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第52話 怒りを通り越して笑いがこみあげてくる

 いくら覚悟を改めたとしても、事態が好転するわけではない。


 白雪さんのおかげで目が覚めた日から、すでに3日が過ぎている。

 いまだにぬらりひょんと明麻絵の居場所は掴めていない。


 すでに、かなりの時間を浪費してしまっている。


 だが、信じるしかない。

 明麻絵を。

 そして、親父の言葉を。


 親父は言っていた。

 俺と明麻絵の両親が生かされているのだから、明麻絵が殺されるようなことはない、と。


 ぬらりひょんが我が家を急襲してきた日。

 俺は親父のおかげで妖怪の群れから脱出できたが、親父は違和感を覚えていたらしい。

 あまりにも俺のケガが少なすぎたのだ。

 

 本気で殺す気なら、俺の手足の一本ぐらいはなくなってもおかしくなかった。

 そうならなかったということは、妖怪たちは俺を殺す気はなかったということ。

 ぬらりひょんの命令だったとしか考えられない。


 ならば、なぜぬらりひょんは俺を生かしたのか。


 人質だ。

 俺や明麻絵の両親の命は、明麻絵を従わせるための材料にすぎない。


 逆説的に、ぬらりひょんは明麻絵を殺すつもりはない、ともとらえられる。


 そう。

 俺が人質なのだ。



「……ふざけるなよ」



 ぬらりひょん。

 すぐに後悔させてやる。

 俺は生きている限り、絶対にあきらめない。


 明麻絵と再会するまで突っ走ってやる。


 ……まあ、停滞してしまっているのだが。



「……はぁ」



 親父の探知範囲は常に広がり続けている。

 おそらく、周辺の市区町村はすべてカバーできている。

 かなり遠くへ行ってしまったのだろうか。


 ……いや、あの大量の妖怪を引き連れていたとすれば、そこまでの大移動はできないはずだ。



「…………」

 


 何かを、見落としている気がする。

 重大ななにかを。


 だがしかし、それがどうしても掴めない。

 のらりくらりとかわされて、すり抜けていってしまう。



「コンビニでも行くか」



 このような時こそ気分転換に限る。


 家が崩壊してしまったことで金に余裕があるとは言えないが、息抜きは重要だ。

 また疲労と焦燥のあまり、我を忘れるヘマはしたくない。


 ……そうだな。

 どうせなら我が家の近所のコンビニに出向くとしよう。


 家が崩壊してから一度も顔を見せていないため、馴染みの店員が心配しているかもしれない。



「あ、御手くん! 無事だった!?」

「ああ。心配をかけてすまない」

「お父さんも元気?」

「ああ。元気にしている」

「大変だったわねー。ガスが爆発したんですって?」

「古い家だったから仕方がない」

「家が壊れたのに冷静でいられるなんてすごいわねー」



 相変わらず愛想よくてエネルギッシュな中年女性である。



「えっと、それでね……」



 なにやら突然歯切れが悪い。

 俺に何かを言いたいんだろうか。

 

 

「なにかあったのか?」

「……えっと、ごめんね。こんな時に」

「いや、大丈夫だ」



 あまり時間を取られないなら問題はない。



「最近、よくお弁当が盗まれていて……」

「……ふむ。警察には連絡したのか?」

「それが、監視カメラの映像がおかしくて……」

「おかしい?」

「見た方が早いから」

「俺に監視カメラを見せていいのか?」

「店長には秘密よ?」



 カメラの映像を見ると、弁当は浮いていた。

 

 なるほど。

 それで俺に相談してきた理由が理解できた。


 超常現象だから、陰陽師に見てもらいたかったのだ。

 


「これは、俺たちの仕事だな」

「やっぱりそうなの?」

「すまない。すぐには対応できないが、落ち着いたら必ず顔を出そう」

「ありがとう。ごめんね、大変な時に」

「構わない」

「ほら、お礼にサービス♪」



 ホットスナックのチキンを渡されてしまった。



「いいのか?」

「いいのいいの。店員だって裏でこっそり食べてるのよ?」

「……ありがたく受け取っておこう」



 コンビニを後にして、考える。


 チキンをもらえたのはありがたいが、なぜいきなり妖怪が万引きをするようになったのだろうか。

 島田家が倒壊して、その隙を狙っているのだとしたら腹立たしいことこの上ない。


 いや、この問題は後回しにすべきか。


 

「……ふむ」



 せっかくここまで来たのだから、崩壊した我が家に寄って、親父のラブレターを回収するとしよう。

 あの親父、いざという時に隠すだろうからな。

 明麻絵を助けてすぐに燃やせるし、ちょっとした願掛けの意味合いもある。


 そして、倒壊した我が家に入って、すぐに気づいた。


 倒壊した時よりも荒れている。

 いや、荒らされているのだ。


 通帳や権利書などは回収済みだから、あまり重要なものは残っていない。


 しかし、念のため状況を把握しておくべきだろう。



「……母さんの和服がない」



 母さんの仏壇の横に飾っていた和服が消えていた。

 たしかに高値のものだが、あれほどかさばるものを盗むか?


 それほど大規模な空き巣だったのか?

 

 ……いや、それならテレビや冷蔵庫なども盗まれていてもおかしくない。


 ピンポイントで和服だけ盗まれている。

 それはなんでだ?


 誰かに着せるため?

 いや、そんなことがあるわけ――

 


「……いや、待て」

 


 近所のコンビニで、妖怪による弁当の盗難が頻発していたのだ。

 和服も妖怪が盗んだ可能性もある。


 ……いや、その可能性が高い。

 足跡が残っているのだが、明らかに人間のそれではない。


 なぜ妖怪が和服や弁当を盗む?

 どちらも、異形型の妖怪には必要のないもの。


 まるで、妖怪が人間の世話をするために盗んでいるような――


 

「…………そうか」



 突如、頭の中で繋がった。

 すぐさまスマホを取り出し、親父の電話番号を呼び出す。



「親父」

『どうしたの?』

「どうして気付かなかったんだろうな」

『何かあったの?』

「あいつ随分ふざけたことをしている」

『…………』



 親父は黙って、俺の次の言葉を待っている。

 雰囲気で察してくれたのだろう。




「ぬらりひょんとは『他人の家に入り浸っているのに気づかれない妖怪』。そうだろ?」

『そうだね』

「妖怪の総大将としての力は本質ではない。他人の家にいる。その状況でこそ、ぬらりひょんが最も力を発揮できる」

『……』

「では、俺たちを欺くのに最適な隠れ場所はどこだ? あいつは本当に逃げた(・・・)のか?」

『…………』



 沈黙。


 親父はきづいたようだ。

 今現在、答え合わせをしているのだろう。



『………………御手』

「当たりか?」

『ビンゴだよ。全く、奴はどれだけっ!』



 突然。

 親父は笑いだした。

 こんなに大きな声で笑っている姿を見たことがない。


 

「……ぬらりひょん」



 俺も思わず笑ってしまいそうだ。

 全く面白くない。

 今すぐぶん殴ってやりたい。


 それなのに、俺の表情筋が笑いの形相を作り上げていく。

 


「どこまでもおちょくりやがって……!」



 ぬらりひょんは、我が家の地下に潜伏している。

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