こわがりウメコ
ウメコが家に来た時、ウメコは五歳だった。
ウメコは人が怖い。
私が初めて見たウメコは、お父さんの車のトランクで体を丸めてふるえていた。
ウメコは保護犬で人間の事を怖がっていた。
首輪にリードを付けて庭に出してあげると、グイグイと私をひっぱって、庭の隅に体を隠してしまった。
庭の壁に取り付けた輪っかにリードを開閉するリングでくっつけて、私は家の中に入った。
家の中から隠れてウメコの様子をうかがう。
ウメコは恐る恐る庭の隅から出てくると、縦長の大きな白い鉢植えの裏に隠れた。
夕方になると、私は餌入れにドッグフードを入れて、庭に置いた。
ウメコは気になるのか餌入れに近寄ったが、ドッグフードを食べない。
私はウメコから離れて背を向けて座った。
ウメコは遠慮がちに少しづつドッグフードを食べた。
ウメコがドッグフードを食べ終わると、玄関の横のスペースに設置した犬小屋にウメコをつないだ。
ウメコは犬小屋に隠れるように入った。犬小屋はウメコのために新しく買った物だ。
ここには昔、この家で飼っていた前犬が暮らしていた。前犬は野良犬で、ある日、家の庭にやって来て、飼い犬のように堂々と寝ていた。人間に馴れ馴れしい、ウメコとは真逆の性格だった。
次の日、私はウメコと散歩に行った。ウメコは散歩には積極的だった。ウメコはコンクリートに体を擦り付けるので、ハーネスが一週間でボロボロになった。
ウメコは車が怖い。
散歩で車が近づくとウメコは逃げようとする。車がブロロウと大きな音をたてると、ウメコも大きく反応する。それもなぜか道路を横切って反対に逃げようとするので危ない。
ウメコは体重十キロほどの中型犬だ。ウメコが力いっぱい引っ張るとかなりの力だ。私はそれに負けず、ウメコが道路に出ないように引っ張る。車が通るたびにウメコとの綱引きが始まる。散歩の時は丈夫な鎖のリードを使うことにした。
ウメコが来てから数日後、その日はウメコが家に来てから初めての雨だった。
家の中にいた私はウメコの犬小屋の方からバキバキと音がしたので見に行った。
ウメコは犬小屋の周りにある格子状の木の柵に穴を開けて、柵の向こう側に出ていた。雨に打たれて濡れたウメコは、不安そうな顔で私を見た。
ウメコは雨が怖い。
ザーザーと降る雨で濡れたウメコの体をふくために玄関にウメコを入れた。
玄関のタイルに、前犬が使っていた毛布を敷き、私が座るとウメコはふせをして、私の足に顎を乗せてきた初めてウメコからの信頼を感じた。
その日から、雨の日はウメコは玄関ですごすことになった。家の中でウメコは雨の音に少しずつ慣れていった。
しかし、ウメコは突然暴れ出し、壁紙や毛布に噛みつきビリビリにした。
ウメコは雷が一番怖い。
ゴロゴロと雷が聞こえると、ハァハァと息遣いが荒くなり、口から長い舌をダラリと出す。舌の先からヨダレがポタポタと落ちるが、ウメコはお構いなしだ。
私が横で「大丈夫だよ」と体をさすっても、ビシャーンと雷が落ちると、それどころじゃないと言わんばかりに暴れる。
雷が鳴り始めると、ウメコは耳をピンと立てて、玄関の外を見る。雷が落ちると、玄関から家の奥に行こうと、リードを限界まで引っ張る。フローリングをまるでロッククライミングをするように、足の爪をたてて掴み、さらに口でフローリングを噛んで、リードの限界より前に進もうとする。
私はウメコの体にしがみ付き、フローリングに噛み付くウメコを引き剥がす。
私がウメコを家の奥に行かないように、ウメコの前に座ると、ウメコは私を登って奥に行こうとする。私はウメコを抱き止めて、体をさすってあげる。
夜遅くに雷が止むと、ウメコは警戒し玄関を見ながらふせる。私は疲れ果てて玄関に持ってきた毛布にくるまって眠る。ウメコは私にくっつかない。人に触れながら眠りたい犬ではないのだ。
次の日、晴れた庭でウメコは走り回る。私はウメコの元気がない時を見た事はない。楽しい時も怖い時も元気いっぱいだ。
私はそれが一番嬉しい。




