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私は火が嫌いだ。

師匠に出会う前、私はとある王国の辺境にある、犯罪者たちが築いた開拓村に住んでいた。


そんな私が5歳になった年、私たちの村は魔族の襲撃を受けた。

その最中、家族のために扉を塞いでいた父は、魔族の攻撃で家が燃え上がる中、その場で私たちを守り抜き命を落とした。


父が亡くなって以来、私は火が嫌いだ。

いや、正確に言えば火属性魔法なのだろう。


その炎に私も飲み込まれて死ぬところだったが、

母が私を抱きかかえて家から脱出したおかげで助かることができた。


けれど、燃え盛る家から生き延びてしまったからだろうか。

魔族たちの目に留まり、私を抱きかかえていた母が亡くなった。

私もすぐに殺されると思い、強く目を閉じると、なぜか母を手にかけた魔族とその一味の死体が周囲に転がっていた。


「生き残ったのは、お前だけか。」


それが、初めて出会った私の師匠だった。

その師匠もまた頭に角が生えた人だったので、てっきり殺されると思ったが、聞こえてきたのは想像もしていなかった言葉だった。


「寒いな。私と一緒に来い。」


そうして師匠のもとで魔法を学びながら、十年の歳月を過ごした。



前日雨が降ったせいか、道が少しぬかるんでいた。

道の状態は良くなかったが、それでも気分は良かった。

少し前に会った人から、ここからもう少し行けば聖剣が眠るという村に着けると聞いたからだ。


私が騎士や騎士志望というわけではないが、聖剣がある村が遠くない場所にあると聞いて、じっとしていられるはずがない。


それこそ女神様が授けてくださった勇者の聖剣。

聞くだけで胸が高鳴る言葉ではないか。

女なら一度は手にしたいと思うのが当然だろう。


おっと、また大きな水たまりが目の前を遮った。

私は膝を曲げて、軽く前へ飛び上がった。


パッ。


羽のような着地。点数をつけるなら10点満点中10点と言えるほど鮮やかだった。


水たまりを避けて通ることもできるだろうが。

それでは何だか負けたような気がして、どうしてもそうする気になれなかった。

女なら誰しも、一度くらい妙なことにこだわってしまう時があるのではないか? 今日がそんな日だった。


雨上がりのせいか地面は湿っているが、空気は澄んでいて空は青かった。

心地よい気分で鼻歌を歌いながら村へ向かっていると、前で困っている人に出会った。


「どうしたんですか?」


私の呼びかけに、忙しなく動いていた男がこちらを振り返った。


「雨のせいで水たまりができて、車輪がはまって抜けなくてな。」


やれやれ、この水たまりめ!

いつか大きな事故を起こすと思っていたんだ!


「手伝いますよ。」

「お嬢さんが?」


私をじろじろと眺め、頼りなげな顔をしていたが。

すぐに思い直して、私に助けを求めてきた。


「……ありがたい。じゃあ、後ろから一度押してみてくれるか?」

「はい。」


男が前で手綱を握り。

後ろでは私が力強く荷馬車の後部を押した。

だが、荷馬車に積まれた荷物が多すぎたせいだろうか?

