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第41話 料理下手はどこまでファンタジーでもいい

 料理とは科学である。


 焼く。

 煮る。

 蒸す。


 どのような料理方法でも、それはすべて化学反応であり、かならず再現性がある。

 ゆえに、料理には奇跡や超常現象が介在する余地はないのだ。


 そのはずなのだ。


 今現在、俺の目の前では、フライパンから黒い泥のようなものがあふれ出ている。

 しかも、スライムのようにうごめいているように見える。


 なぜこのようなことになってしまったのだろうか。

 俺はただ、明麻絵と一緒にハンバーグを作ろうとしただけなのに……。



「す、すみません……」

「な、何をしたんだ……?」

「ちょっとお水を入れて蒸し焼きにしていただけなんですけど……」

「こうはならないだろ……?」

「わたしにだってわかりませんよぉ。わたしのハンバーグ……」



 まあ、すでに起きたことは仕方がない。

 

 それにしても、この黒い泥はどのように片づければいいのだ。

 動いてるし何か話しているし、不気味すぎる。

 

 水道に流すわけにもいかないし、燃えるゴミとして出すのも危ない気がする。

 庭先に埋めるのも怖いな。

 もう面倒だから親父に押し付けよう。



「とりあえず、サラダでもつくろう」

「は、はい……」

「大丈夫だ。サラダなら失敗する要素はない」



 野菜を切って、ドレッシングをかけるだけだ。

 それだけで何かが起きるわけ――



「なん……だと……?」



 一瞬目を離しただけで、サラダから葉っぱのキマイラみたいなのが生まれているのだが。


 

「……すみません」

「どうなってるんだ……」

「わたしにもわからなくて――」

「さっきから騒がしいけど、どうしたんだい?」

「あ、親父。すまない、不可解な現象にみまわれていてな」



 親父なら、何か知っているかもしれない。



「おおー。これはすごい。道具の素材に使えそうだ」

「どういうことだ?」

「妖怪に近い存在になっているね。さすが明麻絵ちゃん」

「わたしにそんな力が!?」



 つまり、明麻絵は料理をするだけで妖怪を生み出しているのか?

 料理下手という次元ではないぞ。


 まあ、この問題は後回しだ。

 明麻絵が腹ペコのあまり、冷蔵庫を漁ろうとしはじめている。



「親父。夕飯はもう少しかかりそうだ」

「どうせなら、外に食べにいかないかい?」

「それも悪くないな」

「やったー。わたし、ラーメンが食べたいです」

「じゃあ、決まりだね」



 俺の口はハンバーグで決まっていたのだがな。

 まあ、失敗したが、明麻絵も頑張ったのだ。彼女の意見に合わせよう。



「じゃあ、早速いこうか」

「歩きか?」

「たまにはいいじゃないか」

「そうだな」



 親父がいるだけで最高の警備になるだろうし、俺に異論はない。

 


「明麻絵ちゃん、今日は問題はなかったかい?」

「大丈夫でしたよ。御手くんとちょっと決闘しただけで」

「おや、それは意外だ」

「俺が弱いと言われたからな」

「ああ。明麻絵ちゃんから見たら、御手はちょっと弱いかもね」

「それがなんと、わたしは負けちゃったんですよ。亀甲縛りに執着しすぎちゃって」

「はっはっは。明麻絵ちゃんはおもしろいなぁ」



 こうやって歩きながら話すのも、悪くないな。

 明麻絵が来る前と比べて、親父と話すことも増えたと思う。



「あ、そうだ。御所さん」

「なんだい?」

「御手くんにあの話を伝えてもいいですか?」



 あの話?


 

「明麻絵ちゃんはいいのかい?」

「はい。話したいんです」

「僕から伝えてもいいけど」

「あの、わたしから話さないといけない気がするんです」

「……そうかい。やっぱり、君はあの人の娘だね」



 あの人とは、おそらく明麻絵の母親のことだろうか。


 

「御手、彼女の話をちゃんと聞くんだよ」

「わかっている」

「明麻絵ちゃんは、自分のトラウマについて話してくれるんだ。それがどういう意味かわかるかい?」

「……俺を信じてくれている」

「そうだ。その信頼はとっても大事で、尊いものだけど、簡単に壊れてしまう」



 親父の真剣な表情なんて、何年ぶりに見ただろうか。


 

「ああ。肝に銘じておこう」

「僕はそれで、失敗したことがあったから」

「……そうか」



 深く尋ねる必要はないだろう。

 親父が後悔して、過去の自分を俺に重ねているのだ。



「親父が百鬼夜行を退けた時のことか?」

「そうだね。色々あったんだ」



 親父はいつも、自分の昔話や俺のお母さんの話をしようとしない。


 ただの武勇伝なら、親父は嬉々として何回も語り聞かせただろう。

 何か思い出したくないようなことがあったのかもしれない。

 


「……ああ、わかった」



 今、親父には俺しかいない。

 俺にも親父しかいない。


 だからこそ、踏み入る気にはなれない。


 

「まあ、御手なら大丈夫だと思うけどね」

「そうか?」

「自慢の息子で、僕よりよっぽどしっかりしてるからね」

「……そうか」



 親父も明麻絵も、俺を信じてくれている。

 それだけで心が温かい。


 

「お、着いたよ」

「ラーメン!」



 親父は塩ラーメン。明麻絵は札幌みそラーメン。俺はチャーシュー麺を注文したが、こっそり2人のどんぶりに俺のチャーシューをこっそりと入れた。

 おいしそうに食べる2人を眺めているうちに、少し麺が伸びてしまったのだが、なぜか人生で一番おいしく感じた。

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