第6話 これは悪夢なのか?
俺の結論は間違っているはずだ。
そう。
ありえない。
俺の許嫁は天才くのいちで、とんでもない
そんな彼女が、放課後に裸で歩いていたぽっちゃり女子……?
いや、これは悪い夢だ。
こんなことが現実なわけがない。
「おい、どうしたんだ!?」
親父の声だ。
だけど、なぜだ?
遠くから聞こえる気がする。
「おい、おい!」
あ、さらに遠くへ行く。
いや、違う。
俺が遠くへ向かっているのだ。
「御手、戻ってこい!」
「はっ!」
天井。
見知った天井だ。
ここは我が家のお茶の間か。
なぜ俺は倒れているのだ?
「親父、俺は一体……」
「突然泡を吹いて倒れたんだ」
「あ、ああ。そうだったのか……」
「もう大丈夫なのかい? まだ寝ていても――」
「いや、問題ない」
どうやら、自覚していた以上にショックを受けてしまっていたようである。
「御手くん、大丈夫?」
「島田さん……」
あれほど親父に『粗相をするな』と釘を刺していたのに、この体たらくだ。
本来なら腹を切るべきであるが、 ご婦人方に見せるのは刺激が強すぎるだろうか。
「なんでそんなにショックを受けたんだい?」
「それは……」
どう説明したものだろうか。
どれだけあがいても角が立ってしまう気がしてならない。
いや、そうか。
まだ彼女が本当に許婚なのかは確定していない。
状況証拠しか揃っていないのだ。
まだ誰も明言していないのならば、俺の思い違いの可能性も存在するのではないか。
「親父、まさかこの簀巻きにされている人物が、俺の許嫁だとは言わないよな?」
「彼女が御手の許嫁だよ。とってもかわいいだろ?」
一縷の希望、秒殺である。
たしかに紙透明麻絵の顔は母親似でかわいらしい。
しかし、肉体はあまり好みではないのだ。
「ねえ、ママ、わたし、イヤです」
我がぽっちゃりムチムチ許嫁よ。
それだけ頬を膨らませる気持ちは理解できるが、ハリセンボンのようになっているぞ。
「えっと、明麻絵ちゃん、どうしちゃったの?」
「こいつ、身長が低いから」
「明麻絵!」
「………………」
完全に拗ねている。
まあ、俺もおおむね同意見なのだが。
しかし、このまま険悪なムードでご破産になってしまえば、両家の間に溝ができてしまう。
なんとかして軟着陸させられないものだろうか。
「あの、顔合わせは後日に改めて、というのはどうだい?」
ナイスだ、親父。
考える時間ができるのは有難い。
「後日でもわたしの気持ちは変わりませんから」
「もう、どうしたの。昨日までは乗り気だったでしょ。なんで突然……」
「陰陽師だから高身長イケメンだと思ってたんだもん。こんな筋肉質な男は予想外すぎます」
同感だ。
こちらも天才くのいちと聞いていたから、もっとスレンダーな女性を期待していたのだ。
裏切られた気分である。
「見た目だけで判断しないの。アニメじゃないんだから」
「……」
「都合の悪い時ばかり黙らないで。全く、明麻絵はいつも……」
いくら美しい女性でも、母親なのだなぁ。
自然と親しみが湧いてくる。
「…………」
おい、許嫁(仮)。
なぜこちらを見ているのだ。
にらめっこなら相手になるぞ?
「ねえ、一体何があったの?」
「だって、こいつ。わたしの裸を見ても、おっぱいを触っても、全然反応しなかったんですよ。許せるわけがない」
「……へ?」
ふむ。
なるほど。
そう来るわけか。
完全に空気が凍り付いているではないか。
まるで極寒の山奥に放り込まれたようである。
「御手、本当なのかい?」
「事実である。申し開きのしようもない」
この許嫁はなぜ、今暴露したのだ。
まあ、それは一旦置いておき。
……さて。
我が家に腹を切るのに適した刃物はあっただろうか。