水たまりから抜け出しそうで、なかなか抜けなかった。


雨のせいで地面に置くわけにもいかないようだが……。

木を持ってきて水たまりにはまった車輪に当ててみても同じこと。

荷馬車の重さに耐えきれず、木が折れてしまった。


「ああ、すまないな。手伝ってもらっているのに、抜ける気配がない。」

「そうですね。しっかりはまってます。もう一度やってみましょう。」


私はマントをまくり上げ、腰に下げていた鞘を外した。


「あ、いや。今、何をしようと? そこまでしなくてもいいんだ。」


折れた木をどかし、その場所に剣を差し込もうとする私を見て、驚く男。


「師匠から譲り受けた剣なので大丈夫です。」

「それなら余計にダメだ!」

「安物ですよ。荒っぽく使えと渡されたものですから……」


私は彼を安心させながら、もう一度やってみようと言った。


「これ以上遅くなると、道の上で夜を明かすことになりますよ。」


私の催促に、渋々ながら荷馬車を動かす男。

私の誠意が通じたのだろうか? 幸い、今回の試みで荷馬車を水たまりから引き出すことができた。


剣を拾ってそっと抜いてみると。

案の定、傷一つなく無事だった。


「ありがとう!」


私の手を握りしめながら喜ぶ男。

彼もちょうど聖剣がある村へ行くところだと言い、隣に乗っていくのはどうかと誘ってくれた。


「いいんですか?」

「もちろんだ! 大したお礼はできないが、これくらいはさせてくれ。」


荷馬車に乗っていくのも悪くないだろう。


「では、失礼します。」


そうして私は男の隣に座り、楽に移動した。

道中、どんな用件で次の村へ行くのかと尋ねられた。


「聖剣を見に行くんです。」

「ああ! 剣を持っていたしな。馬鹿な質問をしてしまった。君のような人でなければ、誰が聖剣を抜けるというのか。きっと良い知らせがあるはずだ。」


何か誤解があるようだが……楽しそうに話す姿に、私はあえてその事実を訂正しなかった。



村に着くと、いつの間にか日が暮れようとしていた。今日一日の宿を探さなければならなかった。

さもなければ昨日のように外で寝ることになるが、外での生活は十分すぎるほど堪能したので、今日は屋根のある場所で寝たかった。


そんな事情を説明すると、一緒に来た男が一日泊まる宿を勧めてくれた。


「君のように聖剣を見に、かなり多くの人がこの村を訪れるから、いい宿があるんだ。」


助かった。

今日は外で寝なくてもいいという事実に安堵した。

村に宿がないところもあるから、あるだけでありがたいことではないか。


彼が勧めてくれた場所へ行き、一晩泊まると伝えた後。

夕食に温かい料理を食べ、温かいお湯に身を沈めた。


翌日。

聖剣を見に行くため、私はこの村の村長と会った。


「聖剣を見に来たと?」


村長の真っ白な片方の眉が上がる。

目を閉じているのか開けているのか分からない。糸目だった。

村長の姿を見ていると、何だかここでは言葉を慎重に選ばなければならない気がした。


ただ見物して、観光がてら握ってみるつもりでここまで来たのは事実だが。

ありのままを言えば聖所に通してくれないかもしれないからだ。

そのまま帰るわけにはいかない……ここまで来たのがもったいなくてでも、必ず見て帰らなければ。


「挑戦してみたいのです。自分に資質があるのかどうかを。」


女らしい私の言葉が村長の琴線に触れたのか、木石のようだった男の顔に笑みが浮かんだ。


「行く道が険しいから、人を紹介してやろう。」

「ありがとうございます。」

「いや。わしらの仲だ、金はこのくらいでいい。」


村長が金を要求してきた。

聖剣のある場所を管理し、

案内をつけるための費用だという。


「……」


私は快く費用を支払った。

村長から紹介された私は、子供の後について聖剣があるという場所へと移動した。


「あとどれくらい行けばいい?」

「もう少しで行けますよ。」


「もう少し」という言葉を10回以上聞いた気がするが、聖剣はかなり遠くにあるらしい。


黙々と子供についていくこと1時間。

私は聖剣が眠っているという場所に到着した。


だが、どうしてだろうか。


「……人が多いな?」

「はい! 少し待たないといけないみたいです。」


それは見ればわかる。

聖剣がある場所に入るための列が長く伸びていた。

