第53話 突撃! 我が家の地下洞!
入り口はあっさりと見つかった。
お風呂場の床に、人が5人も入れそうなほどの大穴が開いていたのだ。
なぜ今まで、このようなものがあるのに気づかなかったのだろうか。
いや、ぬらりひょんの居場所に確信を持てたからこそ、見えるようになったのか。
穴の奥底からは、かすかに音が漏れ聞こえている。
妖怪たちの声だろうか。
親父秘蔵の酒が全てなくなっていたから、ずっと宴をしているのかもしれない。
潜伏している数は200以上だろうか。
「準備はいい?」
「ああ」
突入するのは、俺と親父だけ。
白雪さんたちも手伝うと手を挙げてくれて嬉しかったが、単純にこの人員が最適なのだ。
「いいかい。ぬらりひょんの相手は御手がするんだ」
「……親父の方が適任だろ」
昨夜も言われたが、俺はまだ納得できていない。
たしかに、俺は多数の妖怪を相手にするのは不得手だ。
しかし、だからといって1対1でぬらりひょんと戦えるわけでもない。
あいつには透明人間が見えるメガネですら効果はないのだ。
「大丈夫だ。御手なら間違いなく勝てるよ」
「なぜそう言い切れる?」
「ちょっと耳を貸して」
なんだ?
少し悪戯っぽい表情を浮かべているではないか。
ここで冗談を言ったらぶん殴るぞ。
「――――――」
その言葉を聞いた瞬間、俺の口角が自然と吊り上がった。
「くくっ。確かにその通りだ。間違いない」
「絶対に勝てる気がしてきたんじゃないかい?」
「ああ。負ける気はしない。たしかに、俺なら――いや、俺だからこそ勝てる」
「そうさ」
不安がないわけではない。
しかし、かなり気楽になった。
「じゃあ、突撃だ」
「ああ」
俺のメガネには暗視の機能もついており、暗闇でもよく見える。
まず俺が穴の中に入り、状況を確認する。
一反木綿が見張りをしていたが、叫び声が上がる暇もなく鎮圧。
周囲の様子を確認すると、アリの巣のようにいくつかに分岐した洞窟になっていた。
「これは埋め立てるのが大変だぞ」
「他人の土地じゃなくてよかったよ」
「まったくだ」
これほどの穴を掘るとは、かなりの力を持った妖怪が複数いるのではないだろうか。
「じゃあ、すぐにやっちゃおう。御手、念のため息を止めておいてね」
親父は早速、小さな壺を取り出した。
蓋を開けるとどす黒い色の煙が立ち込めて、洞窟の奥へと流れていった。
そして、木霊する悲鳴。
妖怪の苦しむ声。
こいつらは、白雪さんたちと同じ妖怪だ。
だが、悪党である。
容赦する理由はない。
突如、火車が洞窟の奥から飛び出してきて、親父に襲い掛かった。
「たすけ――っ!」
だが、親父が札から出した白い虎の式神が丸のみにしてしまった。
「……これで大体は片付いたんじゃないかな?」
洞窟の奥から、もう声は聞こえない。
恐ろしさを感じてしまうほどに静かになってしまった。
洞窟の奥底は見るも無残な光景になっていることだろう。
「相変わらずおそろしいな」
「穴倉に籠っている方が悪いよ。毒攻めぐらいは想定するべきだったね。ここらへん一帯は自分の土地だから、汚染を気にしなくてよくて楽だねー」
「ぬらりひょんは流石に片付いていない……よな」
「ピンピンしてるみたいだね。というか、ぬらりひょんとかの人に近い妖怪や人間には効果がない毒だからね。そうじゃないと、明麻絵ちゃんにも影響が出ちゃう」
「……そうだったな」
親父はいつも派手なことをしない。
最小限の力で、最大限の被害を与える。
もはや陰陽師というより忍者である。
「――っ!」
次の瞬間、音が響いた。
洞窟の奥底から、何かが近づいてきている。
そいつらはゆっくりと姿を現した。
悪鬼。
牛鬼。
天狗。
妖狐。
毒をくらっても平然としているやつら。
おそらくは著名な妖怪の子孫などだろう。
そこらへんにいる妖怪の比ではない威圧感を発している。
それが4匹。
「おっと、出てきたみたいだね。大物たち。さてはて、ハリキリますか」
こいつらは親父が相手をする。
俺は――
「親父、ぬらりひょんはどこにいる?」
「あっちだね。僕が道を作る。あとは一本道だ」
親父が指さした先には、ひとつの小さな穴があった。
他の穴に視線誘導されるような配置になっており、実にあいつらしい。
「明麻絵は?」
「その奥だね」
「了解だ」
つまり、ぬらりひょんは明麻絵を守り、同時に逃がさないように立っているわけか。
「親父、ラブレターを燃やすんだからちゃんと生きていろよ」
「……今ちょうど、死にたくなってきたよ」
「朗読しないだけ感謝してほしいものだ」
「やめてくれっ! それだけは後生だからっ!」
「じゃあ、しっかりと生きることだな」
「……御手もね」
「ああ」
親父が式神を出す。
白虎に引っ張られ、俺は一瞬で目的の洞窟へとたどり着いた。
背中越しに、戦闘の音が響いてくる。
穴が倒壊してしまいそうなほどの衝撃。
しかし、振り返る必要はない。親父なら問題はない。
「もう少しだ」
この先に、あいつと明麻絵がいる。




