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第49話 あのぷにぷにな腹が恋しい 中編

 ここはトンネルだろうか。

 薄暗く、すぐ近くを自動車が通る轟音が聞こえる。


 あれ?

 なんで俺は目を覚ましてるのだ?


 まさか、寝てしまって―――――っ!

 

 

「明麻絵はっ!?」



 今すぐ探しに戻らなければっ!

 1分でも、1秒でも。

 この時間のせいで後悔などしたくない! してたまるかっ!

 


「御手」



 背後からの、声。



「ごめんね。明麻絵ちゃんはまだ見つかってない」

「……親父」



 親父は、ずっと流れていく車を見つめているだけで、顔を見せてくれない。



「御手くん、大丈夫?」

「……白雪さん」



 そうだ。

 俺はタクシーに乗ってきた白雪さんに眠らされて、ここに連れてこられたのだ。




「俺はどれくらい寝ていた?」

「3時間ぐらいかな?」

「……そうか」



 3時間。

 その時間で、どれだけの場所を探し回れただろうか。


 もし、この3時間のせいで、明麻絵が見つからない未来になってしまったら……。


 

「ねえ、何か飲む? 色々と買ってきたんだけど、おもしろい新作が出ていてねー」

「…………放っておいてくれないか」

「……え?」



 体は動く。なら問題はない。

 俺はまだやれる。



「少し頭がスッキリしたのは感謝している。だが、邪魔はしないで欲しい」

「邪魔って……」



 白雪さんのことは好きだ。

 明麻絵とも仲良くしてくれていて、かなり見た目とのギャップがあるが、いい人だと思っている。


 だが、俺にも譲れないものがあるのだ。



「御手。その言い方はないんじゃないかい?」

「……親父。俺はもう行くぞ」

「ダメだ。ここでちゃんと休むんだ」

「……親父はこんなところで何をしているんだよ。ここはただのトンネルだろ」

「ちょっと休憩しているだけだよ。宅島さんの奥さんが料理を振る舞ってくれると言ってくれたから、甘えてね」



 そうか。

 このトンネルは宅島夫妻の家(?)だったのか。

 ということは、白雪さんが乗っていたタクシーは宅島さんが運転していたのだろうか。


 いや、それよりも休憩……だと……?



「…………何してんだよ」

「急いでも仕方ないよ」

「この間にも、明麻絵がどうなっているか」

「大丈夫だよ。彼女はそんな簡単に」



 ぬらりひょん。

 その言葉が、異様に琴線に触れて、頭にカッと熱いものが流れ込んできた。

 

 

「親父はいつも何考えてるかわかんねえんだよっ!」



 トンネルの中にいる影響か、 何重にも木霊(こだま)する叫び声。


 

「親父にとっては、明麻絵なんてどうでもいいんもなぁ!?」

「そんなことはないよ。彼女は御手の大事な許婚だから」

「そもそも、なんで明麻絵が俺の許婚なんだよっ! 最初から知ってたんだろ? 明麻絵がぬらりひょんの血を継いでいることを!」

「ああ、知ってたさ」

「ふざけるなよっ! そんな相手を許婚にするとか、頭おかしいんだろ!?!?」



 母親の仇の血を継いでいるんだぞ。

 許せない。

 愛せるわけがない。


 ぬらりひょんは、俺の目の前で母さんの顔をつぶしたんだ!!!

 


「じゃあ、御手はなんでそんなに必死になって明麻絵ちゃんを探してるの?」



 ………………。


 口が開かない。

 言葉が何も浮かんでこない。

 


「俺は……」



 考えることがない。

 呼吸を忘れるほど、頭を回そうとしているのに。


 頭が痛い。

 肺が痛い。


 それなのに、全身の感覚が無くなっていく。

 

 

「俺、何してるんだろうな……何をしたいんだろうな……」



 ああ。

 わかった。

 わかってしまった。


 俺は考えたくなかったんだ。

 少しでも考える暇がないように、自分を追い込んでいたんだ。

 

 明麻絵。


 彼女はぬらりひょん――母さんの仇の子孫。

 憎くないはずがない。

 

 だけど、俺は彼女のことがどうしようもなく、好きになってしまった。

 彼女を失うのが怖いのも本当で、死んでほしくなくて、笑顔でいて欲しくて、あの温もりを感じたくて――



「俺は、どうすればいいんだよ……」



 誰に答えを教えてもらっても、俺は納得できないだろう。

 それでも、答えが欲しいと思ってしまう。

 


「あいつの願いだったんだよ」



 親父の口から出てきた声は、父親の声ではなかった。

 ひとりの女性を思い続ける、男の声だ。

 

 

「あいつ……?」

風花(ふうか)だよ」

「母さんの……?」



 島田 風花。

 それが母さんの名前だ。

 


「俺たちの時代は、妖怪と陰陽師のいざこいが絶えなくてね。妖怪が殺人を犯すことも珍しくなかった。それでも風花は『いい妖怪もいるから』って、彼らに手を差し伸ばすような女性だったんだ」



 知っている。

 妖怪が人間社会に溶け込む手助けをしたのが親父で、そのせいで陰陽師協会での立ち位置が悪くなったことも。


 

「そんな彼女が嫌いだったんだけど、何回か喧嘩しているうちに魅力に気づいて、恋に落ちて……」



 何度も聞いた、ノロケ話。

 だけど、今はうすら寒い。



「御手が生まれた日、風花が言ったんだ。『この子が人間といい妖怪の架け橋になってくれたら』って。だから、同時期に生まれた明麻絵ちゃんと許嫁にしたんだ。その後、風花がぬらりひょんに殺されることになるなんて……」

 


 いや。

 


「それだけじゃないだろ。明麻絵の母親と、親父。どういう関係だったんだ?」

「……あいつは察していたんだろうな。すごく強くて素晴らしい女性だったよ」



 明言しない態度が、全てを物語っている。


 

「だからって……」



 母親の願いだからって。

 妻の願いだからって。

 


「ダメ、だろ……」



 明麻絵。ぬらひょん。親父。母さん。


 笑顔も、絶望も、焦燥も、幸せも、思い出も、将来も……。


 全部全部、混ざり合ってグチャグチャになって、俺の脳をドロドロと重く苦しくしていく。



「…………親父。どこかに行ってくれ」



 もう、イヤだ。

 


「今、親父を嫌いになりたくない……」



 考えるのが怖い。

 忘れたい。

 消え去りたい。

 消え去って欲しい。


 立ち去る親父の足音がひどく重い。

 聞いてられなくて、俺は自分の耳をひたすら塞いだ。

 ああ。


 このまま目を覚まさなければ――



 …………………………

 ……………………

 ………………

 …………



 


 

「…………なに、甘えたこと言ってんだよ」



 ドスのきいた声が鼓膜を揺らした瞬間、細胞が凍り付くような悪寒が全身を突き抜けていった。

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