えてくる。
「土属性の魔法使いはエマおばあちゃんでしたけど、魔法を失ってもう魔法使いじゃないじゃないですか」
「身分を隠している魔法使いがいるのかもしれません」
「あーもう!」
心のどこかでクラドの言葉が正しいかもしれないと思ってはいたけれど、
あまりにも露骨な彼の魔法使い嫌いに、私は久しぶりに苛立ちを覚えた。
翌日。
クラドが兵士たちを連れて疑わしい場所を捜索し始めた。
しかし、既に私たちの前に街の兵力だけで一度さらった後だったので、大した成果は得られなかった。
もし人々を拉致した犯人グループがいたとしても、既に蜂の巣をつついたような状態なので、深く潜伏しているだろうとのことだった。
その後も、捗らない捜索が続いた。
クラドも、調査は今週までにする予定だと言った。
人々が拉致されたという届け出も落ち着いてきたし、これ以上ここに時間を費やしても成果はないだろう、ということで。
その言葉に、私は数日前にクラドが言ったことを考えてみた。
本当に、正体を隠している魔法使いが実在するのかもしれないと。
正直、このままではアーサーとの約束を守れないかもしれないという思いから、何か小さな手がかりでも掴みたいという気持ちが強かった。
自分で動くことにした。
昼間はあちこちを歩き回り、怪しそうな場所に目星をつけておいた。
そして夜になってから、本格的な活動に入った。
通りに人の姿が見えない深夜。
私は空を飛び回り、昼間に目星をつけておいた場所を中心に調べて回った。
本来なら魔法がなくてもできることには魔法を使わない主義だが、今使わずしていつ使うのか。
歩くより、飛ぶ方が何倍も早く動けた。
しかし、空を飛びながら素早く街を調べ尽くしたものの、隠れている魔法使いは見つからなかった。
夜明けが近づいてきた。
このまま成果もなく戻らなければならないのか?
ふと、街の中にある共同墓地を確認していないことを思い出した。
私は素早く移動し、共同墓地の前で着地した。
普通、共同墓地といえば村の外にあるものだが、ここは古い街のせいか構造が特殊だった。
墓地の中へと足を踏み入れた。
一目見ただけで、手入れが行き届いていることが分かった。
どうやら誰もいないようだし、見当違いだったかと思った時。
「早朝から、どなたかな」
私は、この声の主が魔法使いであることを感じ取った。
その上、今まで多くの魔族を見てきたが、彼からは誰よりも暴力的な気配が感じられた。