ベッドから起きるのが嫌でぐずぐずしていたら……どうやら少し遅く着いてしまったようだ。


大丈夫だ。

早起きする虫は鳥に食べられるというではないか。

もう少し待てばいいだけの話だ。


そうしてまた列に並んで1時間待った。

そしてついに私の番が回ってきた。

聖所へと繋がっている入り口に立った。


岩の割れ目の間に中へと入る入り口があったのだが、

中を覗き込むだけで足が止まるほど、陰湿な気配が漂っていた。


「頑張ってください!」

「ゴクリ。」


そうだ、ここまで来たのだから入ってみなければ。

私は私をここまで連れてきた男の子の応援を受けながら、中へと入った。


10分ほど移動しただろうか。

それまでは草一本生えていない岩ばかりだったのに、

いつの間にか風景が驚くほど変わってしまった。

広場の中央に刺さっている剣の上に、一筋の光が降り注いでいた。

空には月さえ出ていないのに、まるで月光のような柔らかな輝きだった。


「……」


花畑を通り、剣が刺さっている場所へと移動した。

間近で見た聖剣は、驚くほど平凡に見えた。

そのうえ、どこかで見たような形だったが……


頭を振った。

私がいつここに来たというのだ。

今日、聖剣を初めて見るんだ、しっかりしろ。


ふと、来てよかったと思った。

女神が勇者に授けた聖剣なのかは知らないが、

目の前にあるのが聖剣でなければ、何が聖剣だというのか。

私は芸術品を鑑賞するように、聖剣の前にしばらく立っていた。


ここにいると、何だか体が健康になるような気もするが……

あ! 私だけでなく他の人も私と同じ行動をしたんだな!

ただ剣を持ち上げれば済む話なのに、そうでなければ外であんなに長く待つ必要はなかったはずだ。

十分に目に焼き付けたから、そろそろ一度持ち上げてみてから出るとしよう。


私は聖剣の前に立ち、剣の柄を握った。

こうしていると、勇者になった気分がした。

しばし余韻に浸っていた私は、剣を持ち上げるために力を込めた。


だが。

案の定というべきか。

剣は揺らぐことなく、びくともしなかった。


まあ、そうだろうな。

私が勇者? まさか。

それでも心の片隅では、もしかしたらという気持ちがあったのだが……


「はは!」


私が勇者ではないとはっきり分かったから、それでいい。外に出るために背を向けた。

来た道を戻るために花畑を通り過ぎる際、ここに入る前にあった岩の片隅にヒビが入り、突き出ているのが見えた。


古い場所だからだろうか。

普段なら通り過ぎるはずだが、

何だか見ていて落ち着かない気分になり、

聖所を綺麗にしようという気持ちから、

私は剣の代わりに突き出た石を掴み、力いっぱい引き抜いた。


ポンッ。


小気味よく抜ける石の破片。

外に出て捨てようと決めた瞬間。


ゴゴゴ……。


私が立っている場所が、地震でも起きたかのように激しく揺れた。


ドスン。

ドスーン。


ついに聖所を包んでいる岩にヒビが入り、家ほどの大きさの岩が崩れ落ち始めた。


「!!」


このままもたもたしていたら岩に押しつぶされると思い、私は全速力で走り始めた。

入る時よりも出る時の方が速かった。


見える。

入り口が!


「うわぁぁー!!」


私は明るい太陽が照りつける光に向かって、精一杯足を伸ばした。暖かい日差しが私を迎える。

外に出た瞬間、真っ先に思ったのは「助かった……よかった」だった。


ガラガラッ。


崩れるような音に後ろを振り返った。

……私が出てきた入り口が岩に埋まり、跡形もなく消えていた。

もう少し遅れていたら、おそらく私はあそこに……


「何事だ?」

「な、何だ?」

「あの人が出てきたら聖所が崩れたぞ。」


誰が見ても明らかな異変。

この事態を引き起こした主犯が誰かは明確だった。

私だ。

どうしよう?

このまま犯罪者になるのか。

まだ食べたことのない料理もたくさんあるのに!


その瞬間。

私と一緒にここまで来た男の子が近寄ってきた。

そして私の腰にある剣へと視線が向くと、


「勇者様だ! 聖所で聖剣を! 勇者様が聖所から聖剣を持ってこられたぞ!!」


一騒動が起きた。


そして翌日。

たった一日で、王都にいる王に私が聖剣を抜いたという話が伝わった。

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